4. 幻の?『マリオカートX』

岩田

Wiiハンドルをつくるにあたっては、試行錯誤を繰り返し、
いろんな方に触ってもらったと思いますが、
どんなことが印象に残っていますか?

紺野

音声収録を行ったとき、声優さんにも
実際にプレイしていただいたほうがいいということになったんです。

岩田

実際にプレイしながら声を出していただいたんですね。

紺野

今回はMiiがプレイヤーとして登場しますので、
男女4名ずつの声優さんにお願いしました。
そのとき、ある女性の声優さんが、
「わたしは免許持ってるんですけど、ペーパードライバーで、
クルマが苦手なんです。でも、これなら大丈夫」とおっしゃったんです。
そのとき、すごく手応えを感じました。

岩田

でも一方で、「これはどうなんですか?」みたいな意見を
聞くこともあったんじゃないですか?

紺野

海外の子会社から、メールが届いたことがありました。
Wiiハンドルを送ってすぐに、
「ゲームキューブのコントローラーには対応しないのか?」
「ドリフトやミニターボの操作はどうなるのか?」って。

岩田

その気持ち、よくわかります。
人は変化に対して不安を感じるものなんですよね。

紺野

もちろん、ゲームキューブのコントローラに対応させることは、
最初から決まってましたし、一方で、
Wiiハンドルも、遊んでみたら楽しさがわかりますから
心配しないでくださいと伝えました。

岩田

紺野さんは、Wiiハンドルでの操作だけでも、
揺るぎのない自信のようなものがあったんですね。

紺野

もちろんです。
だからこそ、パッケージイラストも
Wiiハンドルを持ってる絵だけを使うようにしました。
やっぱり、従来のコントローラを難しく感じるような人たちにも
ぜひ遊んでほしいんです。
実際、『マリオカートDS』をつくったときも、
わたしの両親が孫と一緒に遊ぼうとしたんですけど、
十字ボタンの操作が苦手だったようで、
「難しいなあ」と言ってたんです。
それがとても残念で・・・。
だから、もっと敷居を下げないといけないと痛感しましたし、
その意味でWiiハンドルはとてもマッチしてるのかなと思ったんです。

岩田

でも、従来型のコントローラに慣れた人たちは、
対戦で勝ったり、いいタイムを出すために、
ゲームキューブのコントローラや
クラシックコントローラなどで操作しようとしますよね。

紺野

ですから、そこは工夫しました。
Wiiハンドルを使い続けることに意味を持たせたんです。
ランキングでもそうですが、マッチングで見知らぬ人と対戦するときは、
自分のニックネームが表示されるようになっていますが、
その右側にWiiハンドルのマークを表示させるようにしました。

宮本

ゲームキューブのコントローラで操作してる人が、
ハンドルマークがついている人に抜かれると、
すごく悔しいんですよね。
しかも、顔のパーツの数が限られてる中で競う
「コンテストチャンネル」と同じで、
制約があるほうが、おもしろいと思うんです。
ハンドル操作で良いタイムを出せると、
かなり自慢できると思います。

岩田

きっとハンドル達人のようなプレイヤーも出てくるでしょうね。

紺野

わたしたちも長期間テストを繰り返してきましたけど、
Wiiハンドルだけで操作を続けているスタッフもいて、
かなりの上位に入ってくるんです。
しかも、Wiiハンドルでの操作を続けているとご褒美もありまして・・・。
最初は白だったハンドルアイコンの色が金色に変わります。
その名も「ゴールデンハンドル」。

岩田

(笑)。

宮本

ほかのコントローラに浮気をしちゃうと
ハンドルアイコンの色が白に戻ってしまうんです。
でも、Wiiハンドルが売りの商品なのに、
バイクも実は売りだったりするんです。

岩田

どうしてバイクを入れることになったのですか?

