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2014年1月30日(木) 経営方針説明会 / 第3四半期決算説明会
質疑応答
Q 4-1

 営業赤字が3期連続ということでかなりマスコミに取り沙汰されていて、岩田社長はハル研究所の経営再建時と一緒で、かなり厳しい状況にあると思う。辞めることで簡単に責任をとって終わりという道もあったと思うが、そうしていない点について岩田社長からコメントをいただきたい。今回の業績悪化はWii Uの魅力をうまく広げられなかったところにあると思っている。ニンテンドー3DSでもWii Uでも、プラットフォーム立ち上げの初期にタイトルを出せないというトラブルが続いている。これについて、将来的にどのように対応するのか宮本専務に聞きたい。今回の業績悪化で、Wii Uの性能が低いなどとも言われているが、そういった誤解に対し、ハード開発の理念や考え方について広報をする考えはないか、竹田専務に聞きたい。また、サードパーティーの協力をなかなか得られていないように見えるが、それについて今どう考えているか、岩田社長に聞きたい。

A 4-1

岩田:

 まず、プラットフォームが普及するかどうかは、勢いで決まります。勢いがつくと、いろいろな相乗効果がプラスに働きます。逆に、一旦勢いを失うと、いろいろな効果が全部逆方向に作用します。ニンテンドーDSは、序盤は苦しみましたが、途中で流れを変えることができました。Wiiについては、よく新しいものが普及するときに「キャズム」と言って、アーリーアダプターからアーリーマジョリティーへの乗り換わりの間に落とし穴があり、なかなかそこを乗り越えられないということが、ゲーム機でもよくあることなのですが、Wiiに関しては「キャズム」を一瞬で越えてしまって、私たちもいつ「キャズム」を越えたのか分からなかったという幸運に恵まれました。ニンテンドー3DSは、最初つまずいて、その後何とか立て直すことができました。Wii Uはまだそれができていません。こういう状況だと思います。「辞める、辞めない」の話については、辞めるということを選択肢として考えていたことはなく、「どうにかして結果を出すことが自分の仕事」と思っており、自分の信念や情熱はいささかも揺らいでいません。ただ、「責任を何もとらない」というわけにはいきませんので、取締役の報酬削減を決定いたしました。「Wii Uの魅力が広められなかった」という背景に関し、宮本から、「タイトルが出せなかったことをどう考えているか」、竹田から、「Wii Uハードに関する誤解が広がっていることについてどう思っているか」、岩田から、「ソフトメーカーさんの協力についてどんなことを考えているか」、この三点についてそれぞれ話したいと思います。では宮本から。
※参考:ジェフリー・ムーア(2002)『キャズム』(川又政治訳)翔泳社

専務取締役 宮本 茂:

 ご指摘は「新ハードを立ち上げるたびに同じ失敗を繰り返している」、ということだと思いますが、常に改善に向けて取り組んでいますが、結果が出せていないということに関しては、そのとおりだと思います。前回、ニンテンドー3DSの時、それからニンテンドーDSの時に、立ち上げ時にはっきりした任天堂のメインフランチャイズのゲームがなかったことは事実ですが、Wii Uでは、『New スーパーマリオブラザーズ U』をハードと同時に発売しましたし、『Nintendo Land』というユニークな提案もしたつもりです。昨年は『ピクミン』シリーズのゲームも久しぶりに発売しましたし、昨年の年末には『スーパーマリオ 3Dワールド』があり、今後は『マリオカート8』があり、今年の年末までには『大乱闘スマッシュブラザーズ』があることを考えますと、メインのフランチャイズが足りていないという問題は、今回は解決できたと思っています。これらのゲームは期待通りの大きな成果を上げられていませんが、「面白くなかったから評価が得られていない」とは思っていません。『スーパーマリオ 3Dワールド』は、昨年末の「メタクリティック」という、ゲームレビューの平均点を出すサイトで非常に高い評価をいただいていて、ゲームの質についてはかなりご評価を得ています。それが世の中全体の興味につながっていないということは、非常に深刻に受け止めています。ただ、日本を見ていますと、『スーパーマリオ 3Dワールド』は子供たちの間ではゲームの面白さが評価され、「ネコマリオ」という呼ばれ方が定着してきています。『マリオカート8』に対しての期待も大きく、実際に遊んでいただくと「欲しい」と言ってもらえると思います。昨年は本当の魅力を伝え切れなかったことと、子供さんから親御さんに「欲しい」と言う、親御さんも「それを買う以外選択肢がない」というところに踏み込めなかったということがすべてと思っています。今後、どう対処していくかということが私たちのテーマで、先ほど岩田がお話ししたとおり、『Nintendo Land』は、二つの画面があることを最大限に活かして、任天堂らしい遊びをリビングで楽しんでいただくという意味では、4、5人がリビングで集まれば絶対に面白いという確信を持っていますが、1人での体験はどうだったかというと非常に弱い面があります。やはり、Wii U GamePadを活かした魅力的なもので、1人での体験としても十分面白いというものをもっと注力してつくっていく必要があると思っています。というのは、このWii U GamePadとテレビという組み合わせは、お客様に安心な体験をしていただくという意味では、電源を入れたらすぐにつながっているという環境が大事になります。テレビとタブレットなどの機器をつなぐのではなく、システムとしてWii Uは二つの画面が、いつ電源を入れても必ずつながっています。その後のゲームが始まるまで時間がかかるのが現状の課題ですが、テレビとWii U GamePadの2つの画面がつながっているという環境が保証されていることはとても重要です。この環境があることで、リビングでの便利な使い方の提案ができると思って今も開発を続けています。タイトルを常に十分に準備することにどう取り組んでいるのかと言いますと、言い訳になってしまいますが、Wii Uというハードは、Wiiというハードから大きく技術的には進化しています。ですから、「シェーダー」というグラフィックスの技術を使うことなどで、開発環境、開発スタッフ、開発に要する時間が大きく変化しています。これに対して、かなりの補強をしてきました。例えば、私たちの過去のシリーズタイトルをWii Uのタイトルにリニューアルしていますが、これは、大勢の社外の開発チームに手伝っていただいて、社内のチームがより新作に集中できるようにしていて、この辺りはかなり改善できてきたという手ごたえがあります。さらに、開発環境の構築はいつも時間がかかる大きなボトルネックになっています。この辺りも今、全社的に改善を続けていますので、将来のハードにおいては、任天堂フランチャイズタイトルを継続的にバージョンアップしながら、お客様にご提供するということができると思います。

