岩田
『マリオカート64』のあと、
携帯ゲーム機では初の『マリオカートアドバンス』(※5)が出て、
2人乗りが実現した『マリオカート ダブルダッシュ!!』(※6)が
ゲームキューブで発売されました。
この2作については、紺野さんは関わってませんよね。
それはどうしてなんですか?
紺野
とくに深い理由はないんですが、
当時はセカンドパーティの仕事や
『ルイージマンション』(※7)の開発に
関わっていたことが大きいですね。
※5
『マリオカートアドバンス』=シリーズ3作目。ゲームボーイアドバンス用ソフト。2001年7月発売。
※6
『マリオカート ダブルダッシュ!!』=シリーズ4作目。ゲームキューブ用ソフト。2003年11月発売。
※7
『ルイージマンション』=ゲームキューブと同時発売のアクションアドベンチャーゲーム。2001年9月発売。
岩田
そのあと『マリオカートDS』(※8)が出ることになって、
およそ9年ぶりに『マリオカート』の現場に復帰したと。
紺野
わたしたちのグループでは、
『nintendogs』(※9)と『マリオカートDS』の開発を
ほぼ同時にスタートさせました。
プロデューサーの立場でこの2作に関わったんですけど、
宮本さんからは「ディレクターのような立場で現場をしっかり見て欲しい。
あとはよろしく!」と言われまして(笑)。
※8
『マリオカートDS』=シリーズ5作目。ニンテンドーDS用ソフト。2005年12月発売。
※9
『nintendogs』=ニンテンドーDS用ソフトとして発売されたコミュニケーションゲーム。2005年4月発売。
岩田
まったくタイプの異なる2本のソフトを同時に担当して、
頭の切り替えが大変だったんじゃないですか?
紺野
それぞれのタイトルにはディレクターがいて、
今日は『マリオカートDS』の日、
明日は『nintendogs』の日というふうに決めて対応していました。
でも、急に『マリオカートDS』のディレクターから
相談されることもあるんです。
そんなときは、夕方まで待ってもらって、
頭の中にいる、たくさんの犬たちを追っ払ってから
打ち合わせをするようにしていました。
それまで、わたしはディレクターとして、
ひとつのソフトを仕上げるようなことをしていたんですが、
複数のソフトを同時に見るということを初めて行いましたので、
すごく大変でしたし、宮本さんの大変さも理解できました。
岩田
初めて宮本さんの苦労がわかったんですね。
ひょっとして、その気持ちをわかってほしくって、
紺野さんに2本やれって言ったのかもしれないですね。
紺野
(宮本さんに)どうなんですか?
宮本
そのとおり(笑)。
岩田
ところで『マリオカートDS』は、
初めてのWi-Fiコネクション(※10)対応のタイトルでしたね。
※10
Wi-Fiコネクション=正式名称は「ニンテンドーWi-Fiコネクション」。DSで実現した無線インターネットサービス。
紺野
そうです。Wi-Fiを使って、『マリオカート64』の4人プレイから、
一気に8人が同時に楽しめるものをつくりたいと思っていました。
岩田
ちなみに紺野さんは、
社内有数のオンラインゲーマーでもあるんですよね。
Wi-Fiコネクションを実現させるために、
いろんな部署から代表が集まったミーティングに
紺野さんにも出てもらっていました。
紺野
オンラインゲーマーであることは
あまり公にはしてないんですけど(笑)。
岩田
でも、以前から私の耳にもちゃんと聞こえてきてましたよ。
Wi-Fiコネクションをはじめるとき、
オンラインゲームの知識がとても役に立ったんじゃないですか?
紺野
そうですね。
でも『マリオカートDS』の開発をスタートさせたとき、
Wi-Fiに対応する予定ではなかったんです。
岩田
わたしも、Wi-Fiで遊べるようになれば素晴らしいとは思ったものの、
コウラを投げたりとか、プレーヤー同士の相互作用が
とても多いタイトルですので、
実現させるのは簡単ではないと思いました。
ただ走るだけのレースゲームなら、
実現する方法はいくらでもあると思ったのですが。
紺野
ですから、近くにいる人と、ワイヤレス通信の機能を使って
最大8人まで楽しく遊べるという方向にパワーをかけて、
開発を進めていました。
ワイヤレス対戦を実現させるメドがたってから、
やはりもっと遠くの人とも対戦できたら楽しいだろうということで、
2005年を迎えてから、Wi-Fiの実験をはじめたんです。
そこで、4月頃になってから
岩田さんといっしょにWi-Fiコネクションの打ち合わせのために
NOA(任天堂アメリカ)に行って、プレゼンテーションをしましたよね。
そのときの手応えがとてもよかったものですから、
開発が本格的に動き出したんです。
岩田
わたしもよく覚えていますが、
発売まで半年以上もあったのに、
感覚的には結構できていた印象があります。
専門用語を使うと、レイテンシー・・・、
つまり通信による遅延が起こっても、
それがあまり感じられないように処理することができるようになったので、
十分、遊びになるということが実証できたんですね。
紺野
それで、なんとか年末発売に間に合わせることができたのですが、
自分としては、やり残したことがたくさんあったんです。
たとえば、ランキングもそうですし、
ゴーストデータをたくさんの人と共有しあうことができたら、とか。
岩田
オンラインゲームに、どんな仕組みがあれば
おもしろいものになるかということについては、
紺野さんはもともとよくわかっていたんですね。
でも、会社からは「2005年の年末に出してほしい」と言われちゃうし、
Wi-Fiコネクション対応の最初のソフトだから、
一度にいろんな冒険のようなこともできない面もあって、
そこにはすごい葛藤があったんでしょうね。
紺野
それはものすごくありました。
一方で、あまり欲張りすぎてもダメなんだろうなとも思いました。
岩田
わたしはよく覚えていますよ、
紺野さんの本当に悔しそうな表情を。
ものすごく残念そうな顔をしながら、会議で
「○○は諦めます・・・」と言っていましたよね。
紺野
こんなアイデアも考えているんですけど
残念ながら時間的な制約があって、実現できないということを、
ぜひわかってほしかったんです。
岩田
だからこそ、Wii版をつくるにあたっては、
その悔しさをバネに、いろんなものを盛り込めたんでしょうね。
紺野
そのとおりです。
岩田
しかも、DSでWi-Fi対戦を実現させたことで、
学んだことも多かったんじゃないですか?
紺野
それはもう、たくさんありました。
岩田
代表的な事例としては、
最初は4人でWi-Fi対戦をはじめたのに、
気がついたときは2人だけになっていた、
というケースがとても多かったということでしょうね。
紺野
あれは本当にショックでした。
遊び続けていると、少しずつメンバーが減って
どんどん寂しくなっていくんですから・・・。
ですから、今回のWii版では、そのための機能を拡張していますし、
対策は万全です。
岩田
その話については、後ほどたっぷり訊くことにしましょう。