株主・投資家向け情報

2008年3月期 決算説明会
質疑応答
Q 11  アメリカで景気が後退しており、ヨーロッパでも似たようなトレンドが心配されている中で、WiiやDSのハード、ソフトの売り上げに対する影響をどう見られているのか教えてほしい。
A 11

岩田:

 過去の歴史では、アメリカのゲームビジネス、今の構造が基本的にできてから25年ぐらい経っているわけですが、25年間の中で景気のいいときも悪いときもありました。ビデオゲームのビジネスは、私たちの経験では比較的景気動向の影響を受けにくいビジネスであると感じています。たとえばお客様が「景気が悪いので大きな買い物をやめよう、先送りにしよう」、「旅行をやめよう」、「外食を1回節約しよう」というようなことが起こっていても、ビデオゲームは節約しようという対象になりにくかったようです。逆に何かの代わりにビデオゲームを選んでいただけるからかもしれません。これはよくわかりませんが、歴史的に景気動向の影響を受けていないということがまずあります。 

 今年の1月から3月のNPDの統計を見ますと、ビデオゲーム産業全体で対前年27%のプラスです。おそらくアメリカのさまざまな消費者向けの指数は、軒並み前年割れだと思いますが、ビデオゲームは特殊な状況です。その意味で、サブプライム問題に端を発したアメリカの景気減速が、直接ビデオゲームビジネスに短期的にダメージを与える可能性は小さいのではないかと感じています。アメリカ、ヨーロッパの動きは当然毎週報告を受けて見ていますが、私たちは減速の兆候は感じておりません。

Q 12  任天堂のゲームは従来のユーザーではない方たちも多く買われていると思うが、そういう方たちの間でも景気の影響はないのか。
A 12

岩田:

 はい。そのように感じます。それは新しいユーザー拡大型のソフトの販売数が急に落ちたとか、何か影響を受けたということは、私たちも変化には敏感でなければいけないと思いますから毎週指数を見ますが、特に感じていません。おそらく私たちのプロダクトはその影響が出にくいのだろうと思います。

Q 13  確か昨年、「普及台数が増えればタイレシオが低下する」という過去の常識へのチャレンジとして、ボリュームと価格のダイナミックレンジを広げていきたいとの説明があったが、少し歩みが遅いのかなと感じている。それと直接、間接に関係するかどうか、終わった期のソフトの開発費が予算の450億円に対して370億円と前の年に比べて横ばいに留まった。それは「ソフトの絞り込みや、発売の延期の影響」と聞いているが、「人が足りないのではないか」という仮説を持っている。実際に終わった期は、(連結で)約400名の社員数が増えているが、これもモノリスソフトと海外のオペレーションと新卒だと聞いている。
 そこで、人の生産性をさらに上げられるのかどうか。肉体労働ではないので、天井はないと思うが、むやみに人を採ればいいというものではないということは重々承知しているが、まだまだ生産性を上げられるのかどうかを聞きたい。
A 13

岩田:

 私どものようなスタイルの、そしてこれくらいの規模のビジネスが2年で3倍の規模になるというのは、あまり例がないと思います。私も何を参考にすればいいのかはよくわからないながらも、毎日どうしていくべきか考えています。当然急激にビジネスが拡大すれば、「人が足りない」という話は出てきます。

 一方で、「『人が足りない』と言っていることは、本当に人を増やせば解決するのだろうか」ということも考えています。人に何かをふりかけたら、人がポンと二つに分かれて、知識や経験をもった人が2倍に増えるのであれば、たぶん人が増えてもうまくいきます。しかし、外から「任天堂のことを知らない、ゲームビジネスの特殊性をご理解いただいていない人」が急激にたくさん入ってきても、逆に任天堂のDNAとも呼ぶべき重要な考え方、世の中ではやや非常識ともいわれるような場合もありますが、少し変わった考え方をしている娯楽ビジネスの会社の価値観を理解されない方が急激に増えることは、むしろ危険だと思っています。ですから、私は今「ギリギリの線はどこなのか」、「人を増やしながら、任天堂が変わってしまわない線はどこなのか」を見極めながら、マンパワーの補強をしようと思っています。

