株主・投資家向け情報

2009年3月期 決算説明会
質疑応答
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Q 11 責任者として大局的に見ていることは大切だが、この(プレゼンで使われた)調査の情報の中で、調査に答えたがる人たちは(ゲーム機を)使っている人々であって、買ったけれどもしばらく使ってだんだん使わなくなったというグループも当然存在するはずだ。非常に成功し、幅広い年齢層を囲むことができていると同時に、特に健康とか体操系のように流行りすたりの激しいところは、どうしても危険も含まれることになる。使わなくなってきたので調査に答えないというグループを調べられたことがあるのか。年齢層が変わってきていることの特徴は何かあるのか。使わなくなる人は使わなくなるので仕方がない、調べても意味ないのか。この考え方を教えてほしい。
それと関連して、いままでは何年かプラットフォームがあって、画期的な新しいプラットフォームに移行することになっているかと思うが、幅広い人口をうまくとらえているので、もうちょっと延長して、この2〜3年続く予定なのか。そうではなくうまく移行できる、高い年齢層もたぶん次の画期的なプラットフォームも買ってくださるという考え方なのか。
A 11

岩田:

 任天堂が自社で調べた調査をこうやって皆さんに公開することについては、私自身もいろいろ考えるところがありまして、ひょっとするといまご質問いただいたように、「自社に都合のいいようにしているんじゃないの」という疑問を抱かれるかもしれないということは少し考えました。

 まず調査の精度については、私は異常にこだわっております。実はアメリカは現在のかたちで調査をする前に別の調査を一回やったのですが、精度的に全然だめだったんです。これはどうやって検算するのかについてもお話しします。これは日本で3,000人、海外で4,500人から5,000人ぐらいの方にご協力いただいてサンプリングするのですが、それが本当にその国の生活者全体を代表しているか否かは、経営判断のうえで非常に重要です。偏りがあるサンプルで調査をしたところで、ゲーム人口がこのように推移しましたと論じることは全く無意味です。

 ここで、検算をするのに非常に有効な方法があります。(この調査を通じて)さまざまなハードを自分は持っているとか、家で使っている等のデータが一緒に集まってきますので、この調査から(算出される)世の中にあるはずのハードの台数と、売れているはずの台数とを比較するのです。それを比較して検算したときに、ある程度の精度のレンジに入っていれば、それはサンプリングした人がその生活者全体を代表していると言えるわけです。もし精度にずれがあれば、そのときのサンプリングが正しくないということになるわけです。

 そのことは毎回非常に注意をしておりますので、先ほどご指摘があったように、「調査に答える人は任天堂の製品の愛用者なんでしょう」とか、「ゲームを受け入れている人だけなんでしょう(ゲームを使わなくなってきた人は含まれていない)」ということでバイアスがかかっているわけではなく、そうならないようにいろいろなかたちで検算しながら、だんだん精度の高い調査をできるようになってきたというのが現状です。ある程度の精度が出てからの結果しかお見せしておりませんので、その調査精度には一定の自信があるということをまず申し上げておきます。

 当然のことながら、ゲームというのは人が一度遊んでくださるようになっただけで、遊び続けてくださるとは限りません。ただ、これはWiiやDSで始まったことではないんですね。ファミコンやスーパーファミコン、あるいはソニーさんのプレイステーションがマーケットをリードしていた時期に、皆さんも記憶にあると思うんですが、「ドラクエ」が出ると押し入れからゲーム機が出てきて遊ばれて、また終わったらしまわれてしばらく使われないということはあったんです。

 われわれも、当然ゲームがアクティブに遊ばれ続けているかそうでないかは心配ですから調べます。イメージとして何となくですが、「『脳トレ』とか『Wii Fit』でゲームを始めた人は、それに飽きたらすぐゲームをやめて、ほか(のゲーム)はしないでしょう」、逆に「従来からのゲームを好きな人はずっとゲームを遊び続けるでしょう」というイメージがおありではないかと思うんですが、それほど単純ではないようです。

 私たちは、このデータのほかにクラブニンテンドーのデータなども使っていろいろなかたちで分析をしていますが、必ずしも「どのゲームで始めた人はやめてしまいやすい」ということではないようです。ソフトを何で始めようが、ソフトを継続的に買ってくださっている人はずっと遊んでおられるし、ソフトを継続的に買っておられない方はやめてしまうということのようです。また、「このソフトを買うとどうもゲーム参加率が急に下がるらしい」、「ゲームをやめる原因になるソフトが明確に特定できている」ということもありません。すなわち、人は何となく(ゲームで遊ぶことを)やめてしまうんですね。

 「お客様がどれぐらいの程度でやめていくのか」、「それに対してわれわれは、どういう間隔でどういう提案をすることによって、(やめていくお客様を呼び戻したり、引き留めたりして)マーケットをまたつくりだせるのか」ということをいろいろ研究しています。これはまだまだ答えは出ていませんが、少なくともいまおっしゃったような、「健康や脳を鍛えることは一過性のブームになりやすいから、特に流行りすたりの危険が大きい」ということではないと思います。ビデオゲームというのは、もっと言えば娯楽というのは、そもそも流行りすたりの大きなものなので、定期的に新しい提案をする必要がありますし、それを私たちはしていかないといけないのです。それができなければ、いっときいい状況でもすぐにおかしくなるというのが、この産業の特徴だと思っています。

スライド:携帯ハードのプラットフォームサイクル
スライド:携帯ソフトのプラットフォームサイクル

 過去にプラットフォームは何年サイクルというお話があって、携帯型で4〜5年、据え置きで5〜6年というのが一つのサイクルと言われて、そういうサイクルの中で製品が出ていました。

