5 | Wii Uやニンテンドー3DSという一つのプラットフォームは6、7年使われるのが前提なので、その期間の業績で経営成績は判断されるべきだと思う。今年1月の経営方針説明会では、岩田社長からコミットメントという発言があり、報道では「辞任を示唆」と書いてあった。自分は、岩田社長が一つのプラットフォームの間ずっと経営をやり続けるという前提で株を買い増してきたが、もし辞任という話になると話が違ってくるので、その真意をお尋ねしたい。 |
---|---|
5 |
岩田: まず、今おっしゃったように、本年1月末に前年度(第73期)の第3四半期の決算発表の席で、第74期の業績に関しては、その当時の足下の為替レートである1ドル=90円、1ユーロ=120円を前提として、営業利益1000億円を目指すということを申しあげました。 (その翌日に開催された)決算説明会の場で、「これは経営陣のコミットメントとしてお話ししています」ということを申しあげました。その後、本年4月末に第74期の連結業績予想を正式に発表した際にも、「1月末に1ドル=90円、1ユーロ=120円を前提に1000億円を目標にしますということを申しあげていましたが、(4月末時点での)為替のレートが変わったので、その影響を考えるといくらです」と申しあげるよりも、シンプルにお伝えしたほうがいいと判断して、そのままの業績予想を私どもは掲げています。 確かに、「コミットメント」という言葉を使ったことで、「辞任を示唆」という記事が出たというのはおっしゃるとおりですが、一方で私は質問に対して、あるいは誰かから何かを聞かれたことについて、自分の進退について何か語ったことはございません。また、今おっしゃっていただいたように、一つのプラットフォームというのは、少なくとも5年単位のサイクルが一つのビジネスサイクルですから、それを本来は単年度の成績でどうこうするべきではないとも思います。一方で、足下では、「任天堂は事業の構造が今までとは変わってしまって、環境変化に適応できていないから未来は暗いんじゃないか」というご意見も耳にしておりましたし、「任天堂自身が、任天堂らしい業績に早く回復できるということをはっきり明言しなければ、それは投資される方に『今後何を基準に考えていけばいいのか』ということについて、しっかりとメッセージを発することができない」と考えました。それまで、残念ながら為替の推移が非常に任天堂の事業構造にとっては厳しい、超円高の時代がしばらく続いておりましたし、また、プラットフォームの乗り換えという経済的には一番厳しくなる状況が重なりました。今まで売れていたプラットフォーム向けのソフトはあまり自社で作っておらず、新しいプラットフォームを立ち上げるための(自社)ソフトは、最初の年度にはそんなに売れないという状況です。2年目、3年目と数を積み重ねて、最終的には大きなビジネスになりますが、単年度の業績にはそれは表れてこないわけです。それから、(新しいプラットフォームは)最初のうちはハードウェアの採算というのは悪いのですが、その上に異常な円高ですから、今度はそのコスト構造の影響もあって、任天堂は連結業績を発表するようになってから初めて営業赤字になったわけですし、それが2年も続いてしまいました。営業赤字が2年続いていることに関しては、例えば取締役の報酬を減額したり、役員賞与をいただかないという形で、私たちはけじめをつけているつもりですが、それであっても、ではこれからどうなるのかと、お考えの方もいらっしゃると思います。幸い、(昨年末から)少し為替の流れも変わってきましたので、多くの方が「任天堂らしい利益水準とは、4桁億円の営業利益をコンスタントに出せることである」ということを、歴史上の推移から考えていらっしゃいますから、そのことを併せて考えますと、1000億円をコミットメントとして、「われわれがその目標達成に向けて強い意思を持っています」ということをお伝えしたいということで(この言葉を)使いました。 現在私は、この業績目標をどのように達成するかを考えることにエネルギーを使っていまして、「万が一達成できない場合にどうしようか、そのシナリオはどうするんだ」といったことにそもそもそれほどエネルギーを使っておりません。また、そのことをあれこれ具体的に語る段階でもないと思っています。その意味では、「われわれはこの目標の達成に向けて最善の努力をし、必ず達成したいという意思を持っています」ということがコミットメントの意味だとお考えください。具体的に達成できない場合はどうこうという報道に関しては、私の発言からではなくて、他の方がその言葉を聞いてどう思われたか、ということが報道されているのだと理解しております。応援のメッセージと受け止めさせていただきます。ありがとうございます。 |
6 | Wii Uが立ち上げ時の勢いを持続できなかったことを残念に思う。ハードウェアの勢いを持続するにあたっては、自社ソフトだけでは不十分ではないか。最近の発表を見ると、「他社さんのハードでは発表されているが、Wii Uでは出ない」というものもある。この件について、岩田社長の考えを聞かせてほしい。 |
