社長が訊く
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社長が訊く東北大学加齢医学研究所 川島隆太教授監修 
ものすごく脳を鍛える5分間の鬼トレーニング』

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社長が訊く『東北大学加齢医学研究所 川島隆太教授監修 ものすごく脳を鍛える5分間の鬼トレーニング』

川島隆太教授 篇

目次

4. 川島教授の野望

岩田

一方で、本当にキツイですよね、このトレーニング(笑)。

川島

大変ですね(笑)。ですから
「『鬼トレ』といい名前を付けていただいたな・・・」
というふうには、思っているんですけれど。
正直、僕自身は、「僕をなんとかしたい」
という思いでつくっていて。

岩田

自分を!(笑)

川島

やっぱり、岩田さんも僕と同じで、もう50を超えましたけれど、
やっぱり20代のピチピチの大学院生と戦っていると、
どうしても頭の回転というところで・・・。

岩田

ものも忘れますしね。

川島

はい(笑)。何となく彼らのほうがよかったりして、
くやしい思いをするんですね。
ところが大学の教授ですから、やっぱり現役の間は
彼らの上に君臨したいわけですよね。

岩田

ボス猿のボスとして。
いざとなったら、一対一で戦ったら、
「俺が絶対に勝つぞ!」状態でありたい。

川島

そうです。
相対で、自分の能力でどこが落ちているかってことを
冷静に考えると、ワーキングメモリーなんですよね。
これ、加齢とともにやっぱり、
極端に落ちてくってことがわかっていますから、
これを本当は、1人でこっそりとやりたいんですけれど・・・。

岩田

ソフト、発売しちゃいますけどね(笑)。

川島

そうですね。
うちの連中には教えないようにしたいなって
思っていますけども(笑)。
そこをキチッと鍛え直して、
若いころの自分と同じぐらい頭が回る状態にしておけば、
いまは、知識は若いころに比べたら膨大にありますから、
その膨大な知識を処理できる脳を持てたら、
「これはしばらく無敵になれるぞ!」っていうのが、
じつはわたしの野望です(笑)。

岩田

はい(笑)。「社会に貢献したい」という部分と、
「自分のために『鬼トレ』がほしい」
という部分の両方があるんですね。

川島

社会貢献という点では、
今回の『鬼トレ』は勉強している若い方にもオススメです。

岩田

“覚える”という行為は、一度ワーキングメモリーに入れた後、
正しい場所に入れ直さないといけないので、
その容量や働きがいいか悪いかは、
物覚えがいいか悪いかを、決めているわけですね。

川島

はい。ですから『鬼トレ』を手に受験勉強してもらうと、
点数が伸びる効果があると考えられます。
また、ワーキングメモリーとは、
「情報がオンラインでどれだけ入るか?」なので、
容量が大きくなれば、的確な判断ができるようになります。
だから瞬時の判断を求められる、
働きざかりの世代にもオススメです。

岩田

また、「1日5分以上やってほしい、でも、やりすぎはダメだ」
と、先生からうかがったことも新鮮でした。というのも
「このトレーニングは、やればやるほどいいわけではなさそう」と、
先生は発見されているんですよね。

川島

はい。実験で、学生にトレーニングをさせたんですが、
協力してくれた学生は「短期間に集中して鍛えたい!」という
野望を持ちまして、毎日、4~6時間ぐらいやっていたんです。

岩田

あの疲れるワーキングメモリーのトレーニングを、
1日6時間もですか?

川島

はい、僕にはとってもできません。
でも東北大の学生は、根性があるんですね。
アルバイト代を稼ぎたいのもあって
やってくれました(笑)。

岩田

(笑)

川島

5日間くらいやった後、脳を測りました。
そこで我々が愕然としたのは、
増えると思っていた大脳皮質の体積が減っていた、
つまり、脳が痩せ細っていた、というデータが出たんです。

岩田

“脳が痩せる”というのは、どういうことですか?

