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2010年3月期 第1四半期 決算説明会
質疑応答
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Q 8  4月にDSiの海外での発売があったが、ヨーロッパでの減少が目立ってきている。足下の動向を含めて、DSの海外市場の動向をどのように分析されているのか、そして今後の見通しについて伺いたい。
A 8

岩田:

 まず、DSのビジネス全体で言いますと、台数の比較だけを見ますとビジネスが縮小している様に見えると思いますが、現実にDSとDSiの価格差を考えますと、ビジネスの総規模という意味では、前年と大きく違いません。また、昨年の場合は例えば、6月にヨーロッパでDS Liteの多色展開を行いまして、そのときに流通さんも非常に積極的に仕入れをされましたので、今年はそういうファクターがなかったという面もあります。ヨーロッパはあまり(売上)数字が普段出ないので、アナリストの皆様は数字を見たいとよくお聞きしていますのでデータを持ってきました。

去年、この後ろの方、ぐっと盛りあがっているところがDS Liteの新色効果です。今年はそのような特別なことをしていませんので、その分の上乗せが出せなかったというところです。ちなみに大きく飛び上がっているところは、ご想像の通りDSiを発売した瞬間です。DSiの発売前には、去年の水準を少し下回っていて、DSiで大きく販売が伸びましたので、6月くらいまでは大体去年と総量としては同じぐらい売っていたという感じです。今後の展開という意味でいいますと、ヨーロッパでは、ひとつ非常に面白い売れ方をしているソフトがありますので、そのご紹介をしておこうと思います。

 『レイトン教授』のソフトですが、パッケージデザインがまったく違うので驚かれると思いますが、ヨーロッパだけこういう箱で売りました。これは日本ではレベルファイブさんというソフトメーカーさんが売られたソフトを、アメリカやヨーロッパでは任天堂が販売をさせていただいているのですが、このソフトは『脳トレ』でDSを始めた方の次の1本としてポテンシャルがあるのではないかということで、ではどうすれば次の1本に選んでもらえるかということをいろいろ議論しまして、こういうパッケージで売り出したのです。

 私はこのグラフを見て驚いたのですが、これは『レイトン教授』1作目の日本とアメリカとヨーロッパの売れ方の違いです。発売からのカーブですが、日本でも最終的に累計で90万本強、売れています。実際には、(発売から2年が経過していますので)現状の日本の青い線はさらに右まであり、100万本にかなり近いところにどんどん近づいていくのですが、グラフを見やすくするために途中で切っています。ご覧のように、ヨーロッパだけ例外的な売れ方をしています。多分、パッケージを変えてお客様にアピールしたことで『脳トレ』の次のソフトとして買っていただけたのではないかと思います。実際に調べますと、女性のお客様が多く、『脳トレ』でDSを始めた方が多い、ということも分かっています。実はこれがうまくいきかけた頃に、「もし、(このソフトを)うまく立ち上げることができたら、(シリーズで)3部作だから、長い間DSマーケットのために「次の1本」が提供できて、とても大きなメリットがあるのではないか」ということで、しっかり投資をしたのです。

その結果、今、(ヨーロッパでのこれまでの累計販売数は)140万本ぐらいですけど、年内に十分200万本がねらえる状況です。(週間販売数)がまったく落ちていませんので、このまま売れていく可能性が大いにあると思っています。秋にはこれの『II』が出ます。こんな箱になります。これをヨーロッパで秋に出すことで「次の1本」としてのアピールをしたいと思います。

 ちなみにアメリカで、右の端の方で赤い所ですが、突然上がっている所があります。アメリカはヨーロッパより早く発売していたのです。日本と同じパッケージで売りましたので、(西洋のお客様に対しては)アピールが少々うまくいってなかったのかもしれません。現に、最初に『レイトン教授』に火が着いたのはイギリスでしたから、こういうポテンシャルがあるならがんばって売ってみようということで、宣伝を作り替えて再度マーケティングをやり直しました。そのときの結果が右端のところです。ですから、もともと最初に開発されたときにどの程度海外展開のことを検討されて作られたのかは、私には知る由もありませんが、少なくとも日本で多くのお客様に受け入れられたように、海外でもアピールの仕方次第で、そのポテンシャルを販売につなげることは可能だという様に思っています。こういうことがいくつできるかが鍵だと思うのです。

