株主・投資家向け情報

2014年10月30日(木)経営方針説明会 / 第2四半期決算説明会
任天堂株式会社 社長 岩田聡

また、この年末に発売する『大乱闘スマッシュブラザーズ for Wii U』では、私たちが、「あらかじめダウンロード」と呼んでいる仕組みも導入します。
「あらかじめダウンロード」とは、発売日よりも前にソフトをご購入いただいたお客様が、あらかじめソフトの大部分を事前にダウンロードしていただけるようになる仕組みで、発売日になってから時間をかけてソフトをダウンロードいただかなくても、必要最小限の更新データをダウンロードするだけで、ゲームをはじめていただくことができるようになります。これは、先ほどご説明したオンラインショップさんでの購入時の自動配信に加えて、店頭で販売しているダウンロードカードについても、事前にダウンロード番号をニンテンドーeショップに入力していただくと、「あらかじめダウンロード」をご利用いただけます。ご購入いただいた日にダウンロード番号を入力いただければ、発売日までダウンロードカードを保管いただく必要もなくなります。
この仕組みは、まずWii Uで導入し、来年ニンテンドー3DS向けにも導入予定です。
今日ご紹介したように、決済方式の充実、販路の拡大、お客様の利便性向上と、デジタルビジネスをよりご利用いただきやすくするため、さまざまな取り組みを進めています。


さて、1月の経営方針説明会にて、「任天堂が考える娯楽を再定義する」と申しあげました。娯楽の定義を「人々のQOL〜Quality of Lifeですから直訳すれば生活の質です〜を楽しく向上させるもの」と再定義することで、任天堂の事業領域をこれまでより広げて考えていくということです。
今日は、これから展開していく任天堂のQOL事業について、もう少し具体的にご説明したいと思います。QOL事業の第1弾のテーマは「健康」であるということを申しあげましたが、「健康」に関わるどういうテーマを軸として扱うのかということ、そして、前回の経営方針説明会で申しあげた「Non-Wearable」とは、どういうものなのか、ということについてです。
私たちが、QOL事業で最初に主軸として扱う健康に関わるテーマですが、具体的には、


「睡眠と疲労の見える化」です。
人は誰でも睡眠が必要ですし、人は誰でも疲れます。
質の良い睡眠が取れているかどうかは、人の健康に大きな影響を与えていることには議論の余地がありませんし、疲労が蓄積すると健康維持の妨げになることは、多くの方が日頃から意識されていると思います。
しかし、どちらも主観的にしか捉えていないことが多く、客観的な見える化を実現しにくいテーマでした。もし、これを見える化できたら、そこには年齢・性別・言語・文化を問わず、非常に大きな可能性があるのではないか、というのが、私たちが考えていることです。
もちろん今でも、睡眠状態を測定するさまざまな手段は既に存在しています。睡眠の見える化については、大きな潜在需要があるはずなのに、これまで決定的な商品が登場していなかったのは、お客様に何らかの努力を要求する構造になっていて、継続が難しかったからではないかと私たちは考えました。
このQOL事業に踏み出そうと私が決断したのは、


この問題を根本的に解決する「Five “Non” Sensing」の実現のメドが立ったからです。
Five “Non” Sensingというのは、これまで計測に必要だった5つのことを不要にして、睡眠状態・疲労状態を自動計測するというコンセプトです。
Non-Wearableというキーワードだけは、前回の経営方針説明会でもお話ししましたが、何かを身につける必要がないということです。多くの方に共感していただけると思いますが、眠るときは、できるだけ身につけるものは自分にとって快適なものだけで、身軽に眠りたいものです。何かの機械を腕に巻いたり、特別な寝具に取り替えたりということを求めると、つい忘れたりして、継続していただきにくくなりますから、この「身につける必要がない」ということは非常に重要なことだと思っています。次に、Non-Contact、すなわち「身体に触れる必要がない」ということです。生体情報を読み取るには、身体に直接センサーを取り付けるのが都合が良いのですが、眠るときに異物を付けて寝ることを好む方はいないはずです。ですから、非接触で計測ができる、ということも、とても重要なポイントになります。
さらにNon-Operating、すなわち「操作の必要がない」ということは、継続していただくうえで重要なポイントです。寝入りや寝起きは、いつも頭脳明晰な状態ではないのですから、ベッドまたは布団で寝るだけなのか、寝たり起きたりしたときに操作が必要なのか、ということで、継続ができるかどうかが大きく変わります。そして、Non-Waiting、すなわち「測定を待つ必要がない」ということがあります。生体情報の計測には、センシングから分析まで一定の時間がどうしても必要です。これは、「Wiiバイタリティセンサー」に取り組んだときもどうしてもうまく解決できなかったポイントでした。でも、もし、睡眠の間に自動計測ができ、操作も不要にできるなら、お客様をお待たせする必要がない計測が可能になります。そして最後のポイントですが、Non-Installation Efforts、すなわち「設置の手間が不要である」ということです。始めていただくうえで、これも大きなポイントになります。
このFive “Non” Sensingのコンセプトで、睡眠状態を自動計測することで、睡眠と疲労を見える化するというのが、任天堂のQOL事業第1弾のコンセプトになります。


