岩田
さて、ようやく、
ニンテンドー3DSの話に入っていきます。
糸井
はい(笑)。
岩田
宮本さんがおっしゃったように、
DSとWiiが出たあと、「時雨殿」以外は、
しばらく3Dへの取り組みはありませんでした。
で、ニンテンドー3DSを開発するにあたって
いろんな要素技術を検討していくなかで、
たまたま、開発者のひとりが
「いま3Dを試したらどうなるんだろう?」
って言い出したんですよ。
糸井
それはいつぐらいの話ですか。
岩田
ええと、いまから2年ぐらい前ですね。
宮本
うん。
糸井
最近といえば最近ですね。
みんなにWiiが行き渡っているようなときに。
岩田
ええ。
宮本
ぼくらがちょっと3Dを忘れてるときに、
あるスタッフが「3Dもありますよね」みたいなことを
ひょいと口にしたんですよ。
糸井
それは・・・痛みの経験のない人?
岩田
はい(笑)。
あえて言いますけど、痛みの経験のない人です。
宮本
うん(笑)。
糸井
そうだろうなぁ(笑)。
岩田
やっぱりぼくらは、3Dを追い続けているとはいえ、
ところどころで痛い思いもしているから、
ちょっと腰が重くなってるところもあったんですよ。
糸井
いや、そうだろうなと思いますよ。
しかも、DS、Wiiと、
大ヒットを続けているときですから、
なおさら、それを拾いに行きたくはないですよね。
宮本
けど、言われてみれば、いい時期なんですよ。
ニンテンドー3DSというのは
基礎的な部分ではDSの延長上にあるマシンですから、
最新の技術に合わせてアップデイトするだけで
自然にグラフィック性能は上がるんですね。
解像度も上がるし、描写の性能も上がる。
要するに、いっぱい絵を描くことができて、
それを表示することができる。
でも、この、進化したグラフィックの品質を
「きれいな絵を描く」っていうことだけに使うとしたら、
ほかの会社と同じになってしまうんですよ。
糸井
ああーーー。
宮本
だから、いっぱい絵が描けるんなら、
右目用と、左目用の絵を描いてもいいと思ったんです。
しかも、液晶の解像度が上がることによって、
右目と左目に別々の絵を届けるということも
ずいぶんやりやすくなる。
これは、非常に企画の収まりがいいんじゃないかと。
糸井
いっぱい絵を描けるぞという、
機械のほうの、いわば物理的な進化を
アイデアのほうで受けたわけですね。
宮本
そうですね。
それも、3Dをきちんと表現するうえでは、
グラフィックの解像度が大きなポイントになるってことが
過去に3Dをあきらめた経験から
わかってたからだと思います。
糸井
なるほど。
だって、ゲームボーイアドバンスSPのときの3Dは
それであきらめているわけだからね。
岩田
左目用と右目用で絵を2枚描かなきゃいけない、
みたいなことは、痛いほど知ってますから。
糸井
あと、ゴーグルありの3Dはありえない、
みたいなことも身に染みてる(笑)。
宮本
いや、ほんとうにそうですよ。
だって、ゴーグルをオプションで買う人が
仮に全体の10パーセントだとすると、
10パーセントの人に向かって3Dのゲームをつくる
っていうことになっちゃいますから。
糸井
なるほど。
宮本
そのあたりの方針が決まっていたから、
「いい時期かもしれない」ということを
すぐに見渡せたというのは、あると思います。
岩田
あと、携帯機の場合は、
遊ぶ人全員のスクリーンを
私たちが供給することができます。
据置型のハードだと、そうはいきませんから、
世の中に3Dを提案する場合は、
圧倒的に携帯型が有利なんです。
糸井
画面ごと買ってもらえるからこそ、
品質のいい3Dが表現できるんですね。
宮本
しかも、2画面ですから、
立体の画面じゃないほうに、
タッチスクリーンをつけられるっていうのも
よい条件のひとつでした。
糸井
そうか、そうか。
岩田
そのあたりのタイミングのことを
宮本さんはすごくクリアにおっしゃってて。
「いまやるしかない!」ってことを、
当時、すごく訴えてたんです。
