2. 好きな曲をダウンロード

岩田

今作に関しては、楽曲の追加ダウンロードや歌診断など
いろいろな機能が新たに追加されました。
先ほど、北村さんは「うれしい」と言いましたけど、
開発をするときは普通、大変なことも多いですよね?

北村

それが、苦労という言葉とは無縁なくらい、
開発すること自体がとても楽しかったんです。

久馬

僕は楽曲データをつくるのがメインの仕事で、
それ自体はとても大変な作業だったのですが、
つくったそばから、スタッフのみんなが新曲に飛びついてくれたんです。
しかもすぐに演奏をはじめてくれて、
そういう光景を見ると、大変だったことがすごく報われましたね。

北村

新しい楽曲ができてくると、
「みんなでテストプレイしよう」と言っては合奏してましたし。
テストプレイというのは“名目上”だったりするんですけど(苦笑)。

久馬

しかも、新曲が誰かスタッフのお気に入りだったりすると
すごくテンションが上がってるんです。

岩田

それじゃ、仕事なのか、遊びなのかわかんないですよ(笑)。
でも、そのくらいこのソフトのおもしろさに
どっぷり漬かってつくっていたんですね。
ところで、今回の『バンブラDX』には、
楽曲を100曲までダウンロードできる仕組みがありますが、
ダウンロードに関しては色々と課題がありましたね。

北村

はい。
著作権で保護されている音楽は、必要な手続きを踏まないと、
インターネットのサーバに置いておくことができないんです。
でも、せっかく作曲機能があるなら、
著作権のある曲にも対応できる共有の仕組みを用意したかったんです。
それも、お客さんが1曲ごとに料金を払わなくてもすむような
手軽に使える仕組みにしないと、多くの人に使ってもらえないと思いました。

岩田

どうやって、著作権の問題をクリアしたのですか?

北村

JASRAC(※5)さんに何度も通って、
こちらがやりたいことを説明しました。
J-POPやアニメソングなど様々な曲を任天堂ができるだけ用意して、
お客さんがダウンロードできるようにしたいと。
そうしたら、とても好意的に対応してくださったんです。
そこで、あらかじめ任天堂のサーバに用意した楽曲を、
ニンテンドーDSで再生する仕組みを説明しました。

※5

JASRAC=社団法人日本音楽著作権協会のこと。発音は「ジャスラック」。楽曲の著作権を持つ作詞者、作曲者、音楽出版者から著作権の信託を受けて、音楽の利用者に対する利用許諾(ライセンス)、利用料の徴収と権利者への分配を行う団体。

岩田

パソコンや携帯電話で、好きな曲を
ダウンロードするのとは異なるんですね。

北村

実際に歌ったり、演奏している楽曲ではなく、
ゲーム用の音源としてダウンロードしますので、
作曲家と作詞家の方への著作権料のみが発生します。
そこで、その著作権料100曲分までを
ダウンロード実績に基づいて任天堂が支払うことにしました。
このようにすることで、お客さんが自分の好きな曲を
100曲まで手軽にダウンロードできる仕組みが実現できたんです。

岩田

一度ダウンロードした曲は
あとから削除することはできないんですよね。

北村

削除できてしまうと、何曲でも落とし放題になってしまいます。

北原

無限にダウンロードできるような仕組みにすると、
著作権料の支払いが大変なことになってしまうんです。

岩田

でも、ダウンロードしたあとで、
「こんな曲はほしくなかったのに」ということはないのですか。

北原

そこは「試聴」できるシステムを用意しましたので大丈夫です。
まず自分の耳で聴いて、ほしいと思った楽曲だけを
ダウンロードできるようになっています。
しかも遊んでくれた人たちが「評価」できる仕組みがあって、
どの曲がどのくらいの評価をされているのかを
事前にチェックすることもできます。

岩田

今回、最初にダウンロードできる楽曲を200曲ほど用意しましたが、
100曲までダウンロードできる今作の仕組みだと、
「たったの200曲なの!?」ということになりそうですよね

北村

そこは全国の「バンブラ職人」さんたちにお願いしたいところなんです。
前作でも、自分でつくった楽曲をブログなどに
アップしている人たちがいらっしゃいました。
今回は任天堂サーバに投稿できますので、
発表の場になればいいなと思っています。

岩田

すると、『バンブラDX』が出たあとで
大ヒットしたような曲も楽しめるようになるんですね。

久馬

はい。JASRACさんが管理する曲(※6)をすべて
サーバにアップすることが可能です。
だから、好みの曲がいろいろ見つかるようになると思います。

※6

JASRACさんが管理する曲=国内の曲で「インタラクティブ配信」のカテゴリーが「信託」のものと、国内曲・洋楽共に著作権消滅のものが投稿可能です。楽曲の信託状況は、JASRAC作品データベース検索「J-WID」にてご確認ください。

岩田

あまりにもたくさんの楽曲が投稿されてしまって、
「クオリティ的にこれはどうなの?」という曲も出てくるんじゃないですか?

