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2008年4月25日(金)決算説明会
任天堂株式会社 社長 岩田聡 講演内容全文

また、ご覧いただいているように、パブリッシャーさんと呼ばれるゲームの発売元になっている大手の会社さんだけでなく、小規模な開発会社さん、ならびに新規参入の開発会社さんが多く参加されています。その中で、今日は、1つの例をお目にかけようと思います。


このゲームは、2D Boy 社という、開発会社が開発中のWiiウェア『World of Goo』というタイトルです。
ご覧いただくとわかりますが、物理演算を活用したパズルタイプのゲームで、Wiiリモコンのポインタで操作して、網目状のキャラクターをゴールであるパイプのところに導くゲームです。
私も今週に入ってから見せてもらったのですが、いろいろなギミックがあって変化に富んでおり、今、任天堂社内で「これは良くできている」と、ちょっと話題になっているタイトルです。
Wiiウェア版の開発は、当初2名で始めて、途中から1名が加わって3名で進めているそうです。今の時代に、据置型の家庭用ビデオゲーム機用ソフトとして、なかなかこのような3名の規模のチームが商品を作ることは難しくなっています。このような商品が新たな可能性を開くことを期待し、そして、サポートしていきたいと考えています。


これまでお話ししてきましたように、任天堂はゲーム人口拡大という基本戦略の下で、この2年で大きな市場拡大を実現することができました。かつて、脳を鍛えることや犬を飼うことがビデオゲームになると思われていませんでしたが、今や、体重を毎日量ることさえもゲームとして定着しつつあるわけです。そして、


パラダイムシフトとも呼べるような大きな変化が世界に広がっています。
パラダイムというのは、ある時代に支配的であるものの考え方のことですが、パラダイムシフトが起こると、過去に業界内でビジネスの常識とされていたことが、通用しなくなるわけです。


これは、昨年の決算発表でもお見せしたスライドですが、過去には、ビデオゲームは主に子供さんと若い男性が楽しむ娯楽であり、大人の女性やシニア層の方々に楽しんでもらうことは難しい、という考え方が世界中で支配的でしたし、かつて、業界内外の多くの方々から「任天堂は子供向け」という見方をされていることをお聞きしていました。
また、ゲームビジネスの世界では、大多数のソフトの寿命は大変短く、数週間の間に売れなくなってしまい、長く売れ続けるようなソフトはほとんどないというのが常識でした。しかし、今、これら全てが、DSやWiiのビジネスでは当てはまらなくなっています。


そして、ゲームソフトの商品寿命は短いという考え方を前提にした発売時に認知を最大化するように発売前の広告宣伝を重要視するマーケティングを行う手法から、任天堂は既に脱却していますし、発売から時間が経つと、ソフトを値下げしないと売れなくなるという考え方や、携帯型ゲーム機では、据置型ゲーム機に比べてソフトが売れず、ソフトビジネスの主役はあくまで据置型であり、携帯型ゲームはソフトビジネスで主役にはなり得ないというような常識も、ゲーム人口の拡大による市場の大きな変化で、過去のものになりました。
しかし、これだけ、大きく市場が変わりながら、ゲーム業界の中の多くの方が、未だに過去のプラットフォームのハード、ソフトの販売推移に基づいた、「プラットフォームサイクル」という考え方は不変であるとお考えであるように感じます。


私達は、プラットフォームサイクルは、これからも過去と同じように推移するのか、ということには疑問を持っています。確かに、技術はどんどん進歩しますから、1つのハードの寿命が永遠ということはないと思います。しかし、過去に何年サイクルでビジネスが拡大し、縮小し、一巡したから、次もそのようになる、ということが当てはまるのは、固定的な同じお客様を対象にし、かつ環境にあまり大きな変化がない場合だけではないかというのが私の考えです。現実には、お客様の層は大きく広がり、市場は世界で更に拡大しつつあり、そして、ビジネス環境も刻々と変化しています。


これは、携帯型ハードとして、累計8,000万台以上が普及しているゲームボーイアドバンスの発売から年度ごとの出荷数を表したものです。
ゲームボーイアドバンスは、市場拡大が起こる以前の従来型ゲーム市場を対象に販売されたゲーム機です。初年度から勢いよく売れ、5年目に急激な縮小を見せました。このことから、携帯ハード4年周期説などがささやかれたりする根拠になっていると思います。
これに対してDSは、全く違う普及の仕方をしています。ゲーム人口拡大、という新しいコンセプトは、まず日本で受け入れられ、そして、ヨーロッパ、アメリカと徐々に広がりました。このため、立ち上がりは、ゲームボーイアドバンスよりもずいぶん遅かったと言えます。しかし、ゲーム市場が拡大されたことで、山はより高く、そしてサイクルはゆっくりに推移しています。


こちらはソフトです。
初年度、2年度目と、ゲームボーイアドバンスの市場規模に届いていなかったDSのソフトも、市場拡大が実現できたことで大きく変わりました。ゲームボーイアドバンスのときと全く異なる流れになっていることがおわかりいただけるのではないでしょうか。
これをご覧いただくと、過去のプラットフォームサイクルを元に将来を予想することが果たして適切なのか、ということに疑問が出てきます。Wiiについても、過去のプラットフォームサイクルが必ずしも当てはまらない、新しい流れができる可能性が多いにあるのではないかと感じています。


最後に、中期の重点目標についてお話しします。
昨年、決算発表の際に、「ハード普及の目的はソフトビジネスの活性化にある」とお話しし、中期的な展望として、DSとWiiを合わせて年間3億本のソフトが売れるような市場を作りたい、というお話をしました。
実は、当初、それには数年かかるのではないかと考えていたのですが、私達の予想を超える速度で世界のお客様に任天堂の提案を受け入れていただき、パラダイムシフトが一気に世界に広がったことで、この目標は中期目標どころか、1年で達成されてしまいました。私は、次にソフトを年間何億本売りたい、ということを考えるよりも、別の指標を目標にするべきであると考えています。
それは、ゲーム機の世帯あたりのお客様の数です。



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