2. 『モンスターハンター』流おもてなし
岩田
画づくりに関して、テーマや目標としては
どんなものがあったんですか?
藤岡
いちばん最初はやっぱり、
Wiiでつくった『3(トライ)』の映像表現が
どこまでいけるのか、というところからでした。
当然、据置機との解像度の差はありますので、
それをどこまで再現できるか、という・・・。
岩田
脳の中のイメージに
どこまで近づけるか、ですね。
その点に関しては、
とても攻めている印象を受けました。
藤岡
ハードのプレゼンを受けたときに、
映像表現においてのエフェクトであったり、
セルフシャドウ(※5)などのサポートに関して、
興味深くお話を聞いたんです。
岩田
3DSは、シェーダー(※6)系はわりと、
いろんなことができる仕組みなんですよね。
藤岡
ええ、そういったサポートがあるだけでも
だいぶ印象が変わるだろうとは思っていたんですが、
実際には想像以上の効果がありました。
モンスターと世界がなじむ感じというか、
存在感たっぷりに表現されているので、
画のトータルクオリティは上がっている気がします。
岩田
この間の任天堂カンファレンス(※7)や
ニンテンドーダイレクト(※8)の際に、
実際の3D映像を『ニンテンドーeショップ』(※9)で配信したんですが、
あれをご覧になったお客さんは、
「なるほど、こんな風に見えるんだ」って
納得していただけたんじゃないでしょうか。
藤岡
いままでずっとこだわって積み上げてきたものが
良い形で表現しきれたと思ってます。
細かいですけど、やわらかい光と影や
硬質な金属表現といったところまで、
細かくいろいろな表現を入れることができているんです。
岩田
据置機に迫り、ある意味では
それを超える表現に挑戦しているわけですよね。
仕上げてみての、手応えはどうですか?
藤岡
かなり、いいところまで
表現できたと思っています。
岩田
そうなんですね。楽しみです。
さて、『モンスターハンター』といえば
毎回どんなモンスターが出るのかが話題ですが、
モンスターはどのように
生み出されているんですか?
藤岡
まず開発が始まるときに、
パッケージに載る代表的なモンスターを
必ず1体最初に決めるんです。
それが新しいタイトルの顔になります。
『3(トライ)』のときは、
水中をフィーチャーしたかったこともあって。
海竜のラギアクルスをつくりました。
岩田
今回の「G」はどうなんですか?
藤岡
今回の新モンスターはブラキディオスっていう、
すごく直線的なモンスターなんです。
「G」は毎回、つくり手としては直球勝負で、
やりたいこと全部入りで
ぶつかっていく感じでつくっていくんですが、
ブラキディオスも駆け引きナシで、
まっすぐ攻め込んでいくようなモンスターにしたくて
かなり早くからデザインを詰めていきました。
岩田
辻本さんは、
どんなリクエストをしたんですか?
辻本
まず『3(トライ)』が水中イメージだったので、
その対極のイメージで、というところからですね。
それで色味的にも映えるモンスターで、
デザインは直線的なイメージがいいだろう、と。
『3(トライ)』のモンスターは
比較的スマートな感じが多かったんですが、
今回はもっとガッツリというか、
直球でいこう、という話をしまして。
藤岡
ブラキディオスをはじめとして、
今回、『3(トライ)G』に登場するモンスターたちは、
かなり濃いめの顔ぶれですね(笑)。
岩田
プロモーションビデオや
3D映像をご覧になったお客さんは、
きっと衝撃を受けたんじゃないかと思います。
「えっ、これ全部入ってるの!?」っていう
感じだったと思います(笑)。
藤岡
すごく大きな反響がありました。
携帯機ですし、パッと見だけでわかりやすく
インパクトあるシルエットだったり、
「G」の名にふさわしい直球のイメージが
うまく伝えられたんじゃないかと思います。
岩田
新モンスターのブラキディオスは、
どんなモンスターなんですか?
藤岡
火山に生息する砕竜で、
地面に、時限爆発する物質“粘菌”を
どんどんばらまいていくんです。
岩田
モンスターの攻撃方法などは、
デザインする段階から一緒に考えているんですか?
