株主・投資家向け情報

2012年10月25日(木)第2四半期決算説明会
質疑応答
Q 7

 岩田さんはこの質問を何十回と受け答えされておられるかもしれないが、改めて「スマートフォンやタブレットというのは任天堂にとって敵か味方か」という切り口で質問させてほしい。DSとWiiの年間のハード販売数量のピークは2009年3月期だったと思う。当時はiPhoneもiPadもなかったし、ソーシャルゲームも存在しなかった。スマートフォンやタブレットとゲーム専用機、それからソーシャルゲームとビデオゲームにはさまざまな違いがあることは認識しているが、ここ最近はハードもソフトも、技術革新が進み真似されるスピードが早まっているように感じる。そうした中で、3DSやWii Uでしか体験できない価値というのはどういうものなのか。それは圧倒的多数を占める、ゲームに対して受動的な人々にとってどれぐらい価値があるものなのかを教えてほしい。3DSの「すれちがい通信」やWii Uの「非対称的なゲームプレイ」というのはすごく独創的だと思うし、「Nintendo Direct」の話も非常にユニークかつ効果的な取り組みだということは存じ上げている。ただ、アテンション(注意・注目)から始まってアクション(行動)に至るAIDMA理論(※)の観点で言うと、最近はゲームに対して受動的な人たちがゲーム機やソフトの購入に至るまでの心理的なハードルがすごく上がっているように思われる。「Miiverse」は将来Wii Uだけでなく3DS、それからスマートフォン、パソコンにも展開するという話を聞いているが、「魅力的なソフトを切れ目なく出す」というのはもうゲームビジネスにおいて定石であり、加えて新しい遊びが自分や家族にとって本当に価値のあるものだと感じてもらい、実際に購入の背中を押すためのひとつの手段として、スマートフォンやタブレットをより能動的に活用するといったことは考えているか。

(※) AIDMA(アイドマ)理論: マーケティングにおいて消費行動のプロセスに関する仮説のひとつで、消費者がある商品を認知し、購買に至る経緯を表した理論。「AIDMA」は、「Attention」(注意)、「Interest」(関心)、「Desire」(欲求)、「Memory」(記憶)、「Action」(行動)を表している。
A 7

岩田:

 まず、スマートフォンやタブレット、まとめてスマートデバイスの登場というのは、世の中ですごくいろいろなことを変えています。スマートデバイスが発展し、「カーナビはどうなるのか」「デジカメはどうなるのか」というようなことがすでに言われていますし、「ゲーム専用機はどうなるのか」ということも言われています。すなわち、「いろいろなことができる万能デバイスは、専用デバイスを駆逐するのか、しないのか」というような語られかただと思います。

 私はソーシャルゲームの話と、スマートデバイスの影響の話を混ぜて語るのはまったく正しくないと思っていて、必ず分けて語るようにしていますが、スマートデバイスの存在は私たちにとってよい面も悪い面もあると思います。例えば先ほど「とびだせ どうぶつの森Direct」の話をしましたが、「とびだせ どうぶつの森Direct」で何が起こったかといいますと、どうぶつの森に興味はあるけど「Nintendo Direct」のことは知らない人が、ツイッターの中のタイムライン上に誰かが「どうぶつの森についてこんなことをやっているよ」と言って動画のリンクを一緒に貼り付けてくれたのを見て、そこに飛んでいくというようなことが、スマートフォン上で起きたのです。すると、そこにおいてスマートフォンは紛れもなく私たちの味方であって敵ではないわけです。一方で、「スマートフォンさえあればゲーム専用機なんて買わなくてもゲームは無料または85円で山のように遊べる。だからゲーム専用機なんかいらないんだ」ということをおっしゃる方もいるわけです。私たちは、「無料だとか85円では味わえない、圧倒的な面白さをお客様に提供できなければ、そもそも任天堂という会社の存在価値はないし、ゲーム専用機の存在価値はなくなってしまう」と思います。ただ、この議論というのは以前も申し上げたことがありますが、携帯電話でiモードが出るか出ないかぐらいの頃、「携帯電話でもアプリが動くようになります。ゲームもアプリのひとつです」という話があり、そして、「携帯電話でゲームができるようになったら、みんな実用品として携帯電話を持つのだから、携帯ゲーム機なんてなくなってしまう」ということをおっしゃる方がたくさんおられました。私たちもその頃、そのことをたくさん聞かれましたが、「私たちは携帯電話ではできないことをします」と申し上げて、その後、ニンテンドーDSがあのように花を開くということになったわけです。一方で、ニンテンドーDSはタッチスクリーンの新たな可能性を世の中に広く示し、結果スマートデバイスという新しいライバルを生んだとも言えます。そして、今スマートデバイスの脅威が語られているわけですが、「ああ、歴史は繰り返しているな」と思っていまして、私たちがやるべきことは「スマートデバイスではできないゲーム体験をお客様に提案すること」と、「スマートデバイスを敵とみなすのではなく、味方にする方法に対して積極的に取り組むこと」、この二つのことと考えています。