---|---|
6 |
岩田: まず、サードパーティーさんからのWii U向けのソフトの新作発表が少ないというのは、現時点でご指摘のとおりかと思います。日本のソフトメーカーさんと海外のソフトメーカーさんでまたトーンがちょっと違いまして、海外に行きますと、確かに、任天堂に対して有力ソフトを供給しないと表明されたメーカーさんも一部にございましたが、その一方で、主力なタイトルをすべてWii Uに展開してくださっている大手メーカーさんもございますので、その意味では一様にそうなっているというよりは、個々のソフトメーカーさんごとにお考えが違うということかと思います。もちろん、「早く多くのソフトメーカーさんのご支持をいただけて、たくさんのソフトが集まるということがより望ましい」ことには違いがございませんので、私どもが今一番しなければいけないことというのは2つあると思っています。 一つは、自社ソフトをこれから来月以降どんどん投入していくことで、Wii Uそのものの勢いを改善させること。これはやはり、足下に勢いのないプラットフォームに投資をしようということについて、他社さんは他社さんの論理で動いておられるわけですから、経済合理性から考えて「ここに行けば自分たちも利益が出そうだ」と感じていただけるようにしたいと思います。(自社プラットフォームにソフトメーカーさんのソフトを出していただくために必要な)すべての条件を、例えばお金の力だけでやっていくと、今度は当社そのものの経営が成り立たなくなってしまいます。ですから、そのような形ではなく、まず自社のソフトでプラットフォームの勢いをつけるというのが一つの方法です。 もう一つは、これはE3のタイミングで発表されていたWii U向けの他社さんのタイトルの例です。これはすでに発表されたタイトルで、他にもまだ発表はされていないけれども予定されている有力タイトルもございますが、私が発表すべきことではなくてサードパーティーのソフトメーカーさんが発表されるべきことなのでこの場では申しあげませんが、こういうタイトルの中からヒットが出ることが実は非常に大事だと思っています。特にWii Uの場合、発売当初は海外のソフトメーカーさんから非常にたくさんのソフトが出ましたが、そのソフトは以前に他機種で発売されたものをWii Uに移植をしたというものが中心で、そうしたソフトはいわば後から発売されているわけですから、あまりセールス上思わしい結果が出ませんでした。その結果、ソフトメーカーさんの中に悲観的になられたところもあります。一方で、今年は初めて他機種向けのものとWii U版が同じタイミングで発売されるときが来るわけですが、そのときにWii Uがどういう勢いであるかが重要です。そして、Wii Uというものの遊びの価値、例えば「リビングルームにWii Uがつながっていても、テレビはいつも自分一人が独占できるとは限らないので、ご家族の方がテレビを観るときにはWii U GamePad単独で遊べる」というような特長も含めてお考えいただいたときに、Wii U版を選ぼうという方がある程度増えて、「Wii U版も商売になる」あるいは「Wii Uで思わぬヒットをした」ということが起こったとします。そうすると、ハードの勢いは向上しているし、ソフトメーカーさんにもヒットの例があるとなれば、多くのソフトメーカーさんが、たとえ現時点で強い意思を持っておられなくても、みなさん機を見るに敏に判断されると思います。われわれは短期的には自社のソフトで勢いを増し、年末までにソフトメーカーさんの中で成功例を作ることで、来年以降の流れを大きく変えていきたいと考えております。ありがとうございました。 |
7 | 損益計算書の特別損失に計上されている訴訟関連損失28億4000万円について説明してほしい。 |
---|---|
7 |
岩田: 訴訟関連損失というのは、訴訟に関連して賠償金等を支払わなければならない場合等に会計上立てておく必要があるものです。ここに載っているからといって、損失が確定したということではございません。最近では知的財産権に関連した訴訟が非常に増えておりまして、当社の商品に関して「自社の特許に触れているのではないか」といったお話を多くいただきます。このようなケースで、当社は法律上の観点から侵害していないと信じているけれども、逆に権利者の方は「侵害しているはずだ」とお考えで、裁判になることがございます。 ご指摘の28億4000万円の訴訟関連損失については、一部でニュースにもなりましたが、トミタテクノロジー社から提起された特許権の侵害訴訟において、当社が賠償額として3020万米ドルを支払うべきとの陪審員による評決が3月13日にニューヨーク州の連邦地方裁判所で出された件でございます。これは第一審であり、当社は控訴する予定ですので、将来、控訴審で当社の主張が認めていただけたら、損失からまた振り替えて利益にすることができますし、私たちとしては当社の主張が認められると信じております。ただ、会計上は、いったんこのような判決が出た以上、計上する必要がございますので、このように処理しております。 |
