グローバルにお客様へ娯楽を提供している任天堂は、海外の子会社のみならず、世界中の取引先様とも密接に連携しながら開発を進めたり、事業を展開したりしています。そのなかでのコミュニケーションでは、言語や文化、バックグラウンドの違いなどによるハードルがいくつも存在します。私はキャリアで入社して以来、コミュニケーションを円滑にして、人同士をつなげる役割に10年以上従事してきました。こういった業務経験を通じて、より円滑なコミュニケーションを実現するために、いくつかのポイントを意識するようになりました。
まず、開発におけるコミュニケーションには技術的な内容を多く含むため、技術的な知見を十分に持つことが挙げられます。私は当社と海外のエンジニア間でおこなわれる技術会議の通訳を担当することが多いのですが、こういった会議の通訳には技術的な知見が不可欠です。私は前職でプログラマーの経験があり、それ以外にもエンジニア業務に数多く関わっていたことも幸いして、開発に必要な技術やツールに関する知識を持っていました。一方で、技術は常に進化し続けており、新たな技術や用語が次々と生まれています。そこで、これまで積み上げてきたキャリアをベースに、知識の習得に積極的に取り組む姿勢で情報収集や事前学習に努めています。
次に、通訳が介在することによる会議時間の増加を抑えることです。逐次通訳と呼ばれる、話者が話し終えたあとに通訳をおこなう場合、日本語だけ、英語だけで実施をする会議と比べて、概ね2倍の時間がかかってしまいます。そのため、議題の多い会議においては時間不足に悩まされることが少なくありませんでした。
そこで私は、上司の勧めもあり、これまでの技術系通訳の経験を活かし、同時通訳にチャレンジすることを決意しました。もちろん最初はとても大変でしたが、通訳をしたあとはいつも、振り返りと内省をするようにしました。振り返りの中でもっと良い表現に気がつくことも多々あり、そうすることで蓄積していく知識をもとに、情緒などの繊細なニュアンスも含めて、次の会議ではより適切に伝えられるように心掛けています。今では、同時通訳者として会議に参加することが可能となり、一度に多くの議題をこなすことで、円滑なコミュニケーションに寄与できるようにもなりました。もっとも、同時通訳ができるようになって以降も、逐次通訳が求められる場面は多々あり、その場合においても時短は常に意識しています。
また、任天堂の中には私以外にも通訳者がいて、それぞれに課題や悩みを抱えていることが少なくありませんでした。そこで私は、得られた知見を社内の通訳者全体に共有することも意識しています。具体的には、通訳チームのリーダーとして通訳者向けの勉強会を紹介したり、通訳の際に大事にしているポイントなどの情報を交換する場を設けるようにしたりしています。そのような取り組みを続けることは、私自身にとっても学びやスキルアップにつながっていると思います。
そして私の役割は、通訳であると同時にコーディネーターでもあります。たとえば、通訳者が円滑な通訳を提供できるように、会議参加者とも協力を得られるような体制も整えていきました。ただ、実際の会議の場では、言語や文化の違いを乗り越え通訳できたとしても、会話がかみ合わないこともあります。そのような場面では、「このような内容を伝えたいのですよね」と司会者のように介入し、人同士をつなげてコミュニケーションを円滑にすることで、議論の流れをサポートしています。技術系通訳・コーディネートの仕事では、単に言葉を翻訳するだけではなく、相互理解が深まるように工夫を凝らして、言語や文化的なギャップを乗り越えながら円滑に会議を進めることで、有意義なコミュニケーションに資することが重要です。
この業務を通じて、多くの関係者やエンジニアの信頼を得て、任天堂が展開しているさまざまなプロダクトやプロジェクトにおける技術通訳を任せてもらえることは、とても嬉しいことです。また、毎回異なるテーマに取り組むこともできるため、いつも新たな発見があります。これまでの経験が線となってつながっていくことで、技術系通訳・コーディネーターとしてより良い通訳を突き詰めていき、言語や文化の違いを超えて世界中のお客様に製品を届けることに貢献できることは、この仕事の大きな魅力だと感じています。