 確かに、『マリオカート』だとか『ゼルダ』だとか『マリオ』の本編のアクションゲームだとかというものが任天堂にとって非常に大事なソフトであり、それがあるから任天堂のゲーム機は安心して買っていただけるということがあるのは事実ですが、同時に、予想もしないものが売れるというのは非常に重要だと思っています。去年の例で例えば、『リズム天国』が発売前に、170万本以上日本で売れることになると予想していた業界関係者は1人もいなかったと思います。もっと前で言えば、『Nintendogs』や『脳トレ』がこれ程売れるとは誰も予想していなかったというのと一緒で、それより規模は小さいですが、それでも「まったく新しいフランチャイズの立ち上げは年々非常に難しくなっている」と言われている中で、非常に例外的な出来事が起こったと思います。あるいは、昨年秋に『ガールズモード』というソフトが出て、これも100万には届いていませんが、累計で90万くらい売れていると思います。こういうソフトが、まったくノーマークの所から出てきて、結果的に(市場に)インパクトを与えるソフトの例です。

 つい最近の例で言いますと、『トモダチコレクション』というソフトです。これは日本で6月18日に発売され、今日までに40万本強が売れていますが、このソフトは初回受注10万本のソフトです。すなわち流通さんは「10万本あれば1ヵ月くらいで売るのにちょうどいいはずだ」と思われていたところ、実際の販売はその4倍以上であったというものです。こういうことが起こせることが、『マリオカート』や『マリオ』や『ポケモン』や『ゼルダ』を売るということと同じように、非常に重要だと思っています。

 こういうソフトをマーケット毎に、年にできれば2、3個出せますと、その市場は非常に活性が高くなり、いろいろな人にゲーム機を触ってもらえるのではないかと思います。ところが決まったものの続編だけで回し始めてしまうと、これは縮小再生産の流れになりますので、先が展開しにくくなります。その意味で、私たちが日本で結果を出したものがすべて海外に通用するかどうかは分かりませんが、『Nintendogs』も『脳トレ』も最初は海外では無理ではないのかと言われていたものが、結果は海外のマーケットの方がずっと大きくなったという実績もありますから、今日ご紹介したものの中から、海外でも売れるものを一部でも生み出すことができれば、DSのマーケットは決して先を悲観しなければならない状況ではありませんし、また同時に、それをやってのけるのが任天堂の役割と思っています。

Q 9  DS Lite、DSi、Wiiの直近の月産の動向、推移、水準について教えてほしい。それぞれの採算性の見方についても教えてほしい。
A 9

岩田:

 DSiについては月産数をお話ししたことがないと思うのですが、DS Lite、Wiiについては月産のキャパシティというのはお話ししたことがあります。月産のキャパシティをお話ししますと、それを12倍して「年間これだけ売れるはずだ」という予想される方が現れてしまい、私たちは「これでは(毎月の生産能力を口にすることは)副作用の方が大きい」という議論をしていまして、私たちはこれからは月産能力は、何か特別な事情がなければ積極的には申しあげないようにしようと思っています。一方で、以前に申しあげた月産能力を単純に掛け算をして、そして当第1四半期の販売数量を見ていただくと、当然、釣り合わないわけです。このままだとどんどん在庫がたまってしまうことになりますので、その意味では、6月、7月あたりは、多少生産は絞っています。一方で、8月以降は、今年の年末商戦向けにしっかりビジネスを展開して、これだけのサイズのビジネスをすると宣言していますし、それが実現可能な材料がそろっていると思っていますから、8月以降は積極的に作っていこうという計画になっています。これ以上のことは申しあげにくいのでご容赦ください。

Q 10  経営の時間軸について伺いたい。1年で見ると年末があったり、先ほど2年ということで少し世の中にないものを出したいという話があり、あるいは過去においてハードは5年おきなどという話が少しあり、様々な時間軸がある。資本市場から貴社を見ているが、岩田社長は日々日常も、中期的なところも、あるいは長期的なところも価値創造されていらっしゃると思うが、我々の評価の時間軸と経営で考えてらっしゃる時間軸が一致しない等々があると思うので、ぜひ経営の時間軸で意識されてる点等々があれば教えてほしい。
A 10

