都会の、それも大都会・新宿の真ん中だというのに、 ここ新宿中央公園には、ただの"夏"だけがあるようだ……。 公園の外周道路を走り過ぎる自動車の騒音も、 周囲の樹木から放たれる強烈な蝉しぐれに阻まれて、ここまでは届いてこない。 照りつける太陽……、これでオレを見下ろすようにそびえ立つ高層ビル群が目に入らなければ、 自分が新宿にいることを忘れてしまうかもしれない (そういうところが、オレがこの公園を気に入っている理由かもしれないが……)。 オレが私立探偵として新宿に事務所を置いてから、今年で何度目の夏を迎えることになるのだろう。 因果な仕事だとは思うが、世の中の裏側ばかりを眺め、 それを追いかけ、そこを走り回ることに忙しく、 オレには立ち止まる余裕さえもなかったのだろうか……? こうして束の間、"自然"(それは極度に人工的なものだが)に身をまかせていると、 時の過ぎていくことが感じられる。 そして同時に、過去に、今までにオレが関わった事件がいくつも思い出されてくる。 これから話そうとする事件は、そのなかでも特に印象深い事件のひとつだ……。 |