岩田
藤岡さんがおっしゃった
“負けたくない”という気合いは
いろんなところから伝わってきます。
辻本
そもそも、はじめに書いた企画書には、
「Wiiでナンバー1のグラフィックをつくる!」
と書かれてありました。
その企画書にはいろんなところに、
「Wiiでナンバー1の○○に」
ということが書かれていて、
現場が覚悟を決めてつくろうとしてるのがわかりました。
で、映像に関しては、任天堂さんの発表会で
最初に出させていただいて・・・。
岩田
2007年の任天堂カンファレンス(※3)ですね。
※3
任天堂カンファレンス=任天堂カンファレンス2007.秋。2007年10月にマスコミや流通など業界関係者向けに開かれた発表会のこと。幕張メッセで開催され、ステージ上では『モンスターハンター3(トライ)』などの映像が流されたほか、『Wii Fit』の実演なども行われた。
辻本
はい。あのときに、
実機であのような絵が出せるようになりましたので
僕はもう「これで勝てる」という確信が持てたんです。
あとは、「あの絵をちゃんと出してね」と
現場に言うだけ(笑)。
藤岡
(笑)。
実際、あの任天堂カンファレンスのあとも
何度もデザイナーとのせめぎ合いがあったんです。
ただ、すでに1度発表してますので、
あの映像とまったく違うものには
絶対にできなかったですし、
「こういう絵をつくりたい」というイメージを
デザイナーがずっと保ってくれましたので、
崩れるようなことがなかったんです。
岩田
最初にハードルを高めに設定して、
それを目標にがんばることができたんですね。
辻本
だから、結果的に
最初の印象から変わらずにすんだのかなと思ってるんです。
岩田
そういうことができたのは
藤岡さんがかつてドットを打っていた時代の経験も含めて、
あちらを立てるとこちらが立たずという関係が、
たぶん普通のディレクターの方より深くわかっているから
そういった話がしやすかったということなんでしょうね。
藤岡
そうかもしれませんね。
まあ、僕がデザイナー出身であることを、
ずっと振りかざしているものですから(笑)。
岩田
(笑)。
現場の人たちに「オレは騙されないよ」と。
藤岡
やっぱり「騙されへんぞ」と(笑)。
それに「もっとできるやろ」と平気で言ってしまうので。
岩田
わたしも似たようなことを
プログラム分野ではよく言ってます(笑)。
辻本・藤岡
(笑)
藤岡
だから「これ以上は無理です」と言われても、
「ここを削ったらできるやろう」と言ってしまうんですね。
そういう仕事の進め方をしていましたので
デザイナー側にも、とてもいい緊張感が生まれて
その結果、納得できるものになったと思っています。
岩田
わたしは客観的に見て、
絵に関して突き詰めていけば
Wiiではここまで表現できるんですよ、ということの
代表的なもののひとつになったと感じてるんです。
藤岡
ありがとうございます。
岩田
『ゼルダ』チームも
かなりプレッシャーを受けていると思います(笑)。
藤岡
そんな(笑)。
岩田
刺激の与え合いですからね、
わたしたちの仕事は。
藤岡
はい。なので、そこでちょっといいものを出せたというのは、
開発チームにとっても自信になっていると思います。
岩田
さて、満足のいく絵が出せるようになった一方、
Wiiのコントローラを最初に見たとき
これでどうやって『モンスターハンター』やるんだって
途方に暮れませんでした?
藤岡
(笑)。
ただ、もともと僕は
まったく新しい形状のデバイスを見ると
すごくワクワクしてしまうようなタイプなんです。
DSやWiiが発表されたときもそうだったんですけど、
これまでにないような新しい遊びができそうだし
すごくいいなあと思っていたんですね、客観的には。
岩田
客観的には(笑)。
藤岡
はい、客観的に(笑)。
でも、いざ取りかかってみると、
「むむむ・・・」となってしまいまして(笑)。
さらに本当に言葉を選ばずに言いますと・・・。
岩田
正直にどうぞ(笑)。
藤岡
まずボタンが・・・。
岩田
足りないんですね(笑)。
藤岡
そもそも『モンスターハンター』というゲームは
コントローラにたくさん付いてるボタンのすべてを使って
それで遊べるようにつくってきたんですね。
だから、Wiiでつくることが決まったとき
ずーっとWiiリモコンとにらめっこしていました。
辻本
まだ画面に何も映っていないような頃から、
藤岡は四六時中、Wiiリモコンを握りしめて、
じっと考えていましたからね。
岩田
「どうやって『モンスターハンター』をつくろう、
ボタンの少ないこのWiiリモコンで」と。
辻本
そもそも、任天堂カンファレンスで
Wiiで出すことを発表したとき、
みんなから「振るの?」とすごく言われましたし。
藤岡
僕は身内からも言われてましたからね。
「今度はWiiで出すんでしょう。操作とかどうなるの?」って(笑)。
岩田
Wiiリモコンで大丈夫なの?と(笑)。
藤岡
「やっぱり振るの?」とか言われて。
辻本
ただ、僕らの間では、
Wiiリモコンを振って狩りをするようなことは
当初からまったく考えにはなくって、
「疲れにくい操作にしよう」と言ってたんです。
岩田
長く遊ぶ人は、
ものすごく長く遊ぶゲームですからね。
辻本
そこで、モーションセンサーのことは考えずに
Wiiリモコンとヌンチャクを
1つのコントローラとして見ることにしたんです。
どういう操作にして、ボタンをどのように割り当てれば
気持ちいいんだろう? 楽なんだろう?と
まず、そこからはじめたという感じでしたね。
藤岡
そもそも『モンスターハンター』は、
シリーズを通じて、クセのある
操作形態に挑戦してきたところがあるんです。
岩田
レバーを微妙に倒しつつボタンを押すみたいに
高度な指使いが求められるゲームだったんですね。
藤岡
はい。
でも、もともとはシンプルに遊んでほしいと思って
つくってきたゲームでもあるんですね。
そこで今回、操作性に関してもゼロから見直すことになって。
岩田
それは、さきほどの
更地からつくった話とつながりますね。
藤岡
そうなんです。
そこで、このボタンを押すと何が出るという
自分たちのなかにある常識をまずなくすようにして、
Wiiリモコンとヌンチャクで
『モンスターハンター』を遊ぶことを考えたときに、
なにが生理的に気持ちいいのかを
徹底的に繰り返して検討しました。