岩田:

 ご指摘いただいた点で、プラットフォームに勢いがなくなるとソフトが出ない、ソフトが足りないということをよくご指摘いただきますが、私は、ソフトの数の問題というよりは、爆発的に売れている、圧倒的に人気のソフトがあるかないかだと思います。何となくWiiは序盤からかなり多くのソフトがあったように感じてしまいますが、序盤に揃ったソフトの数で言いますと、WiiとWii Uはそれほど変わらないと思います。ですが、Wiiには『Wii Sports』があり、これは1人で遊んでも多人数で遊んでも面白くて、一目で面白さが伝わって、広がっていく爆発力がありました。『Nintendo Land』は多人数で遊べば面白いと多くの方が言ってくださいますが、1人で遊ぶ部分はそれほど強い反響はありません。その結果、「広がる力が違った」「分かりやすさが違った」ということはあったと思います。もちろん、昨年の前半に特に大きな空白期をつくってしまったことは、大いなる反省点ですが、一方で、あの空白期があれほど問題になるのは、「売れ続ける」、「話題になり続ける」、「稼働し続ける」ソフトが足りないことが一番問題で、それは数というよりは質の問題で、決定打を出せていないということにあると思います。よって、宮本といつも話しているのは、「決定打を一つつくろう」ということです。

 では次に、Wii Uに関して「性能が低い」とか「(開発者からみてソフトが)つくりにくい」などと言われることが、誤解も含めて多いようだから、もっと広報したらどうかというご意見に対するコメントを、竹田にしてもらいます。

専務取締役 竹田 玄洋:

 任天堂のビジネスは「ハード・ソフト一体型のビジネス」という説明が岩田からありましたが、言い換えると、テクノロジーがエンターテインメントとうまく結び付いて、ゲーム機を作り出すことだと思います。そのような中で任天堂自体は、ハードの生の性能を前面に押し出すような会社ではないと思っています。ですから、そのテクノロジーをいかにエンターテインメントのバリューに増幅できるかということにずっと注力してきました。そういう意味ではテクノロジーはあくまでも黒子だと思っています。ですから、明らかにみなさんに分かる「アンプリファイ(増幅)」をエンターテインメントバリューとして今のところ提供できなかったというところに対しては、あまり言い訳はしたくありません。性能がいいとか悪いとか、そういうことも、お客様に遊びとして伝わるか伝わらないかだけですから、ここで数字を挙げて論議をしたいとは思っていません。ご質問のご期待にお応えできなくて申し訳ないですが、そのような説明は、お客様にはあまり意味がないことだと思っています。

Q 4-2

 任天堂がハードを出す意義というのが非常に誤解されているので、「なぜWii Uをつくったのか、どんな設計思想があったのか」、といったところを、もう少し広報してはどうか。

A 4-2

竹田:

