プロローグ

Prologue 通りの角まで行くと、そこに公衆電話があった。俺はその前で足を止め、受話器を上げると、ズボンのポケットに入っていた最後のコインを投入口に落として、レッドクラウン商会へのダイヤルを回した。 やがて受話器の向こうから、呼び出し音が聞こえてきた。俺は肩でためいきをつきながら、その音に耳を傾けていた。その電話が繋がったときから、自分に思いもかけないことが起こりはじめることもまだ知らずに。 そうだ、そのときの俺はまだ何も気付いていなかった。堪忍袋の緒が切れたエドが、俺をクビにしようとしていたことにも俺の住処となっていたあのアパートの立ち退きがすでに決まっていたことにも。 5/5