花といきもの立体図鑑

2012年 3月号

陽射しとともに、吹く風にもあたたかさを感じる日がふえてきました。木や草花の芽も顔を出し、虫たちも活動をはじめるころです。野原、公園、雑木林、あちこちに春の気配が感じられます。久しぶりに外に出かけて、花やいきものをさがしてみませんか。

この春から、毎月1回、身近な自然を季節とともに感じることができるような情報を、写真とともに配信させていただきます。「花といきもの立体図鑑」を、さらに深くご活用していただければ幸いです。

今月の話題

スミレ

※ニンテンドー3DSでご覧の方は、上記写真をタッチペンで長押すると、立体写真をご覧いただけます。

花の香りもやさしいスミレの花の砂糖漬けは、19世紀のオーストリア皇妃エリザベートが好んだお菓子としても知られています。今でもケーキの飾りなどによく使われています。

その材料であるニオイスミレは、ヨーロッパでとても愛されてきた花です。フランスの英雄ナポレオンは机の上にその花束を置いていたとも伝えられ、シェークスピアの物語にはニオイスミレの花がたびたび登場します。

日本にもスミレの仲間はたくさんあります。自生する50種ほどに、亜種や変種、雑種などを加えれば200種類近くになるとか。スミレやタチツボスミレのようにさまざまな環境に広く生育する種類がある一方、日本海側の山地に見られるスミレサイシン、西日本に多いシハイスミレなど、見られる地域が限られているものもあります。また、「すみれ色」というと紫色を思い浮かべますが、ツボスミレやオオバキスミレなどのように白や黄色の花を咲かせるものもあります。

あなたはどのスミレが好きですか。お気に入りの花が見つかったら、次は「いきものリンク」をたどってみましょう。似ている花や生育する環境など、新しい知識につながります。種子を運ぶ手伝いをしているのはどんな昆虫でしょうか。

ところで、スミレの仲間は、ときとして花を咲かせず緑色のつぼみのまま種子をつけることがあります。これが「閉鎖花」です。くわしくはコラムをのぞいてみてください。

さがしてみよう(花編)

カタクリ

春を呼ぶ花といわれるカタクリが「スプリング・エフェメラル(春のはかない生命)」と呼ばれるのには、わけがあります。落葉樹林の林床で春いちばんに花を咲かせて実を結び、ほかの木や草が芽吹くころには休眠してしまうのです。セツブンソウやイチリンソウなどもスプリング・エフェメラルの仲間です。くわしくはコラム「春の到来とともに咲く花」をごらんください。ちなみにギフチョウやウスバシロチョウなど、春のほんの短い時期にだけ姿を見せる美しいチョウたちもスプリング・エフェメラルと呼ばれます。

さがしてみよう(いきもの編)

ダイシャクシギ

春の干潟に出かけてみましょう。鳥たちがのんびりと歩き回りながら、泥の中のカニやエビなどを食べています。カーブした長いくちばしをもち、「ホーイーン」と鳴いているのはダイシャクシギ。繁殖地のシベリア地方から東南アジアへ渡る旅の途中に立ち寄っているのです。

シギの仲間は旅鳥と呼ばれ、南北を往復する旅の途中に日本で翼を休めます。渡り鳥について、くわしくはコラム「季節と鳥」をごらんください。コラム「くちばしの形と食べ物」では、ダイシャクシギの長いくちばしのひみつもわかりますよ。

季節のことば

啓蟄

3月5日は二十四節気の「啓蟄(けいちつ)」にあたります。冬眠していた虫が目覚め、土の中からはい出してくる季節という意味です。

俳句の世界にも、「蟻(あり)穴を出づ」という春の季語があります。クロオオアリやクロヤマアリなどアリの仲間は冬の間は地中の穴の中でじっとしていますが、暖かくなってくる3月ごろから活動を始めます。また「蛇穴を出づ」という季語もあり、ヤマカガシなどヘビの仲間も3月になると冬眠から目覚めます。その餌となるアズマヒキガエルやトノサマガエルなども同じです。花壇の土を掘り返しているときに、寝ぼけまなこのカエルを掘り当てることがあるかもしれません。

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