 ハード、ソフトという言い方よりも、テクノロジーをエンターテインメントバリューに増幅できるようなものを、これからもお客さんに分かりやすい形で採用していきたいし、その技術対象が今までとはどんどん変わってくると思います。ただ、コンピューターの性能がいいとか悪いとかだけではなく、分かりやすい形でテクノロジーがエンターテインメントと結び付いていくことが重要だと信じています。お客様にとって、「あ、こうだな」と分かっていただきやすいもので、伝えて行きたいと思います。

岩田:

 任天堂がWii Uをつくったのは、家庭用のテレビゲーム、テレビにつないで遊ぶゲーム機のプレイスタイルを変えたかったからです。テレビの前でしか遊べない、テレビをほかの人が使っていたら遊べないという環境の中で、特に日本では携帯ゲーム機のマーケットシェアが大きくなって、テレビゲームの存在というのは、どんどん小さくなってきていました。どうしてそうなるのだろうと考えていくと、例えばWiiをつくったとき、「リビングルームにもう一度みんなを呼び戻して一緒に遊んでもらおう」ということが、ある程度うまくいきましたが、「みんなで遊ぶときはいいけど、1人でじっくり遊びたいときはテレビを占有できない」、ということが非常に大きな問題になっていました。一方で、携帯ゲーム機は電池で動かなければならないので、できるゲーム体験に制限があるため、「リッチなゲーム体験を家の中のいろいろな場所で、テレビにしばられずにできるにはどうするか」、というのがWii U GamePadのスタートでした。それに加えて、「画面が二つあったらどんな遊びがつくれるか」「自分だけが見ることができてほかの人は見ることができない画面があったらどんなことができるか」、ということが組み合わさって、Wii Uは提案されています。しかし、それを説明しなくてもお客様にお分かりいただけるようでなければ、それは「私たちの努力が足りない」ということだと考えています。今、宮本と私が目指しているのは、「任天堂はこれをやりたかったのか」と言っていただけるような商品をつくろうということで、それが今日、冒頭でお話ししたこと(Wii U GamePadがあるからこそ実現できるソフトタイトルを提案すること)ともつながっています。

 それから最後に、ソフトメーカーさんの協力についてですが、任天堂とソフトメーカーさんとの関係について、伝統的に任天堂はソフトメーカーさんのサポートが弱いというご指摘をいただくわけですが、今、例えば日本市場に目を向けて考えますと、日本のソフトメーカーさんが一番力を入れてくださっているゲーム専用機はニンテンドー3DSであると言って差し支えないと思います。これは、ゲーム機全体のマーケットの中でニンテンドー3DSの存在感がハード・ソフトとも圧倒的に大きいためで、そこでビジネスをしないというのは選択肢としてあり得ないということで、みなさん大変力を入れておられます。その中で私たちとWin-Winでご協力できることがあれば、いろいろなこともしています。一方で、海外に目を向けますと、海外ではホームコンソール機が主流ということがあって、携帯ゲーム機にあまり注力されないソフトメーカーさんが多いです。そういう状況の中で、私たちは今の普及台数や去年の年末の結果に満足はしていませんが、アメリカでもヨーロッパでも普及台数が1000万台を超えたことは、ソフトメーカーさんにとっては、実は一定のニュースのようでして、「これだけ普及したなら何か考えないとね」というお話を最近はよくいただくようになりました。ただ、どうしても、海外のソフトメーカーさんの社内のチームは、ハイエンドのホームコンソール機向けに特化された構成になっていますので、「つくりたいけどどうやってつくろうか、何をつくろうか」というのを考えておられる感じがします。また、日本のソフトメーカーさんのソフトを任天堂が海外で流通させたり、あるいは任天堂が自社で販売したり、これはケースバイケースですが、いろいろなことをしていまして、今年来年とますます増えると思います。ニンテンドー3DSに関しては、先ほども申し上げたように、普及台数が全世界で既に4000万台以上ある段階です。それから、Wii Uに関しては、実はソフトメーカーさんによって非常にお考えが違います。任天堂が得意とする子供さんやファミリー層のお客様と親和性の高いコンテンツをお持ちのソフトメーカーさんは、今でも非常に熱心にWii Uをサポートしてくださいますし、「WiiがWii Uに切り替えができるように、自分たちも協力したい」ということでいろいろなお話をいただけて、その方たちの意欲というのは非常に強いものがあります。一方で、任天堂が得意とするお客様と親和性が高くないジャンルについては、必ずしもソフトメーカーさんの意欲は高くありません。仮にそこに莫大な投資をしたとしても、投資に対するリターンが十分返ってくる状況ではないからです。Wii Uに関しては、まず私たちの得意分野でしっかりと形をつくって、そこでいかにして一定の土俵をつくるか、そして、一定の普及台数ができますと、先ほどの、以前はあまり興味をお持ちでなかった海外のソフトメーカーさんがニンテンドー3DSの市場に興味をお持ちになるようになったのと同じようなことがWii Uでも起こり得ますので、そういう状況をつくることを目指すというのが当面の展開になると思います。