8 | 世界戦略の中身を具体的に教えてほしい。日本は少子高齢化を迎えているが、世界には子どもがたくさんいる。サウジアラビアやアラブ首長国連邦には、子どもの日本語学校がたくさんあるそうで、そこに皇族や大富豪の子どもが続々と入学されていて、日本人の子どもとコミュニケーションをとるのに任天堂のゲーム機を使って遊んでいるということを聞いたことがある。また、高齢化の話だが、自分は現在、有料介護保険施設や養護老人保健施設でボランティアをしているが、ある施設では、各部屋にたくさんの任天堂のゲーム機が置いてあり、聞いてみると、「ゲームはしないけど四文字熟語や漢字検定の勉強をしている」と言う。そういう方もおられるので、少子化と高齢化、ここに目を向ければ、ビジネスチャンスはもっと増えるのではないか。また、要望として、来年の株主総会では株主がにこにこできるよう、業績の回復をお願いしたい。同じく来年の株主総会で、若手や女性が何人か、取締役席に座っていてほしい。それから、安倍首相が成長戦略の中で英語教育への取り組み強化を掲げた。小学生から大人まで、楽しく英語が身に付くソフトを、任天堂のほうで作ってほしい。 |
---|---|
8 |
岩田: まず、世界のゲーム市場は、やはり日本、アメリカ、ヨーロッパが中心ですので、まずこれらの地域がどのような状況かというお話を少しさせていただこうと思います。これは、今年の1月から3月のハードの市場占有率です。一番上のグラフが日本、次がアメリカ、ヨーロッパで、一番下は日本、アメリカ、ヨーロッパを合計したものです。そして、この赤い部分がニンテンドー3DSのマーケットシェアです。それから、ピンク色がニンテンドーDS、薄いブルーがWii、濃いブルーがWii U。それから、ソニーさんのPSP、PS Vita、そしてPS3、Xboxと、これらがハード市場でシェアを分け合っている構造になっています。ご覧いただくとお分かりのとおり、日本でのニンテンドー3DSは非常に大きな存在感があるのに、アメリカやヨーロッパでは今一つです。その結果、世界全体でも(シェアが)30%を切っているという状態です。これが1月から3月までの状況でしたが、実は3月の後半から、ニンテンドー3DSの有力ソフトを次々とアメリカやヨーロッパ向けに発売しました。これによって、4月にはこう変わり、5月にはこうなって、多くのゲーム機が世代交代で販売数を減らしていく中、ニンテンドー3DSは前年並みあるいは前年以上に売れるという状況を作ることができました。まずはこうした足固めをしっかりするのが、今期の業績を考える上では非常に重要だと思っています。 また、経営陣に関しては、年齢や性別等ではなく、これから1年間の任天堂の舵取りをする上で最善の体制として取締役候補者を推薦しております。今年はちょうど世代交代の時期にあたり、年齢が高い4人の取締役が退任をして、若い人間が入ってまいりますので、平均年齢でいうと7歳弱ほどの若返りになります。それから、女性については、任天堂の中には女性の幹部社員もたくさんおりますし、女性の意見は商品開発にもいろいろな形で取り入れられています。先ほど例に挙げました『とびだせ どうぶつの森』は女性の開発者が非常に多くかかわっている代表的なタイトルであり、その商品はやはり女性のお客様にたくさん受け入れられているということがございます。その意味で、われわれは女性の視点を十分に活かして開発しているからそういうことができていると思います。「(経営陣の中に)女性がいないから問題があって、女性がいるから問題がない」というのではなくて、女性の視点と意見をきちんと反映して会社が運営できているかどうかだと思っておりますので、その旨はご了解ください。 それから、英語教育の可能性についてですが、ゲーム機の一つの特徴として、何かをすると反応がすぐ返ってくる、ということがあります。人間というのは、何かをしても反応が返ってこないものを続けることは難しく、例えば英語の勉強を1日すればたちどころにしゃべれるようになるのであれば、きっと日本中、英語をしゃべれる人だらけになるわけですが、自分が努力したことに対して、すぐに上達するなどの反応がないのが現実で、これが、英語の勉強を続けられない大きな要因だという観点で考えますと、ゲーム機の技術を使ってできることというのはあると思います。一方で、ニンテンドーDSを出したばかりの頃と比べますと、今はスマートフォンやタブレットのような別の手段もあって、ゲーム機でしか提供できないものではなくなってきている面もあるので、それらのことも考慮しながら、「任天堂が娯楽と教育を兼ね備えた楽しみながら勉強できるものは何か」ということについては、引き続き考えていきたいと思います。ありがとうございました。 |