アプリの外の体験も大事にしたいアプリの外の体験も大事にしたい

お子様に安心して渡すことができるゲーム機

Nintendo Switchの発売と同時に配信がはじまった『Nintendo みまもり Switch』は、無料のスマートフォンアプリです。私はこのアプリを開発するにあたって、UI/UXデザイナーとして関わりました。
Nintendo Switchには「お子様に安心して渡すことができるゲーム機」というコンセプトが設けられていました。娯楽品は「夢中になってしまう」という特性があります。「ついつい夢中になって、宿題をするのを忘れていた」なんてこともあるかもしれません。保護者の方からすると、「子どものため」とせっかく買ってあげたゲーム機が、お子様のために良くないものとなっては本末転倒ですよね。
ですので、『みまもり Switch』はネットワーク経由で、Nintendo Switchの「プレイ時間」や「機能の制限」を設定できるようになっています。また、Nintendo Switchでお子様が遊んだプレイ記録をスマートフォンで閲覧できるようになっています。
正直に言うと、私自身、開発当初は「制限機能をスマートフォンへ移すだけで良いのでは?」と考えていました。このアプリでできることとして、「プレイ時間の監視や制限」「ゲームの強制終了」のみで良いのではと思っていたのです。

コレジャナイ感

スマートフォンからの「制限・監視」機能は保護者の方の悩みは解決できます。けれど、お子様の娯楽体験を妨げてしまい、親子関係に亀裂が入ってしまうかもしれません。そうすると新たな問題が生まれてしまいます。結局みんな悲しくなってしまうとなると「コレジャナイ」と感じました。
私が子どもの頃、母親に買ってもらったスーパーファミコンを夢中で遊んでいました。ある日、スーパーファミコンのACアダプターがなくなりました。ほかにやらなければいけないこともせずに遊び続けていたので、母親がとうとう強硬手段に出て、隠してしまったのです。時間を守らずに遊んでいた私に非があるのですが、何もそこまでしなくてもという思いと、母親は母親でさすがに大人げないやり方だなという思いで、親子ともに悶々としました。開発チーム内のメンバーもこの「悶々体験」はさまざまな形で体験していました。
家族のあり方はさまざまだと思います。どういう家庭で、どういう状況でこの「悶々体験」が起こってしまうのか? を「ユーザの可視化」「ユーザの行動分析」「家族のそれぞれのタイムラインの見える化」といったいわゆる、サービスデザイン思考を愚直に重ね、チーム内での合意を大事にしながらサービスそのものを設計していきました。

保護者の方は、お子様の状況やゲームについて、わからない、知ることができない、ということが原因で、ついつい「一方通行の制限」をしてしまう、ということがわかりました。そんな状況を改善するために、お子様が何のゲームをどのくらいの時間プレイしているのかを保護者の方が把握できるようにすることで、まずは会話のきっかけを提供したいと考えました。保護者の方が状況を知ることができれば、親子間で「今日はそろそろゲーム終わったら?」「もう少しでこのステージがクリアできそうなんだ。あと5分やらせて!」といった、一方通行の制限ではないコミュニケーションが生まれると考えたのです。

親子間の会話のきっかけに

「一方通行の制限や監視」という機能のUIではなく、ゲームにまつわる親子間の関係を「みまもり」としてデザインをしていきました。「親子間の会話のきっかけ」を生み出すために、UI面でも意識しました。

一例ですが、検討中の画面では、日付を大きく表示しています。ですが、製品版では曜日を大きく表示しています。これは、学校の時間割を想像してもらうとわかりやすいと思いますが、「今日、塾じゃないの?」や「土曜だから、OK!」など親子間では曜日で会話が行われていますよね。このようにスムーズに会話しやすくするため、曜日を選んで表示しています。

また、『みまもり Switch』には保護者によって設定できる「ゲームのやめどきの案内方法」が、2つあります。
1つめは「アラームモード」。設定された時間に「時間ですよ」とお知らせする方法です。
2つめは「中断モード」。設定された時間になると「もうあそべません」と強制スリープするものになります。なかなか強烈です。

アプリ内では「中断モードON/OFF」のUIは、あえて奥のほうに設置しています。これは、約束の時間にゲームを終われなかったお子様に対し、保護者の方がいきなり「中断」ではなく、「子どものことを想像して、一度話してみる」というきっかけを生み出したいためです。一見、保護者の方のニーズに反するような設計ですが、親子の関係を考えてこのようにしています。

「安心」ってなんだろう?

開発期間中、Nintendo Switchのコンセプトにあった、「お子様に安心して渡せるゲーム機」の「安心」とは? と、いつも考えていました。
「制限や監視」でしょうか? それだけではないと思うんです。一番大事な体験の軸はアプリの内ではなく、アプリの外にあります。その光景が『Nintendo みまもり Switch』で考えた娯楽の体験です。親子にとって「安心」とは笑顔でいられることです。このアプリが親子間の会話のきっかけになり、Nintendo Switchがあることで家族みんなが笑顔になることを願っています。

※「Nintendo みまもり Switch」についての講演動画はこちら(YouTube)
UI Crunch(DeNAとGoodpatchの2社が運営するUIデザイナーのコミュニティ)主催のイベント『UI Crunch #13 娯楽のUI - by Nintendo -』(2018年4月27日(金)開催)より

社員略歴

藤野企画制作部/2008年 入社
2008年 「デザイン系」入社。
『ニンテンドーeショップ( Nintendo Switch/ニンテンドー3DS/Wii U)』『イカリング』(2015)『Nintendo みまもり Switch』(2017)『Nintendo Switch Online』(2018)などのオンラインサービス分野のUI/UX設計を担当。

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