紺野

実は・・・私の趣味?の影響もあるかもしれません。
個人的に、BMXの自転車やスノーボードがすごく好きなんです。
そこで、DS版をつくるときも、
プレイヤーがハデなライディングをしたりといった
エクストリーム(※12)的な要素を取り入れようとしたのですが、
携帯ゲーム機ですので、実現が難しかったんです。
そこで、Wii版ではなんとか実現させようと。

※12

エクストリーム=バイクやBMX、スノーボードなどを使って、極限のアクションを楽しむスポーツのこと。

岩田

だからハーフパイプっぽいコースがあるんですね。

宮本

実は紺野さん、ゲームキューブ版のときから、
BMXのプランを出してきたりしてたんです。

紺野

そのときは「マリオが自転車に乗るのはいかがなものか」と
はねつけられました(笑)。
Wii版ではバイクを登場させることができましたけど、
仮称の段階では、エクストリームの「X」をとって、
『マリオカートX』と呼んでいたくらいなんです。

岩田

でも、『スマブラ』にとられちゃったわけですね。

一同

(笑)。

紺野

『スマブラX』が発表されたのは2006年でしたけど、
わたしはその前年から『マリオカートX』と決めていました。

岩田

その話を先に聞いていれば、
桜井くんが『スマブラX』にしたいと言ってきても、
「ちょっと待った」と言ってたかもしれません(笑)。
ちなみに宮本さんは、今回バイクが登場することについては
どう思っているんですか?

宮本

僕としては、マリオの世界を
もっと男の子っぽくしていいと思っているんです。
ですからエクストリームのような要素が入ってくることに関しては、
もともと賛成でした。

紺野

それに今回は、Wiiリモコンの加速度センサーが使えますので、
直感的にハデなアクションを出すようなことも、
実現できると思っていました。

宮本

だから、あまり大きな声では言わないんですけど、
実はバイクもすごく魅力的で、Wiiリモコン向きなんです。
「バイクで遊ぶときは、ハンドルをはずして遊びましょう」って
勝手なことを言ってます。
でも、Wiiハンドルでバイクに乗るのもおもしろいんですよ。
つい、本物のバイクのハンドルのような操作をしてしまうんですけど(笑)。

紺野

加速度センサーのチューニングに関しては、
かなり試行錯誤をしました。
Wiiハンドルの操作は回すのが基本になりますけど、
本物のバイクのハンドル操作のように、
Wiiリモコンを左右に傾けて運転することもできます。

岩田

大型トラックのように、
水平なハンドル操作をすることもあり得ますよね。

紺野

水平な回転に関しては、検知しないようになっています。
モニターの結果、Wiiハンドルを手で回すのではなく、
体ごと、大きく左右に振って操作する人が多いことがわかりました。
ですから、そういった動きにも反応できるよう調整しました。
今回、いろんな方にモニターになっていただいたのですが
その中に、50〜60歳くらいの方もいらしたんです。
その方々の中にはひと通りプレイをしたあとで、
「わたしは昔、750ccのバイクに乗っていたんだけど、
当時の感覚を思い出しました」とおっしゃった方がいたんです。
「Wiiハンドルの操作が自然で、
昔のバイクの操作を思い出すことができました」って。

岩田

それは開発者冥利につきますね。

紺野

ですから、Wiiハンドルでの操作に関しては、
とてもいい評価をいただけてるのかなと思います。

岩田

ところで、声優さんの話題にも出てきましたけど、
Miiがマリオと競演するのは今回が初めてのことですよね。

紺野

そのことに関しては、宮本さんと相談しながら決めました。
そこで考えたことは、最初からMiiがどんどん登場すると、
『マリオカート』じゃなくなっていくんじゃないかと。
そこで、あとからMiiを選べるようにしました。

宮本

最初からMiiを出すと、『Miiカート』になってしまうんです。

紺野

でも、今回のプログラマーは、
もともと似顔絵チャンネルも担当していたので、やりやすかったです。

岩田

そもそも、似顔絵チャンネルのプログラマーは、
もともと『マリオカートWii』のチームにいたのに、
宮本さんがMiiをやってくれって連れて行ったんですよね。

紺野

でも、その結果、『マリオカートWii』でも
いろんな仕掛けを入れることができました。
観客席でたくさんのMiiが応援してくれますし、
コースの背景にも反映されるようになってるんです。
たとえばヨッシーのスフィンクスがコースの中にいますけど、
それがある日突然、お父さんのMiiになったりするんです。
そんなこと、技術的にMiiのことを理解していないとできませんよね。

岩田

なるほど。つまり宮本さんは、そこまで先のことを見込んで、
プログラマーにMiiをやらせたというわけですね。

宮本

いや、たまたまかな(笑)。
自分でMiiをつくるのが苦手な人でも、
コンテストチャンネルでお気に入りのMiiを連れて帰るようにすると、
観客席もすごくにぎやかになって楽しいでしょうね。
でも、やっぱり『Miiカート』で出したほうがよかったかな?
途中から隠しキャラでマリオとかが出てきたら、
みんなに喜んでもらえたかもしれないし。

一同

(笑)。