Q 5

 任天堂のユーザーがハードによって分断されているという問題意識について説明があった。携帯ゲーム機と据置型機というハードのビジネスが存在するわけだが、昨年の開発組織の改編、再編と含めて、例えば中期的な観点で、据置型機と携帯ゲーム機が一つになるような方向にあるのか、あるいは組織改編は中期的なコスト削減や、素材の利活用に伴う効率性の改善といったところに主眼があるのか、研究開発費の削減余地があるのかないのかという点もあわせ、教えてほしい。

A 5

岩田:

 任天堂は昨年、開発組織を再編し、今まで独立していた携帯ゲーム機とコンソールゲーム機のチームを一つの部門にして、今、竹田の下にあります。これまでは(携帯ゲーム機とコンソールゲーム機は)バラバラにつくる必要があり、携帯型ゲーム機で使える技術とコンソールゲーム機で使える技術というのは、「電池で動くか」、「電源をいつでも供給できるか」で、技術的に大きな違いがあった関係で、全くアーキテクチャーが異なります。アーキテクチャーが異なるということは、コンピューターのソフトのつくり方の作法が違うということです。ところが、かなり技術が進歩し、両者の考え方をかなり揃えられるメドが立ってきましたので、「チームを統合するのは今ではないか」ということを話し合って、そのようにしました。

 それができると何ができるかといいますと、例えば今、Wiiで動いていたソフトをニンテンドー3DSに載せようとすると、解像度が違うだけではなく、ソフトのつくり方の作法が全部違って、かなりの労力がかかります。また、ニンテンドー3DSで動いていたものをWii Uで動かそうとすると、またかなりの労力がかかります。もしソフトをあるプラットフォームから別のプラットフォームに簡単に載せることができていたら、(ハード発売後の)序盤のソフト不足という問題をどれほど解決できるでしょうか。世代をまたぐときにも、これまでは技術の進歩の段階が非常に激しかった関係で、コストの制約の中でビデオゲームに最適な技術を選ぶと、毎回ハード自体が全く違うものになりました。全く違わなかったのは、ゲームキューブからWiiに行ったときだけです。ゲームキューブからWiiは、ある意味コントローラーは全面的に変えましたが、コンピューターやグラフィックチップは、かなり共通の考え方でつくりましたのでスムーズでしたが、それ以外のハードは全部ゼロからつくり直しの状態でした。ただ、今は、もうそのようなことをしなくてもできるだけの前提が整ったのではないかと思います。ですから、その意味で言いますと、この次にハードをご提案するときからになりますが、そこでは「Wii Uでやってきたことをいかに的確に活かすか」ということがポイントになります。これはWii Uと全く同じアーキテクチャーにするという意味ではなくて、十分に吸収できるだけの仕組みをつくり上げるという意味ですが、一旦そうなりますと、コンソール機と携帯機というのは全く別々の二つのものではなくて、もっと近い兄弟のような存在になると思います。

 ただ、フォームファクター(ハードウェアの大きさや形状)が一つになるかどうかは、私は分かりません。逆に増えるかもしれません。といいますのは、今(プラットフォームが)二つで限界なのは、アーキテクチャーが三つ四つにもなったら、それこそどのプラットフォームもソフト不足になってしまうからです。例を挙げますと、アップルさんがいろいろなフォームファクターのスマートデバイスをどんどん出せる大きな理由は、一つのソフトの書き方の作法が全部のプラットフォームに適応できるようになっているからです。アップルさんの場合は共通のiOSというプラットフォームがあります。また、Androidのたくさんの機種があっても、ソフトの供給にみなさん困られないのは、Androidという共通のプラットフォームの(ソフトの)書き方でいろいろな機種で動くからです。よって、「任天堂のプラットフォームもそうならねばならない」ということが一番大きなポイントです。ハードが1種類になるかどうかは未来の要求次第ですし、分かりませんが、少なくとも「ソフトを一個一個のプラットフォームに向けてバラバラにつくっていく」、あるいは「プラットフォームの乗り換えのたびに大騒ぎが起きて、いつもプラットフォームの序盤でお客様に『品揃えが足りない』と感じさせてしまう」状況を今後はどうしてもなくしたいという思いでやっていますし、その成果はおそらくこれからお見せできるのではないかと思います。


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