岩田:

 まず、先ほどの「ハードは5年おき」というのは、私はハードは5年おきと思っているわけではないというのはあらかじめ申しあげておきます。確かに今回、「公開企業の義務だから第1四半期決算発表をしなくてはいけない」というのは、正直申しあげて、少しも恨めしい気持ちにならなかったといったら嘘になります。ビデオゲームのビジネスで4-6月期が、去年の何パーセントアップかダウンか、それを論じることにどれだけの意味があるのかということについて申しあげれば、少し、自分の考える価値観とは相容れないものを感じているのは事実です。

 一方で、公開企業の経営をしているわけですから、さすがに1年単位の業績は当然大切に考えていますが、その一方で、1年というのは1つの平均的な商品開発のサイクルより、実は短いです。ですから例えば今年発売できているものは、去年開発を始めたようなものはむしろまれで、一昨年に始まっていたり、その前の年に始まっていたりします。極端な例は、先ほどご紹介した『トモダチコレクション』ですが、このソフトに至っては、ほぼ4年くらい前から開発しているわけです。4年前に始めて、ある程度できたところで、この(似顔絵を作る)機能が面白いからWiiに入れてしまおうということになって、Wiiの似顔絵チャンネルとMiiができたという、「曰く付きの商品」で、そうやって寄り道をしながら最終的に出て、最初から(流通さんやゲームファンの方々に)期待をいただいていたわけではありませんが、最終的にマーケットにご評価いただけたというものです。そういう意味でいうとソフトでさえ3年、4年の評価軸というか、3年前、4年前に仕込んだものが、今、価値を生んでいるものがあります。

 ちょうど似た例は、「Wiiバイタリティセンサー」の件でも言えます。「Wiiバイタリティセンサー」の企画そのものも、『脳トレ』ができあがった後、その後1年くらいかけて社内でいろんな商品の企画を部門横断で行ったのですが、そのときに『顔トレ』という顔面の表情筋を鍛えるという新しいコンセプトのソフトを出したんですけれども、実はそのときの企画と一緒に出ていた企画です。ただ、これはハード(の開発)も絡みますので、少し時間もかけています。私たちはメディカル機器を作る会社ではなく、あくまで娯楽機器を作る会社ですので、娯楽として適切な範囲はどこまでかということを大学の先生などと共同で研究しながら進めています。

 それとソフトというのはすごく短期間でできれば半年でできるし、一方で、普通は1年から1年半くらいかかり、少し長ければ、それが2年にも3年にも、場合によっては4年にもなります。ハードは、5年とかもっと、それ以上のサイクルで動いています。

 普通の人には、「常識で考えて、商品ってこういうものだよね」という、ある種の思い込みがあると思うのですが、お客様が驚いてくださるような商品は、だいたいその「思い込みの壁」の向こうにあるわけです。任天堂という会社が、「脳を鍛えることをゲームにしようなんて誰も思わない」、「料理を作ることをゲームにしようなんて誰も思わない」、「テレビの前で棒状のリモコンを振ってゲームをしようなんて誰も思わない」、「体重計を作って売り出そうなんて誰も思わない」、という環境の中で、その先に任天堂が踏み出したから価値が認めていただけたわけです。その意味では、もっといえば、任天堂がDSを初めて市場にご提案したときに、「今度の携帯型ゲーム機は2画面です」と言った途端に、市場の大多数の反応というのは、「任天堂は気が狂ったんじゃないか?」というものであったと、当時、私が当事者として、マーケットの反応として感じたくらいです。最近は、(何かを発表したとき)市場で最初に(よい)反応がないのは、むしろよいサインだと思おうと考えています。それは「それだけ画期的なんだ」というようなことだと考えられるからです。社員が、市場の反応に合わせて、短期的に今売れそうな、今の常識の範囲内のことばかりを考えていると、考えることが狭くなってしまいますから、(私たちは)「そこからはみ出られるようにしよう」と思います。