このFive “Non” Sensingのコンセプトで、睡眠状態を自動計測するデバイスとして、QOLセンサーというものを用意します。していただくことは、このQOLセンサーをベッドサイド、あるいは、布団の横に置いていただくだけです。
このQOLセンサーの中には、マイクロ波の非接触センサーというデバイスが搭載されます。電波を使って、身体の動き、呼吸、心拍などを、身体に触れることなく計測できます。この自動計測されたデータは、インターネット上のQOLクラウドサーバーに送られ、センサーから計測されたデータを分析して、睡眠状態と疲労状態を見える化する、という仕組みで実現します。


この睡眠と疲労の見える化を実現するために、アメリカに本社があるResMedさんという会社と業務提携をいたしました。
ResMedさんは、睡眠呼吸障害、COPD(慢性閉塞性肺疾患)および他の慢性病の治療、診断および管理のための医療機器を開発・製造・販売している世界トップクラスの企業で、アメリカを中心に世界数十か国でビジネスを展開されている企業です。日本でも、多くの患者さんが利用されているそうです。
今回、Five “Non” Sensingの肝となる、非接触センサー計測技術、ならびに睡眠状態の推定技術を、任天堂のQOL事業向けに技術供与いただくことになりました。
ResMedさんは、医療機器の分野で睡眠状態を改善することで、患者さんのQOL向上に貢献されていますが、一般消費者向けの製品を開発・製造・販売する任天堂とは、お互いの強みを発揮しやすく、パートナーシップとして相性の良い関係にあると感じています。


疲労というのは、医学の世界では未病の段階であるため、これまで必ずしも研究が順調には進んでこなかった分野であるそうなのですが、疲労科学の分野で最先端の研究をされている専門家の先生方とご縁ができ、疲労状態推定技術を共同開発中です。
渡辺恭良(わたなべ やすよし)先生は、健康に関して幅広い分野に精通されている先生で、疲労科学において世界的に著名な方です。渡辺先生からは、「疲労度の高精度簡易計測は、現代人にとって非常に有意義な生体状況の自己把握であり、これを指標に用いてより高い生活の質(QOL)向上に活用できると考えています。世界初の製品の実現に向けて関係者協力して進めています。」とのコメントをいただいています。
倉恒弘彦(くらつね ひろひこ)先生、田島世貴(たじま せいき)先生と共に進めておられる疲労科学の最先端の研究成果を、任天堂のQOLプラットフォームでの疲労状態の見える化に活用していただけることになっています。


このようにFive “Non” Sensingによる睡眠と疲労の見える化が実現できると、QOL向上のサイクルというのは、次のようになります。
まず、Five “Non” Sensingで、睡眠や疲労状態を自動計測します。お客様にしていただくことは、QOLセンサーを寝る場所のそばに置いていただき、毎日普通に眠っていただくだけです。そのデータは、QOLクラウドサーバー群に送られ、分析・評価されます。これにより、睡眠状態・疲労状態を見える化します。次に、お客様個別の睡眠状態・疲労状態から、QOL改善のための個別のサービス、具体的にはいろいろな行動のおすすめを提供します。お客様には、そのおすすめに基づいてQOLを改善するような行動をしていただきます。QOLを改善するような行動とは、例えば運動や食事の選択などがそれにあたります。そしてその結果がどうだったのか、ということが、またFive “Non” Sensingを通じて、毎日継続的に睡眠や疲労の状態を計測する結果の中に徐々に傾向として現れてくる、ということです。このサイクルがQOL向上につながり、それを実現するのが、QOL向上プラットフォームということになります。


まとめますと、
Five “Non” Sensingにより、誰もが容易に取り組めるようにして、娯楽企業の「おもてなし」と「続けられる」ノウハウにより、毎日楽しく続けられるようにすることで、結果的にQOLが向上していくサイクルを生み出す、というのが、QOL向上プラットフォームの基本要素、ということになります。


任天堂は、花札の製造メーカーとして創業してから、今年で125年になる企業ですが、これまで娯楽の企業として、「人々を笑顔にする」ということが娯楽の使命であると信じて、さまざまな製品を開発・製造・販売してきました。1983年以降はビデオゲーム専用機のプラットフォームを事業の柱とすることで、世界的に大きく成長してきたわけです。
前回の経営方針説明会でお話ししたように、これから我々は娯楽を「人々のQOLを楽しく向上させる」と再定義することによって、事業領域を拡大することになりました。その取り組みの中で、QOL向上プラットフォームというものを生み出そうとしているとご理解ください。



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