それがものすごく説得力があって。
糸井
ああー。
岩田
ゲーム機がリアルタイムに生成できる
絵の品位が上がり、液晶の解像度が上がり、
左目用と右目用の絵が混ざりにくくなり、
ということがぜんぶそろったときに、
ちょうど任天堂が新しい携帯型ゲーム機を出す
っていうタイミングが来たわけですから、
これはもう、時期が来たと考えるしかない。
糸井
そうか、
そもそも携帯型ゲーム機を出すタイミングと
重なってないとありえないんですね。
岩田
そうなんです。
しかも、携帯型だからこそ提案できる。
据え置きのときにこの話が出ても
たぶん、オプション扱いになったと思うんですよ。
糸井
つまり、据置型につけたら、
また「おもしろいおもちゃ」になるわけですね。
宮本
そうですね。
だから、どう考えても、いいタイミングで、
「うまく収まってる」感じがしたんです。
だから、よっぽど技術的に障害がない限り、
このタイミングで動くべきだろうと。
糸井
なるほど。
岩田さんはどのタイミングで確信を持ったんですか。
岩田
私は、じつは、私も含めて関係者の多くは、
最初から確信があったわけじゃないんですよ。
むしろ、過去の3D商品に限界を感じていたところもあるし、
そもそもほんとうに3Dは筋がいいのかな、
という漠然としたところから、
最初は驚くかもしれないけど飽きないだろうか、
とかいう具体的なところまで、いろいろと不安もあって。
それは私だけじゃなく、何人もが同じように
確信できずにいたと思います。
糸井
うん、うん。
岩田
で、とりあえず、いまの最新の液晶で
3D映像を見たらどうなるか見てみましょう、
ということにしたんです。
やっぱり、実物を見ないでいろいろ協議するよりも、
実際の映像を見てから判断したほうがいいですから。
それで、いま採用している液晶を使って、
予定されている解像度で、
画面のプロトタイプをつくってもらったんですよ。
そうしたら、みんなでそれを見たとき、
一瞬でガッと気持ちがつかまれて、
「あ、これで勝負しよう」
っていうことになったんです。
糸井
ああー、そこでひとつになったんだ。
岩田
そう。ちょっと、それはうれしかったですよ。
宮本
ええ、すごかったですね。
岩田
想像より、ずっとよかったんです。
そして、自分以外のたくさんの人にとっても
「想像よりもだいぶいい」という印象があったようでした。
それで、「これは、時が来たんだ!」って確信したんですよ。
たぶん、その場にいたほぼ全員がそう感じたと思いますね。
糸井
たぶん、過去に見てきた失敗が多いぶん、
「いける!」っていうのもわかりやすいんだろうね。
岩田
そうかもしれませんね。
だから、おもしろいなぁと思うのは、
なにかものをつくっているときって、
いろんな要素技術を取り入れるチャンスが
つぎつぎにめぐってくるんです。
でも、やっぱり、大多数の場合、
「いまは時じゃない」ということで見逃すことになります。
糸井
はい。
岩田
こういうたとえがいいか悪いかわかりませんが、
ハードをつくるときというのは、
回転寿司屋さんに座って、
いろんな要素技術が通り過ぎていくのを
じーっと眺めているような感じなんです。
見ていると、すーっと流れる要素を
「あっ、これ!」って取れるときがある。
それが、ハードづくりなのかなぁって思うんです。
糸井
それはたぶん、
ずっと待っているがゆえに取れるんでしょうね。
岩田
そうですね。
「いまなら使える!」って思えるのは、
ずっと待っていたからかもしれません。
宮本
あと、大事なことは、
回っている要素のだいたいの味を
知ってるということでしょうね。
そこがわかってるから、ぱっと取れる。
糸井
あーーー。うん、うん。
宮本
食べたことがないネタって迷うし、
騙されることも多いですよね?
ぱっと取ってみたけど、失敗っていう。
糸井
いやー、だから、しみじみ感じますけど、
いろんなことの積み重ねの上に
このニンテンドー3DSはあるんでしょうね。
岩田
そう思います。