 ですから、私自身は公開企業の経営者で、毎年、一定以上のアウトプットを出し、「公開企業として増収増益を目指そう」と考え、行動するということがあり、一方で、会社の1個1個のプロジェクトは半年とか1年とか、ましてや四半期とかで考えないということです。そして、お客様に驚いてもらえる、なるべく面白くて画期的なものを、できたら誰もやっていない方法で作ろうと考えています。そのことが社の文化として根付いたたくさんのチームがあって、これは私や専務の宮本の仕事ですが、その中からちゃんと目利きをして、「いけそうなもの」と「いけそうでないもの」を分けて、これは筋がいいからいけそうだと思うものにちゃんと時間と人を注ぎ込んで、そして十分に満足できる線まで仕上げて出すということです。(そうする以上、個々のプロジェクトの時間は事前に完全には読めませんが)そうしていても、年間で見たら毎年そこそこのアウトプットが出ているようにしなければいけないと思っており、いつも悩み葛藤のあることですが、そういう意味では評価の時間軸を短く取りすぎないように考えるというのは非常に意識していることです。

Q 11  先ほど、アクティブユーザーと潜在ユーザーの数字を見せていただいた。1つ目の質問は、「アクティブユーザーだがWiiないしDSを使っておられない方」と「将来ゲームを遊んでもいいと思っておられる方」は、今までと同じようなアプローチではなかなか振り向いてくれなくなっているのではないか。さらに言うと、難易度が非常に高いグループになっているのか。
 2つ目の質問は、「すでにアクティブで、WiiないしDSで遊んでいるという方」がいつまでもアクティブであり続けてくれるとは限らない。E3でお話しいただいた「Everyone's game」というのは、これを一網打尽に取り込もうというお考えなのか。ゲームソフトそれから周辺機器、オンラインサービス、いろんな攻め手はあると思うが、質問は、「アクティブユーザーでWiiないしDSで遊んでいるという方」をどうやって活性化するのか、それから「アクティブユーザーだがWiiないしDSを使っておられない方」、「将来ゲームを遊んでもいいと思っておられる方」、「まったくゲームには興味をお持ちでない方」を取り込むべくアクセルを踏んだということを我々が認識できるようになるのはいつなのか。そのためにどんな新しいことに取り組んでいるのか。冒頭、2つのミスを犯されたという話があったが、この2つのミスを踏まえて、何を変えようとされているのか、ということについて伺いたい。
A 11

岩田:

 「まったくゲームには興味がない」とおっしゃっている方は結構いらっしゃるというのは事実です。これは年齢が高くなると急速に増える傾向があります。やはり60代、70代だと、自分はもう一生、ゲームには縁を持たないと、強く拒絶感をお持ちの方もいらっしゃいます。当然、任天堂がゲーム人口拡大を目指してから、実際にゲーム人口は増えたと思います。日本の場合は、昔やっていたけれどもやめてしまったという人にも、もう一回(ゲームに)戻ってもらうということと、それから『脳トレ』や『Wii Fit』のような新しい商品で、(ゲームに)まったく興味がなかった人が入ってくるという両方のことが起こったのですが、実はアメリカやヨーロッパというのは日本のように、昔やっていたけどやめてしまったという人の割合はあまり高くないです。ですから、むしろ新しい人を連れてきたということの方が多いと思います。

 これから難易度が上がっていくというのはおっしゃる通りで、私たちが働きかけてそこに反応してくださる人は、もうある程度は反応してくださったわけですから、難易度が上がってくるというのは間違いがないですが、一方で、現行ユーザー外拡大余地1億4,950万人というのは、もともとこうだったわけではなくて、我々が働きかけたことで、「将来ゲームやってもいいな」と思う人の数も実はすごく増えています。もう少し詳しく言いますと、まずゲーム人口が増える前に、この現行ユーザー外拡大余地、すなわちポテンシャルユーザーと私たちが名付けているグループの人たちの数が増えます。すなわち、私たちが(ゲーム人口拡大への取り組みで)何かをすると、すぐにゲームユーザーさんが増えるのではなくて、ポテンシャルユーザーとなる、「ゲームって私には関係ないと思ってたけど、将来やらないでもないなあ。ちょっと面白そうだなあ」という人がまず増えるんです。まずそこが増えてから、実際に(ゲームの)お客様になるわけです。ポテンシャルユーザーからアクティブユーザーになっていただくと、ポテンシャルユーザーは減ってしまうわけですが、いい循環になりますと、新しくアクティブユーザーが増えるのと同じように、今まで興味がないとおっしゃっていた人たちがポテンシャルユーザーに変わるというようなことが(同時に)起きます。これまで、そういうふうにゲーム人口拡大は進んできましたので、いわばすでにここまできている人たちというのは、私たちの働きかけの結果、増えたポテンシャルのあるお客様たちですから、その人たちにあとどういうふうな形で背中を押せば最後の一歩を踏み出していただけるのか、というところにきていると思いますので、難易度が上がるという自覚はありますが、「(今までと)まったく異なる作戦をとらないと、その人たちには絶対に到達できない」ということはないと思います。なぜなら、この人たちは「(ゲームには)興味がない」と昔は言われていたのに、「やってもいいな」って思うように変わったということは、私たちのアプローチが有効に機能したということだからです。