 Wii Uの発売と同時にサービスインを予定している「Miiverse」というサービスがあります。「Miiverse」はゲームを一緒に楽しむ人同士をつなぐ新しいネットワークサービスで、「Miiverse」が具体的にどんなサービスかということは今いろいろご説明をする準備をしていて、ここでご説明するには時間もかかり過ぎますので、「Nintendo Direct」を通じてWii U発売までにくわしくお伝えできるようにしたいと思っていますが、任天堂がどうして大きなエネルギーをかけて「Miiverse」をやろうとしているのか、それは任天堂のこれからのゲーム機をどう変えるのか、そしてスマートデバイスとどう関係するのかについて、少しお話ししたいと思います。

 ゲームの面白さは、ゲームそのものの面白さはもちろんですが、ゲームに関する話題を他の人とやりとりをして共感する中で生まれてきました。みなさんも例えば「マリオの裏技について子供の頃にやりとりしたことがある」とか、「ドラクエがどこまで進んだかを学校に行って話すのが楽しみだった」といったことは身の回りで起こっていたのではないかと思います。「Miiverse」というのは、ほかの人たちとゲーム体験を共感し合うための場を提供して、お客様同士が交流するための新しいネットワークサービスで、このサービスは発売時からWii Uのシステムに統合されて提供します。Wii Uを起動するだけで自動的に私たちが「Miiわらわら」として紹介した画面に、今Wii Uを楽しまれているほかのお客様がどんなことを感じているかというコメントが現れますし、それからWii Uのすべてのゲームで、ゲームを終了することなく「Miiverse」を呼び出すことができるようになっていますので、個々のゲームで特別な対応をしなくても「Miiverse」の基本機能は活用できます。ソフトごとに専用の対応をしていただくと、さらに交流や共感の機会を増やすことができると思います。また、今までの任天堂のプラットフォームでは、ゲーム機同士で(相手を特定してデータをやりとりできる)フレンド関係になるには、お互いに「フレンドコード」と呼ばれる数字を交換して打ち込む必要がありました。これは、見知らぬ人の中には、ごくわずかかもしれないですが、「他人に意地悪することで快感を覚えてしまうような方」もいらっしゃるので、ゲームを遊んでいて嫌な思いをすることなく安心して遊んでいただけるようにそういう仕組みにしました。Wii Uでは「Miiverse」を通じて共感し合った人同士がフレンドになることができるようになりますので、ゲームを一緒に楽しむ友達を増やすということが「Miiverse」の非常に重要なミッションになります。例えば、飲み友達が3人だけいる人と、飲み友達が20人いる人は、どちらが飲みに行く機会が増えるでしょうか。同じことは別に飲み友達だけではなくてゴルフ友達でも旅行友達でもいいのですが、友達が増えるほど話題も豊富になって、その経験が豊かになりますし、その結果、共通の興味関心事に誘ったり誘われたりすることも増えていきます。すなわち、ゲームを一緒に楽しむ友達が増えることはゲームを楽しんでいただく機会が増えるということなんですね。