岩田
任天堂の伝統というか、
宮本さんって、効果音にとてもうるさい人だと思います。
触り心地と一体化したような効果音といいますか、
音に対する「手応え」の要求がすごく厳しくて、
はじめてそれを知ったとき、わたしは本当にビックリしました。
その点、近藤さんは、昔から鍛えられてると思いますけど、
どんな思い出がありますか?
近藤
最初に、ぼくが何度もやりなおしをさせられたのは、
ディスクシステム版の『ゼルダ』(※6)で、
敵を刺すときの「グサッ」という音です。
ファミコンの音でしたので、なかなか迫力のある音にはならないんです。
それで、「どんな音がいいか」と繰り返し聴いてもらって、
何度も何度もつくりなおした思い出があります。
ディスクシステムのときは、新しく1音が追加で使えるようになり、
きれいな音楽をつくるために、その音源を使うつもりでした。
ところが、宮本さんは「効果音の方に使おうよ」って。
※6
ディスクシステム版の『ゼルダ』=1986年2月にディスクシステムと同時に発売された、初代『ゼルダの伝説』のこと。
岩田
それは、音楽をつくりたい人にとっては、
とてもキビシイ話ですね。
近藤
ですから、音楽はそれまでのように
ファミコンの3音でつくりました。
でも、新しい音源を使うことでモンスターの鳴き声など、
それまでになかった手応えのある効果音を表現できたと思っています。
岩田
『スーパーマリオブラザーズ』は音楽も有名ですけど、
効果音を聴いただけで、マリオがキノコで大きくなったところとか、
コインをとったところなど、すぐに情景が浮かんでくるところがありますよね。
「強い効果音」と言ってもいいかと思いますが、
あれも一筋縄ではいかないところもあったんじゃないですか?
近藤
そうですね。少ないメモリで、
どれだけ効果的な音を出すかというところでは、かなり苦労しました。
岩田
昔、ファミコンをつくっていた時代は、
サウンド屋さんに割り当てられるメモリは
全部で1キロバイトとか1.5キロバイトしかなかったんです。
わたしも初期のころは、サウンドプログラムを書いたこともありましたからね。
横田
それって、テキストサイズじゃないですか!(笑)
一同
(笑)
岩田
でも、いまは大容量が使えるようになりましたし、
サウンドの面でも、際限なくいろんなことができるようなったと思います。
今作で最も力が入ったのはどんなところでしょうか。
川村
力を入れたのはサウンド全部です(笑)。
でも今回は、Wiiリモコンのスピーカーが使えるようになり、
そこは力の入れどころでもあったのですが、
なんでもかんでも音を流すのはやめることにしました。
最初はどんな音でも鳴らしたくなるんです。
でも、テレビと同じ音が流れるだけだと、
まったくありがたみを感じなくなってしまいます。
そこで、基本的にはマリオのアクションがらみの音を流すようにして、
敵にヒットしたときには「クィーン!」と鳴るようにしたりとか、
手応えを感じるようなサウンドを心がけました。
岩田
同時に振動するようになっていますし、
手元で音が鳴るというのは、
インタラクティブなものをつくるという意味で
深みをもたらしたと感じています。
それで今回、スピーカーを活かすことに関して、
どんなところで工夫したのですか?
川村
たとえば、マリオがスターピースをとったとき
まずテレビの方で「キン」と鳴って、ちょっと遅れて
手元のWiiリモコンで「コン」と鳴るように調整しています。
横田
テンポを遅らせることで、スターピースが
手元に飛んできたような感覚が味わえるようになっています。
今回は、スターリングのところで振って移動したり、
クリボーを気絶させたりと、Wiiリモコンを振る操作が増えましたが、
Wiiリモコンを振るのが楽しくなるような音づくりを心がけました。
岩田
Wiiリモコンの音を使う以外で、
効果音に関してこだわったところはありますか?