 ただ一方で皆さんも胸に手を当てていただくと、おそらくすぐに想像がつくのではないかと思いますが、人って「あれが欲しい」と思っても、結構買わないことが多いものです。私も胸に手を当てると、「欲しいと思っていたけど買わないままになっている」というものをいっぱい思い出します。人ってそういうものであるので、せっかく「ポテンシャルユーザー」になっていただいてもこのままでは実際の需要になる保証は全然ありません。それを実現するためにさらに難易度の高いことを私たちは続けていかなければならないと思っています。

 それからすでにアクティブになっておられるお客様の維持です。これはおっしゃる通り非常に重要なポイントで、一度お客様になってもらえたら、何も任天堂は考えなくてもその人はアクティブなお客様であり続けるというのは甘くて、そんなことが簡単にできるんだったらスリープユーザーというのは生まれないわけです。人は簡単にゲームをやめてしまいます。昨今、私が非常に問題だと思っていますのは、そのお客様にとって安心してお勧めできる次の1本を如何に示すかという問題です。皆さん、ゲーム売り場に行っていただくと、例えばDSのソフトが500タイトル並んでいるというときに、「次の1本をどうやって選ぶのか」は大きな問題です。お店の人に「英語のソフトをください」、「漢字のソフトをください」って言ったら、5種類も10種類も出てきて、どれがどういいか分からないわけです。「人は選択肢が多すぎると選べなくなる」というような研究もあるようですから、私たちは「如何にその中からお勧めの1本、それもできうることなら、ハズレでないものを選んでいただくか」ということがすごく重要だと思っています。一方で任天堂が、「これがお勧めです」と押しつけてしまうと、ソフトメーカーさんからすれば、「任天堂が勝手に選んでそんなことをするのは横暴だ」ということになりかねません。ですから、何らか違う仕組みが必要だと思っています。

 これはまだ100パーセント十分な答えだとは思っていませんが、国内で今月(7月)、「みんなのニンテンドーチャンネル」というWiiでやっているサービスのアップデートをしました。実はここにおける最大のポイントは、お客様が個々のゲーム、実際に遊んだゲームを1人1回だけ、1票だけ評価して投票していただき、それを集めて、それ(集めること)は以前からやっていたんですが、その集まった結果、評価の高いゲームに対して、はっきりと分かるようなフィードバックをお客様にお返しするということを、今回から始めたということがあります。要するに、遊んでいただいたお客様全体の総意として、こういう商品は評価が高いということがお客様の方で見えるようになるということです。こういうことの情報を将来的には、店頭でも参照できるようにならないものかというような議論もしていまして、最終的に「お客様の満足度が高いものがお客様に見えやすくなる」という状況を作り出すことで、品質が十分でないものが間違って購入されてしまい、結果、お客様が満足しないということがないようにしたいと思っています。

 もう1つ、「Everyone's game」の話ですが、世の中のマーケティングというのは、お客様をどんどんセグメント化することが定石とされています。ですから商品企画も「ターゲットは誰だ、絞れ」というのが企画の常道だとされ、マーケティングもセグメント化しないとメディアも買えませんということで、セグメント化をして、そのセグメントがはっきりしたものはいいんだということになっているのですが、任天堂に開発チームが500チームあって、すべての方のニーズに個別に応えられるんでしたらそういうアプローチでもいいかもしれませんが、例えば宮本のチームは1チームしかなくて、そこで作れるタイトルで完成に持っていけるのは、1年に数タイトルです。それを最大化しようと思うと、「いや、我々はアンチセグメントで行こう」と、「世の中の常識がセグメント化なら逆で行こう」と考えたのです。