ここにおいては、必ずしもゲーム機だけではなくて、近い将来、「Miiverse」のやりとりがスマートデバイスにも出て行きますので、今電車に乗るとたくさんの方がスマートデバイスを触っておられますけれども、そういうときに、「自分のゲーム友達が、今何をしているのか」というような情報も自分の目に入ってくる存在にしたいわけです。また、次にどのゲームを楽しもうかと、能動的にゲームに関する情報を探してくださるお客様、代表的には「Nintendo Direct」をお知らせすると「必ず見る」と言ってくださるお客様だと思いますが、全員がそういうお客様ではないわけです。DSやWiiでゲーム人口が拡大した後、私はこの場で、「次の課題は自分にとっての適切な次の1本をいかに見つけていただくかである」と申し上げました。そしていろいろなトライをしましたし、部分的に成果は出ましたが、残念ながらDSやWiiで完全な答えは出せませんでした。その結果、徐々にゲーム機の稼働率が下がり、ビッグタイトルと次のビッグタイトルが発売されるまでの間にはゲーム機が使われなくなっていくということが起こるわけです。これはWiiやDSに始まった話ではなく、すべてのゲーム機がずっと抱えている課題です。しかし友達が増えれば、これは新しいゲームとの出会いが間違いなく増えるわけです。しかもそれはメーカーの宣伝ではなくて、自分が共感している友達が感じていることが可視化されるわけです。世の中には目立っていないだけで実は遊んだら面白いゲームがたくさんありますし、自分に合っているゲームというものが実はあるはずです。しかし、任天堂の広告宣伝予算は有限ですから、あらゆることを湯水のようにテレビ宣伝するわけにはいきませんので、「Miiverse」ではこれを知っていただく機会をつくるということが重要なミッションになります。そういう意味では、「Miiverse」で、ほかの人と互いに共感する場ができることで、「ゲームそのものの面白さを増幅すること」、それから、「家庭用ゲーム機の宿命であったビッグタイトルのない時期にゲーム機の稼働率が下がってしまうことを起こさずにゲーム機の稼働率を高める効果を出したい」と考えており、そのためにはゲーム機だけではなくて、スマートデバイスも巻き込んで実現したいと思います。さらに、「新しいソフトとの出会いを増やす」ということと合わせますと、「お客様が次に遊ぶべき1本に出会えるチャンスを増やし、よいソフトがより売れやすくなる環境をつくれる」ということになると思います。Wiiのときに、「みんなで集まっていたときは楽しかったけど、1人で遊ぶときは集まったときほど楽しくなかった」ということをいろいろな方にご指摘いただきました。今回は家族や友達と集まれないときであっても、「Miiverse」を通じて世の中のいろいろな人たちとつながりますので、「1人でもみんなでWii U」を楽しんでいただこうというのが、私たちが目指していることでして、それがこのスマートフォンやタブレットが普及した時代に私たちがやっていくべきことであり、スマートフォンやタブレットで過去に発売したソフトを販売することは私たちが優先すべきことではないと思っています。

