岩田
『スーパーマリオ』の25年の歴史のなかで、
変えてきたことがある一方で、変えなかったこともあると思います。
それはどんなことですか?紺野さんから訊いてみましょうか。
紺野
変えているものと変えていないもの・・・。
そういう意味では、毎回『マリオ』をつくり終えると、
手塚さんたちといつも「次はどうしよう」という話をしますね。
「次はどんなことで新しくしようか」と。
たとえば『スーパーマリオワールド』では、
でグライダーのように飛ぶことも新しい要素でしたし、
それを実現するまでには、けっこう時間がかかりました。
それから『マリオ3』のときも・・・。
岩田
とか、も登場しましたね。
紺野
他にもとか、いろいろつくりました(笑)。
そのように「次の『マリオ』の軸は何にしようか」というのは、
すごく考えながら、苦しみながら開発を進めてきました。
ただ、とにかくお客さんにとって面白くて、
自分たちにとっても面白いものをつくる、
ということをすごく意識していましたから
「『マリオ』のこれは変えない」ということを
意識した記憶はあんまりないですね。
岩田
“守ろう”よりは、むしろ“変えよう”とした歴史なんですね。
紺野
そうです。“守ろう”ではないです。
やはり「どう変えようか」と思っていますね、いつも。
ただ、最終的に商品になって、変わった部分を見て
「まだまだやなあ」と、宮本さんに言われたりするんですけど。
岩田
江口さんはどう思いますか?
自分で直接『マリオ』に関わった部分と、
周りの人が『スーパーマリオ』をつくって、
それを客観的に見ていたところの両方の視点があると思いますが。
江口
やっぱり、時代に合わせた新しい提案をして、
たくさんの人に楽しんでいただけるようなことを意識して
開発を進めてきているように思います。
ただその一方で、変えないようにしている部分でいうと、
周りに媚びないようにしていることかなと僕は思います。
たとえば、『マリオ』を低年齢層向けにしていく方向性も
あったように思うんですけど、
そっちのほうには行ってないんですよね。
絵を見ると「かわいいな」とは思うんですけど、
そのなかで、誰にとっても
「ヒーローであってほしい」「憧れる存在であってほしい」
といった線を守り続けようとしている感じがします。
とはいえ、22年前に僕らがつくった『マリオ3』は、
どっちかというと“かわいい系”の感じで、
いま見ると、「よかったのかな?」みたいに思うところもありますが(笑)。
わたしも当事者のひとりなんですけど・・・。
岩田
当時はあのマリオがよかったんでしょうね。
江口
そう言ってもらえると助かります。
『マリオ3』の絵は手塚さんの影響もあるのかもしれません。
というのも、手塚さんはわりと何にでも目を描きたがるんです。
紺野
あーそうそう(笑)。確か『マリオ2』以降からですよね。
雲とかいろんなものにハッキリ目が付きはじめたのは。
わたしはそれを見て「かわいいですね」と言ってました。
江口
ただ、『マリオサンシャイン』以降は
敵を描くにしても、ついついかわいいものが
出てきがちになるのを、抑えようとしている感じがします。
岩田
『マリオサンシャイン』のディレクターは小泉さんでしたが、
そのような命題をぶつけられたこともあったんですよね。
小泉
ええ。“かわいい”についての議論はずっとあって、
実は『マリオサンシャイン』をつくるときに、
もともとマリオは配管工なんだから、
「ワイルドにしよう」と顔や体にペンキをつけるようなこともしたんです。
その後につくった『マリオギャラクシー』では、
スペースオペラ調にしたというのもあって、
マリオが星に飛んでいって、スタッと着地して、
振り返って、見得を切るシーンをつくったところ、
後から宮本さんに
「それはやりすぎ」と言われてしまって(笑)。
岩田
「かっこよくしろと言ったじゃないですか!」と、
言い返したくなりましたか?(笑)
小泉
いえいえ(笑)。
たぶん“かっこいい”のさじ加減はいろいろあって、
宮本さんのなかでの“かっこいい”は、
一般に考える“かっこいい”とは、ちょっと違うんだと思うんです。
そもそもマリオはヒゲがはえてるおじさんなんですから(笑)。
岩田
ああ、しかもお腹も出ていますし(笑)。
小泉
ですから、そのあたりの意味も考えると、
「過剰にかっこつけてお客さんにとって遠い存在にはなってほしくない」
ということなんだと思うんです。
“かわいい”と“かっこいい”の間あたりが
ちょうどいいんだろうなと思うようになりました。
そこで『マリオギャラクシー 2』をつくったときは、
宮本さんといっしょに序盤のストーリーを書いたんですけど、
あまりかわいく子どもっぽくならないように
ブラックユーモアなども加えたりして、
「このへんでいいんじゃないの」というちょうどいい案配を
2人で話し合いながら探った結果が、
あのようなかたちになったんです。
岩田
なるほど。
木村さんは『Newマリオ』をつくりながら、
変わってきたもの、守ってきたものはどんなことだと思いますか?
木村
変わってきたものでいうと、
同じジャンプでも、横方向に跳ぶ距離感や手ごたえは、
シリーズを通して、微妙に少しずつ変わっています。
岩田
滑り方とかも、ちょっと違ったりするんですね。
木村
はい、違います。
岩田
それは、シリーズにはそれぞれの世界があって、
その世界に合わせた調整をしているということなんですね。
木村
そうです。
それで、変えなかった話でいうと、
ゴールポールにつかまるというアクションがそうです。
『マリオ3』ではの仕方を採用して、
『マリオワールド』では、ポールにちょっと近いんですけど、
を用意して、
テープを切るような遊びを採用したんですね。
ですので、DS版の『Newマリオ』をつくるときも、
なにか新しいゴールを提案しようということで、
いろいろと新しい方法を考えてはみたのですが、
そもそもポールにつかまること自体に
遊びも含まれているので・・・。
岩田
ポールの高いところにつかまったり、
タイミングよくポールにつかまったりと
遊びの要素が盛り込まれていましたね。
木村
はい。ポールの高いところにつかまれば
つかまるほどに高得点がもらえる。
ジャンプゲームの理にかなっていますので、
それに勝る仕様が考えられなかったんです。
ですからWii版をつくるときは
迷うことなくゴールポールのままでいきましょうと。
でも4人がいっしょにつかまるので、
ポールを多少長くしようかとか、
そういった意見も出てきたんですけど
ジャンプしても届かなくなるといけないのでやめました(笑)。
岩田
そもそも4人用とポールの相性はすごくいいんですよね。
と、
ゴールするだけでもいろいろ楽しめますしね。
木村
そうなんです。
それと、さらに変えなかったことでいうと、
スタートをしたマリオはどんどん右に進んでいって、
最終的にゴールをめざすことだと思うんです。
岩田
右に進んでいけば、いつかゴールに着くんですね。
木村
はい。
江口
「右に行けばいい」というのが、
どのマリオを遊んでも基本は同じということで
遊ぶ人からしたら何も考えずにはじめられる
安心感もあるんですよね。
岩田
横スクロールマリオはそうですけど、
3Dマリオになると、ちょっと違ったスタイルになりますよね。
小泉
そうですね。
3Dマリオもゴールをめざすゲームには変わりないんですけど、
なぜポールをゴールに採用しなかったのかというと、
単純にポールにつかまるのが難しかったからなんです。
そこで、コースに置かれたになるようになって
以後、3Dマリオの伝統になっているんです。
岩田
だから、星を集めるゲームになったんですね。
小泉
はい。そこは『マリオ64』からずっと変えていない部分です。