北村

そこはしっかりバーバラが審査しますので、大丈夫です(笑)。

久馬

バーバラというのは、あくまでゲーム上の話ですね(笑)。
実際は、JASRACさんの楽曲を投稿する際には
JASRAC登録番号を入力する必要があるのですが、
その番号を間違えて入力したりとか、
楽器数が少なかったり、曲が短かすぎたりすると、
自動的にはじかれるような仕組みになっています。
ですから、せっかく一生懸命に楽曲をつくっても
はじかれてしまうこともありますので、
投稿する前に、しっかり取扱説明書で
「投稿の注意事項」を確認していただきたいですね。

北村

そのあとも、専門家の方に原曲と聴きくらべていただいて、
その審査に通った曲だけを、ダウンロード用のサーバに
順次アップすることになっています。

岩田

だから、一定の水準を超えた曲だけが楽しめるんですね。

北村

投稿の方法も2通りあります。
自宅で「ニンテンドーWi-Fiコネクション」が使える環境にある人は、
自宅にいながら投稿できますし、
そうでない人も、店頭の「DSステーション」を使えば、
簡単に投稿できるようになっています。

久馬

あと、ダウンロードも自宅や店頭でできるようになっています。
しかも、どの曲が何回ダウンロードされているか、といった情報も
わかるようになっています。

岩田

「バンブラ職人」のみなさんには、
「自分でつくった楽曲をたくさんの人たちに楽しんでほしい」という
思いを満たしていただくことができますし、
曲の権利者の方の権利を侵すこともありませんし、
お客さんに負担をおかけしないという意味でも、
とてもユニークでおもしろい仕組みになりましたね。

北村

今回の『バンブラDX』では、
新たに「歌う」というモードを入れました。
『バンブラDX』の楽譜を演奏以外の使い方ができないか、
というのが最初の発想です。
楽器を演奏したことのない人たちでも歌ったことはあると思うんです。

岩田

「歌声タイプ診断」というのがありますね。

久馬

最初は歌った声をプログラムで解析して、
どういった要素で判定することができるのか、実験を重ねていました。
それで、音程やリズム感などがチェックできるようになって、
どうすればそれを活かせるのか考えていたんですが、
カラオケがヒントになったんです。

北村

みんな、何を目的にカラオケに行くかと考えたら、
みんなで盛り上がるのは当然として、
うまく歌って、モテたいからだよねという結論に達して・・・。
とくにコンパなんかだと、自分の得意な歌を披露して、
みんなから「うまい」って思われたいんじゃないかと思うんですね。
そこで、勝負のかかったカラオケに行く前は、
『バンブラDX』で診断してもらって、
この歌だとバッチリだという状態で、本番に望んでほしいと(笑)。

北原

開発中は「相性度」ではなく
「モテ度」と呼んでいたくらいなんです。
だから、企画の動機はちょっと不純なんです。

一同

(笑)

岩田

開発中はみなさん、サウンドブースにこもって、
それぞれ歌っていたんですよね。

北原

一度こもってしまうと30分は席に戻ってきませんでした。

北村

名目上は、サンプルをとるという仕事でしたけど。

岩田

サウンドブースがカラオケボックス化していたんですか。
今回は本当に「名目上」の仕事が多いですね。
ところでみなさんの「歌声タイプ」は、
どのような診断結果がでているのですか?

北原

僕は「ムード歌謡」です。ちょっと声が低いものですから。

久馬

僕は「R&B」です。

北村

(ちょっと恥ずかしそうに)わたしは・・・「アイドル」です。

一同

(笑)

岩田

ちなみにアイドルだからといって、
決して歌がうまいからとかではないんですよね?

北村

音のはずし具合がアイドルっぽいんです。

一同

(笑)