Q 8

 Wii Uのソフトウェアについて聞きたい。タイレシオの考えかたとして、あれだけ売れたWiiとの下位互換性があるということがWii Uにどう影響すると考えているか。また、Wii Uではサードパーティーのソフトが非常に充実しているが、Wiiのときと比較して、サードパーティーソフトの比率はどのように変化してくるかという点を教えてほしい。Wii Uではパッケージソフトのダウンロード販売もハード発売直後からやるということだが、以前「ダウンロード売上はそんなにすぐには業績に寄与はしてこない」という話があったが、当上期のダウンロード売上高は約51億円で、現時点で上期の実績を見てその点に対してどう考えるか。また、『ファイアーエムブレム 覚醒』の追加コンテンツのダウンロード数や有料追加コンテンツ売上高が東京ゲームショウのときに発表されていたが、来期以降、このダウンロードコンテンツがどのくらいの規模感を持ってくるかというところをあわせて教えてほしい。

A 8

岩田:

 まず、WiiのときとWii Uのときの大きな違いは、今おっしゃっていただいたようにソフトメーカーさんのソフトの充実度の差だと思います。Wiiを発売した6年前を思い起こしていただくと、「『Wii Sports』はちょっと目先が変わっていて面白そうだ」と思っていただけても、「Wiiがトップシェアのプラットフォームになる」と信じている方は世の中にはほとんどいらっしゃらなかったですし、「圧倒的に不利だ」と言われていた状況で任天堂は幸運にもあのような結果が出せましたが、少数のソフトメーカーさんのソフトを除くと、ハード発売当初は「任天堂が頑張るしかない状態だった」わけです。ですから、そういう状況だったときと今回とでは、実は大きくソフトメーカーさんの比率は変わると思います。DSやWiiのときは、最初は任天堂のソフト比率がすごく高くて、日本ではWiiについては最後まで任天堂比率が高いままだったと思います。DSについては、時間とともにソフトメーカーさんの比率が上がり、海外のWiiもソフトメーカーさんの比率が時間とともに上がりましたが、Wii Uでは比較的初期からソフトメーカーさんのソフトの比率が高まるのではないかと予想しております。

 また、Wiiとの下位互換を持つ意味ですが、互換というのはとくにプラットフォームからプラットフォームへの移行期に非常に重要なものです。新しいプラットフォームはソフトがまだ充実していませんし、「前のハードのソフトライブラリーを無駄にしたくない」というお客様の心理もありますし、テレビの周囲に何台もゲーム機を置くスペースがないことが多いと思いますので、「前のハードがどこか別のところに移動できる、または片付けられるのだったら、新しいものを買ってもいい。これ以上(ハードが)増えるのは絶対に困る」という方もいらっしゃると思います。そういう点で互換の意義は大きいと思いますし、Wiiのソフトについても今遊んでも楽しんでいただけるものはたくさんありますし、未経験のソフトはある意味、その方にとっては新作なわけですから、そういうビジネスチャンスもしっかり活かしたいと思います。

 ダウンロード売上について、「今年度いくらにします」ということは申し上げる数字を持ち合わせていないのですが、ただ、どんなに控えめに言っても、過去最高を超えないはずはないと思います。なぜかといいますと、パッケージソフトのダウンロード販売はこれからますます加速するわけですし、Wii Uでは最初から始めるわけですし、バーチャルコンソール中心、Wiiウェア中心だった時代と今とは、ビジネス規模がまったく違うと考えているからです。ですので、これからダウンロードの売上が任天堂の成長要素のひとつであると認めていただけるように、それが具体的に読めるような段階になったら、私たち自身が何らかの形で「こういうふうに考えている」という見通しをお話しするべきかと思います。

 それからダウンロードコンテンツですが、『ファイアーエムブレム 覚醒』はバンダイナムコゲームスの鵜之澤さんが東京ゲームショウで講演されたときに「ぜひこの数字を含めて話をしたいので教えてほしい」というご依頼をいただき、鵜之澤さんがちょうどCESA(一般社団法人コンピュータエンターテインメント協会)の会長に就任された直後でもありましたので、「普通は個別タイトルについてお話しするつもりはないのですが、今回は特別に」ということでお話をしました。実は昨日大阪証券取引所での決算発表のときに「こういう報道があったけど、あれは本当か」と聞かれて、「鵜之澤さんの名誉のためにも、あれは本当です」と申し上げたのですが、『ファイアーエムブレム 覚醒』のような例も出てきていますし、これからもダウンロードコンテンツ、追加コンテンツというものはつくられていくと思います。一方で、どんなゲームにもむやみやたらとダウンロードコンテンツ、追加コンテンツをつけたらよいと思っているかというと必ずしもそうではありません。これは「クリエイティブの対価としてお客様がお金を払ってもいい」と思っていただけるものと、そうでないものとをきちんと分けてメリハリのある展開をしたいと思います。例えば、「『どうぶつの森』でダウンロードコンテンツを出せば、ものすごくもうかるのではないか」と考える方がいらっしゃるかもしれませんが、逆にそれをやると、『どうぶつの森』というゲームがものすごくお金の力にあかせて遊ぶゲームに変わってしまって不健全になりかねないので、開発チームともよく相談し、一切そのような要素は入れておりません。一方で、『Newスーパーマリオブラザーズ2』では、追加コースのパックをダウンロードで販売しているのですが、これは実際に遊ばれた方に非常に楽しんでいただいているという反応も聞いておりますので、こういうところにはいろいろな可能性があると思います。ですので、個々のゲームごとに考え、お客様と折り合いがつくところを探してやっていきたいと考えています。基本的に私たちの考えは、そのやりかたでお客様と長期的な関係が築けるかどうかで判断をしているつもりです。


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