川島

ひとつの解釈として、
先ほど「大脳皮質のピークは8~10歳で、
そこからは逆に痩せていくのは発達段階の変化である」
と述べましたが、まさにこれが生じたため、
よりよく働く、有効なネットワークに変化して
体積が小さくなったというものです。

岩田

はい。

川島

ただ・・・これは矛盾していると僕は思っています。
「短いプレイ時間で1か月やれば脳の体積が増えるのに、
 長いプレイ時間で短期間やると減るのはなぜか?」
「脳の体積が増えたり減ったりするのはどこで切り替わるのか?」
いま、研究しているところです。
この学生の場合、前頭前野の中でいちばん減少した領域は、
じつは対人コミュニケーションにかかわる部分でした。
ですから、僕は「“過ぎたるは及ばざるがごとし”が、
研究結果に出たに違いない・・・」と思っています。

岩田

「よい変化とは言えない可能性が高い」と、
先生は感じているんですね。

川島

はい。実際、1日6時間もトレーニングをしたら、
残りの時間が犠牲になってしまいます。
つまり「対人コミュニケーションで使う脳の部分が
使われないために減ったのではないか?」
というのが僕の解釈です。

岩田

なるほど。

川島

どういった解釈が正しいかは、まだわかりませんが、
「原因が解明できるまで、長時間のプレイはしないほうがいい(※7)
というのが僕らの結論です。

※7
長時間のプレイはしないほうがいい=ワーキングメモリーを鍛えるトレーニング『鬼トレ』は、ソフト内に8種類収録されています。1つのトレーニングは1日1回、約5分間しかプレイできない仕組みになっており、1日最大約40分間(約5分間×8種類)しかプレイできません。

岩田

ワーキングメモリーに着目されてから、いままで、
先生にはどんなことが見えてきましたか?

川島

最初は「読み書き計算をすると、いろんな能力が伸びるらしい」
という、入り口と出口だけはわかっていた状態でした。
そのつぎに「読み書き計算すると、前頭前野がたくさん働く」、
つまり入り口側の脳の働きがひとつ、判明しました。
その後、なぜそれが起きたかをつきつめていくと、
「脳の処理速度を上げると、より効果がある」ことがわかり、
それで以前の『脳トレ』では、
処理速度を上げるものをつくってもらいました。

岩田

計算20(※8)が速度を競う理由は、
そこにあるんですね。

※8
「計算20」=『脳を鍛える大人のDSトレーニング』に収録されていたトレーニングのひとつ。つぎつぎに出題される簡単な計算問題の答えをできるだけ速く記入し、20問解き終えたタイムを競う。なお、この「計算20」は、本作『鬼トレ』にも、「鬼トレ補助」として収録されている。

川島

まさにそうです。
ところが、ワーキングメモリーには、
“速度の要素”と“容量の要素”の二軸があったんです。
つまり、読み書き計算を、速い速度で作業させる脳の部分は、
もともとその人が持っているワーキングメモリーを
使っていたにすぎなかったんです。
そして、もとあるワーキングメモリーの速度を伸ばすよりも、
容量そのものを増やしたほうが、もっといろんな脳の能力が
上がる効果が高いことがわかってきています。

岩田

はい。

川島

そこで、ワーキングメモリーの容量を増やす実験として、
『鬼トレ』にも入っている
“Nバック課題”(※9)や“スパン課題”(※10)という
心理学のトレーニングを行いました。
その結果、読み書き計算をしたときと同じように、
脳のいろんな能力が上がるという現象が起こったんです。

※9
“Nバック課題”=たとえば、つぎつぎと出題される計算問題で、いま提示されている問題に答えるのではなく、N個前に提示された問題に答えるトレーニング。1つ前の問題に答えるのを「1バック」、2つ前の問題に答えるのを「2バック」・・・と言う。
※10
“スパン課題”=たとえば、縦横に3列に並んだ9個の印が不規則に点滅するのを見て、その点滅した順番をできるだけ長く覚えるといったトレーニング。

岩田

その意味では「『脳トレ』によって何が起こったのか?」
という因果について、先生が説明できる深さと幅が、
昔といまとでは変わったと言えますね。

川島

はい、まるっきり違っています。
いまは、「出口と入り口がなぜつながっているか?」
かなり説明できるようになりました。
今後、実験が完成したころには
もっとはっきり見えてくると思います。