思い起こせば今から17年前、極めて一般的な学生であった私は、某パソコン雑誌で、編集補助のアルバイトをしていた。ファミコンという新しいオモチャの、小さなコーナー・ページを担当していた。野球とか、テニスとか、それなりにおもしろいゲームのテスト・プレイをして、適当に原稿を書いて暮らしていた。ある日、一本の新作ソフトが届いた。はまった。初めてファミコンにはまった。次々に新しい発見があり、夢中になった。気が付いたら電車も終わっていた。初めて会社で徹夜した。セーブなんていう概念がなかったから、ずーっと電源を入れっぱなしでプレイした。ふとしたきっかけで、キャラクターが画面の外に飛び出した。ついに壊れたかと思った。でも、その先にワープ・ゾーンを発見した。その衝撃は、生まれたときからゲームがあった世代にはわからないだろう。よかった、あの時代に生まれていて…。
ゲームという、ただの暇つぶしでしかなかったものが、私の人生に大きな意味を持ち始めた瞬間だった。『スーパーマリオブラザーズ』そしてこれを作った宮本茂という男を抜きにして、私の人生を語ることはできない。 |
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ファミコンの未来を確信し、ファミコン雑誌の編集を本職とし、ゲーム雑誌というカテゴリーが成立し始めた頃、初めて宮本さんに会うことができた。通常のインタビューの何倍にも相当する、ものすごく濃い時間があっという間に過ぎていった。「子供の頃に近所の原っぱや山を探検したときの楽しさを再現したい」「お城の前に立ったときに、その大きさを実感できるような、見上げる表現をしてみたい」。その言葉が妙に印象に残った。ずっと気になっていた。そんなゲームをやってみたい。宮本さんの夢は、同時に私の夢にもなっていた。 |
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それから10年。『マリオ64』が完成した。お城の前でその大きさを実感した。お城の天井を見上げるとマリオは空に飛び立った。ちょっぴり涙が出そうになった。ずっと抱いていた宮本さんの、そしてみんなの夢が実現したんだな、と思った。嬉しかった。マリオは私を子供の頃に戻してくれた。大人の社会のいやなことを全部忘れさせてくれた。そして夢中にさせてくれた。 |
この夏、キューブになって初めてのマリオが発売される。今度はどんな夢をかなえてくれるんだろう。
もうすぐ、また、子供の頃に戻れる日が来る…。 |
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