川村
ファイルセレクトの画面でも、かなり凝った音になってます。
また、スターキャプチャーを使って、
マリオが移動するんですけど、そこでの効果音は
かなりの試行錯誤をしました。
近藤
あの音の評判はとてもいいですよね。
宇宙的な感じが出ていて、浮遊感があるんです。
川村
今回はプロのエンジニアの方を呼んで、ミックスダウンという、
サウンドのバランスを調整する作業をみっちり行いました。
通常は1日もあればできるんですけど、今回は3日もとってもらって、
ゲームをプレイしながら、1曲1曲、細かなところまで調整しました。
たとえばスターピースを集めるときは、キラキラした効果音を活かすために、
音楽の方では、キラキラした音を抑えたりして、
ゲームにとけ込んだサウンドにすることができたと思っています。
横田
今回は、宮本さんをはじめとして、
開発スタッフの中に、音に関心が高い人が多かったんです。
だからこそ、ここまで力を入れることができるのかなとも思っています。
どうしても、サウンドスタッフだけでやろうとすると、
「こんな音を入れたい」というエゴが出てしまって、
それをスタッフにうまく説明できていないと、
「そんなことよりも、ほかの作業をした方がいい」と、
優先度が落とされていってしまうんです。
岩田
ゲームが完成したあとの打ち上げで、
サウンドスタッフを呼ぶのを忘れたって話はよく聞きますよね(笑)。
一同
(爆笑)
岩田
普段は音づくりのために、別の部屋に籠もっていたりするから、
余計そうなるんでしょうけど。
だから、チームの核になる人が音に興味を持っていないと、
音楽屋さんってすごく孤独になる仕事ですよね。
横田
でも今回は、ディレクターの小泉さんも
手応えとして感じられる効果音の話をよくしていましたね。
岩田
宮本さんと、その弟子たちの伝統のような気がしますね。
「このゲームでいちばん大事なのはこのアクションなのに、
効果音がこれだと印象が弱いでしょ」って言うんですよね。
今日の話で、たくさん種明かしをしてもらったので、
遊んでくださるお客さんも、効果音のことも意識してくださると思います。
効果音はもともと心地よく遊べるようにつくられていますから、
音楽とは違って、プレイヤーにとっては特別なことのように
受け取られないところはあるかもしれませんね。
横田
むかしは、効果音よりも音楽の方を聴いてくれよって
主張したかったところもありますけど、いまは違います。
効果音と音楽が合わさってはじめて、
『マリオギャラクシー』のサウンドになっていると思います。
岩田
そうは言っても、
ここの音は聴いてほしいというところもあるんでしょう?
横田
でも、遊びを妨げるようなことになるんだったら、
サウンドが出しゃばってはダメなんだと思います。
そのあたりは、出しゃばったらダメ出しが出るということを
近藤さんからしっかり指導していただきました(笑)。
近藤
やっぱり、効果音の重要性は身にしみて感じてますから。
岩田
ディスクシステムで、
貴重な音源をひとつとられた経験が大きかったわけですね(笑)。
それでは最後に、お客さんに対してメッセージをお願いします。
近藤
『マリオギャラクシー』は、
『マリオ』シリーズでははじめてオーケストラサウンドを採用して、
すばらしいサウンドのゲームになったと思います。ぜひ楽しんでください。
横田
わたしはサウンド担当でしたが
同時に『マリオ』の大ファンでもあるので、
ゲームの難易度に関してもスタッフとして協力させていただきました。
一同
(笑)
岩田
それって、珍しい話ですね(笑)。
横田
ですから、
サウンド共々、ゲームをたっぷり楽しんでください。
川村
マリオの世界に自然に入り込めるように意識して、
サウンドデザインを行いました。
でも、たまにサウンドの遊びが入っていたりしますので、
そこはみなさんで探してニヤリとしてください。
岩田
そこは、お客さんに見つけていただきましょう。
お疲れ様でした!
さて最後は、インタビューの中で何度も登場してきた、
宮本さんの話を訊くことにしましょう。