藤岡
そうです。
デザインワークの部分の話からすると、
『モンスターハンター』のモンスターは
複雑な色合いで全体の雰囲気がつくられるんですけど、
今回のブラキディオスのベースは、
黒光りした、わかりやすい色味をしています。
岩田
見るからに強そうで、
火山の中でも色映えしそうですね。
藤岡
はい。そして、もうひと味足したいと思っていたとき、
デザイナーが蛍光の緑色をアクセントとして入れてくれたんです。
それを見て「これは遊びに使えるなぁ」と。
それから“爆発”というキーワードを取り込んで、
その緑色の部分が爆発する物質になる、
という攻撃方法を考えました。
岩田
デザイナーの観点からのアイデアが、
ゲームの遊びにもつながったわけですね。
藤岡
はい。設定としては、
ブラキディオスにはこの粘菌を“活性化”させる能力があって、
活性化させた緑色の粘菌を地面に付着させて、
それが時限的に爆発していく・・・、
というものになりました。
岩田
なるほど。
藤岡
ブラキディオスの動き自体は
変わらないけれど、時限で爆発する粘菌が
地面のそこかしこにばらまかれていることで、
攻略法にちょっとした“ゆらぎ”が生まれるんです。
岩田
それが、駆け引きの深みになるわけですね。
藤岡
深みというと格好いいですけど、
ある意味、僕の好みというか、
ちょっとプレイヤーを悩ませたいんですよね(笑)。
一同
(笑)
岩田
もうひとつ、モンスターでお訊きしたいんですが、
“亜種”(※10)というのは、
どのように生まれるんですか?
藤岡
亜種は「無印」のプレイヤーへの、
つくり手からの提案であり、
挑戦でもあるモンスターです。
岩田
遊びつくしてもらったみなさんへの
感謝の気持ちを込めて、ということですか?
辻本
はい。「無印」をやりこまれた方って、
だいたい、モンスターと対峙したときの
攻略パターンを頭と体で覚えているんですけど、
亜種では、その先入観を利用するんです。
岩田
慣れているからこそ・・・ということですね。
藤岡
そうです。
普通ならこのタイミングで大丈夫だったのに、
「あれ、こう来たか!?」って
プレイヤーの裏をかく行動を盛り込んだり。
岩田
いや、そこはまさに、
『モンスターハンター』流のおもてなしですねぇ(笑)。
藤岡
はい(笑)。
ちょっとした要素を加えるだけで、
いままでの立ち回りが通用しなくなって、
遊びのスタイルがぜんぜん変わってくるんです。
それが亜種ならではの、遊びの考えかたですね。
岩田
じゃあ、たとえば開発中、
辻本さんに亜種をプレイしてもらって、
観察するようなことってあったんじゃないですか?
辻本
そうですね、実験台にされることは(笑)。
藤岡
辻本が初見でいけたら、まだダメかぁ、
とかはあります(笑)。
一同
(笑)
岩田
プロデューサーって、
開発を一歩引いて見るという役割もありますし、
一般のお客さんから見るような立場で
初めてさわったときの気持ちを
常に意識することは大事なんですよね。
辻本
自分が気をつけていたのは
そこにゲームとしての説得力があるかどうかで、
それがしっかりしていないと、
単に理不尽なゲームにどんどんなってしまうんです。
岩田
同じことをしても、
「理不尽でいじわるだなあ」と感じるのか、
「あぁ、なるほど」と納得させられるのか、
ぜんぜん意味が違いますよね。
藤岡
かなり違います。
辻本
「どうしたらええねん」で止まらずに、
「ああ、こうしたらええんや」
ってならないと、だめなんですね。
藤岡
辻本もよく最初、
「あんなん無理やで~」って言うんですけど、
何日かしたら「討伐したよ~」って
意気揚々と言ってくるんで、
素で普通に楽しんでるんじゃないか、と(笑)。
でもそういうリアクションをもらえると
むしろ安心する、みたいなところはありますね。