 同時に、任天堂は一応効率がいい会社に入るとは思うのですが、限界かというと私は全然そうは思っていません。今でも少なくなったとはいえ、会社の中で無駄に消えている力はあるし、本当に中でやるべきことと外のパートナーさんと分担すべきこととの境界は今のやり方がベストだとは思っておりません。また、これは制約条件理論という言葉でいわれますが、ボトルネックが1個あれば、そこに合わせて全体のパフォーマンス、スループットが決まってしまうというのは、いろいろなビジネスに共通で、これはわれわれの仕事も一緒です。「ボトルネックになっているのは何なのか」、「そこはどうしたら強化できるのか」というかたちで考えないといけないかなと思っています。

 確かに短期間にビジネスが急拡大し、やることが一気に増え、ポテンシャルも増えて、本当はやったほうがいいけど、あえて我慢していることがあるのも事実です。それはやりたいことを全部やりにいくとみんな中途半端になって、かえって悪くなるので、「本当はやったほうがいいけれども、今(手を付けるのは)はやめよう」と言っているものもあります。それは外部からご覧になると「展開が遅い」というご批判になるのかもしれませんが、そこは何とかギリギリの任天堂らしさを失わない範囲でやっていきたいと思います。ただ、ご指摘いただいているようなことを考えながら、私たちなりに工夫して強化を図っているつもりです。また、任天堂の能力発揮の総量は数年前より今はそれなりに拡大できているのではないかという自負もあります。

Q 14  プラットフォームのサイクルはこれまでと変わるのではないかという話があったが、今プラットフォームに(次の)サイクルが生み出される原動力としてどんなものを注視しているのか。見ているものがあれば、教えてほしい。
A 14

岩田:

 ソフトの作り手が「このハードでできることは全部やってしまって、お客さんにいい意味で驚いていただくタネや仕掛けがどうしてもひねり出せない」となったときが、ハードの限界なのかと思っています。当然、任天堂社内にもハードチームがおりますから、彼らは常に新しいハードの研究をしています。また、新しいハードを出すこと以外にも、バランスWiiボードのように、機械を一つ作ってソフトと一緒に販売することで、ハードが単体では持ちえなかった機能を持って、お客さんに驚いていただける場合もあります。ああいうこともプラットフォームのサイクルを延ばすための一つの工夫かもしれません。最近ではマリオカートのハンドルもそうかもしれません。

 一方で、技術には必ず何かのブレークスルーがあります。今まで私たちが「こういうことができたらいいんだけど、現状の技術ではできない」、または「実現できるけれども、高くつきすぎて、今のようなゲーム機の値段に収まらないからできない」ということはいっぱいあります。しかし、どこかでブレークスルーが起きたときに、今のゲーム機の値段で売れるようなかたちになるときがあります。かつ同時に、お客さんに驚いてもらうタネがないねとソフトの作り手が困っているときが、新しいハードが必要なときなのかなと思っています。

 単純に半導体技術が進歩して、プロセスルールの線幅が細くなったから、トランジスタがたくさん詰め込めるので性能を上げてというのは、お客さんにあまり驚いていただけないと思うので、そうでないことで判断するのが正しいのではないかと私は思っています。

Q 15  プラットフォームが次のサイクルに移行する要因は会社の中から出てくるものであって、会社の外から来るものではないということでしょうか。
A 15

岩田:

 私たちは「お客様にいち早くおもしろい提案をしたい」と思っていますが、この業界にいらっしゃるいろいろな会社さんが、「自分が一番になりたい」と思って最大限努力されて、人に驚いてもらうためのテーマを探し続けておられるわけです。ですから、私たちの中から出なくても、外から突然お客さんがびっくりするようなものがバーンと出てくれば、それに対して「われわれが何をしなければいけないのか」ということも変わりうるわけです。ですから原則としては、(次のサイクルに移行する要因は)私たちの中から出したいですが、外からトリガーが引かれるということが絶対に起こらないとは申し上げられません。


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