 このように言うのはたやすいのですが、実際は非常に難しいことです。ゲームをずっと遊んでいた人にとって、ゲームが面白くて楽しい、ちゃんと深みがあると言っていただくと同時に、ゲームなんか遊んだことがないという人が「これではわけが分からない」ともおっしゃらず、その人にはその人の面白さがあり、噛めば噛むほど味が出てきて深みがちゃんとあるというものを作るのは、とんでもないチャレンジなのですが、そのとんでもないことにチャレンジをしようと思っています。それが『Wii Sports Resort』の磨き込みに時間をかけた理由であり、『NewスーパーマリオブラザーズWii』のチャレンジです。これらの商品が実際に、そういう両タイプのお客様に満足していただけることを世界中に証明できて初めて、「ああ、任天堂が言ってるのはこういうことだったのか」と、後から分かっていただけると思っています。ちなみに「Everyone's game」というコンセプトの話を私はE3のステージでしたのですが、本当に反応がなかったですね。手応えとして言いますと、(無反応であることは)「そんなことはできないに決まっている」と世の中に思われているということのバロメーターなのかなと、思っております。

Q 12  1つは、6月末の1,834億円という製品在庫の水準をどのように考えているか伺いたい。たまってしまった部分、あるいは大型タイトル等々を含めてためにいった部分、それぞれどのように見ればいいか。4-6月期の決算を見ると、一部流通在庫の調整等もあったようなイメージがあるが、7月に入った段階でその流通在庫自体にはもうすでに問題はなくなっているのかどうか。品種別あるいはソフト、ハードそれぞれでお伺いしたい。もう1点は、当下半期に向けた経営あるいは業績予想に対して、もし自信があるということであれば、自社株買い等々を実施するタイミングとして非常にいい時期ではないかと私個人は考えるが、どのようにお考えか伺いたい。
A 12

岩田:

 まず在庫ですが、当初イメージしていたより少し増えたのは事実です。それは先ほど当第1四半期の業績として想定していた範囲の中ではかなり下の方になりましたとお話しした通りです。この要因の中にはWiiの有力タイトルがなかったので販売が伸びなかったという要因だけではなく、流通さん側のコンサバティブな姿勢というのもあります。私たちは基本的には、自分たちの業績を、景気を理由にはなるべくしたくありません。ビデオゲームのような比較的安価で、もともと景気動向に左右されていなかったビジネスが、今回こうなったから、百年に一度の大不況なので、景気を理由にすると言うのはあまりにも安易であろうと思っていますので、景気のせいだとは言いたくないのですが、1つだけ景気に関して影響があった要因があるとすれば、流通さんが今、非常に在庫をお持ちになることにシビアになっているということがあります。当然、去年よりも週販のWiiの数が減りますと、少し前にはWiiの在庫水準は適正だと思っていたものが適正でないと判断されます。そうすると新規の発注を控えられることになり、本来であればもうちょっと出荷されてもいいのにされない、というようなことが起こります。セルスルーデータではもうちょっと売れていたはずなのに、どうしてこれだけしか出荷できていないのかということについて言えば、そういった流通さんの姿勢というのが影響していると思います。ソフトについても、無名の新作、あるいは比較的小規模と見られがちなタイトルの発注というのは、世界的に絞り込まれる傾向にありました。そういうことはありましたけれども、そういった調整というのはある程度進んでいると私は見ていますので、今後もこの傾向はずっと続くとは見ていません。すなわち、任天堂の出荷数と世の中にあるセルスルーデータのかみ合いがよくないというようなことには今後はならないのではないかと見ています。

 自社株買いについては様々な考え方がありまして、当然、自社株を買うならいつが一番いいのか、どういうときにすべきなのか、ということは常に考えています。一方で、この場で具体的に申しあげられるわけではありません。選択肢の1つとして常に考えていますけども、今日お話しできることは残念ながらございませんのでご容赦ください。

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