 これはゲームボーイアドバンスとDSが発売してから毎年どういう売れ方をしたかというグラフです。DSの一番右はこれからの予定ですのでまだわかりませんが、この二つはサイクルとして同じに見えるでしょうか。私は、全然違うと思うんです。同じようにソフトの売れ方も違うんです。ですから、単純に「過去に何年サイクルだったから次も何年サイクル(になるはずだ)」というのは、今回のようにお客さんの層がどんどん広がって、普及の広がり方のパターンが変わってくると、必ずしも当てはまらないだろうと思います。

 一方で、DSとWiiだけで永遠にいけるから、任天堂はハードチームを解散しますという気ももちろんありませんので、ある日突然ものすごくおもしろい種が見つかって、世界中のお客様が新しいハードを買ってでも遊びたいというようなものがつくれるかもしれませんし、当社のソフト開発陣やソフトメーカーの方々が、DSやWiiでいろいろなソフトをつくってきたけど、もうネタ切れだよということをいつかおっしゃるかもしれないので、そのために当然ハードチームは常に研究をしております。

 ただ、これは皆さんには想像しがたいことかもしれないんですが、任天堂は実は「ハードをつくったら必ず出す」とは決めてないんですね。ハードはつくるのに最初のコンセプトづくりからすると2年とか3年という時間がかかりますので、新しくハードを出すと、「次は何ができるんだろうね」ということを検討するチームは(新しいハードの発売直後に)すぐに立ち上がって動き始めるわけです。そこでできたものを新しく世に問うよりも、いまのハードをそのまま伸ばしていったほうが全体としてプラスであると判断したら、そのハードはそのタイミングに最適化されて設計されていますから、もう(そのままの形では)使えないんです。アイデアで使えるものはありますが、少なくとも「カスタムチップはつくったけど、それは使わずに終わってしまいました」ということは過去にありました。そして今後もあるかもしれません。

 任天堂はいつでも準備をしているんですが、ソフトチームがネタ切れだと言うか、新しく私たちが開拓できるマーケットがなく、私たちのポテンシャルになりうるお客さんは全員そのハードを買ってしまいましたということが起こらない限り、新しいハードは要らないわけです。ですから、普通のテクノロジードリブン(技術主導)の会社であれば、ロードマップを書いて、「何年後にこんな技術が使えるからこのときにこうしてああして」と、言ってしまえばハードのつくり手の都合で次のサイクルを決めるのでしょうが、私たちはどちらかと言うとソフトのつくり手が「いまの(ハード)では限界だ」と言いだすかどうかがポイントになっていて、そういう日が将来来たときのためにハードを用意するという考え方になっているわけです。

 なので、「何年後にどうする」という発想はしていないのですが、いまの状況を見ますと、「過去のパターンよりも周期がちょっと長くなるのではないのかな」という感じを受けています。また、現実に、かつてはプラットフォームサイクルとおっしゃっていた方々の中にも、「今回は少し先に延びるのかもね」ということをおっしゃる方が増えてきているように思います。

Q 12 懸念材料として二つ考えていることがある。
一つは、海外市場の中古マーケットの拡大について。日本は30%ぐらいという数字もあるが、海外、特にアメリカを中心に急激に中古マーケットが拡大しているとの話も聞こえている。これに対する認識と対策があれば教えてほしい。
もう一つは、開発の部分についてで、少し厳しい言い方だがコンスタントに大型タイトルが出ない。ある面でちょっとアイデアが枯渇してきているのではないかという懸念を持ち始めている。それは御社にとってのキラータイトルは、普通の企業と違ってたぶん1,000万本以上みたいなかなり高いハードルがあるためかもしれないが。
それとも、御社の神様的存在である宮本さんというトップクリエーターの方がおられるが、宮本さんを超えるような若くて優秀な人材が育っていないのかなという懸念も持っている。いや、そもそも大企業病的な面がちょっと出始めているのかなと、いろいろ心配している部分がある。このあたりの認識と、対応・対策についての考えを教えてほしい。
A 12

岩田:

 まず、「海外で中古市場が拡大している」という認識は、事実そのとおりではないかと思われます。中古の製品の取り扱いに力を入れる大手の流通さんが増えたり、最近ではアマゾンさんが本格的に始められるということが報道されたことについて、海外のソフトメーカーの経営陣の方から強い懸念をお聞きしたこともあります。また、ダウンロード販売について、日本以上に海外のソフトメーカーさんたちが期待しておられるのも、「このままいくと中古問題がどんどん大きな問題になる」という懸念をお持ちだからではないかとも思います。

 しかし海賊行為のような違法行為であれば、われわれは「けしからん」と言えますが、違法行為ではない中古市場に、われわれはけしからんと言っても始まらないわけです。確かに「製品が中古になると大幅に劣化する」ということが感じられないゲーム(という製品)の性質から、中古の存在が大きくなると、メーカーにとっては大変であるということは事実かもしれません。

 一方で、それも社会環境の変化なわけで、その変化にどう対応していくかということを考えるのがメーカーの仕事だと思っています。ではどう対応するんだと問われれば、任天堂は「いかに(お客様に)製品を持ち続けたいと思っていただくか」、あるいは「お客様に中古ではなく新品を買っていただく動機をどうつくりだすか」、というようなことをきちんと工夫し続けていくことがあるべきことかなと思っています。

 それから「開発に対してアイデアが枯渇している」というご指摘、大変厳しいご指摘かと思います。すべての数字で過去最高ですという業績を発表した席で、「御社はアイデアが枯渇しているんじゃないか」と言われる会社は、世界中で任天堂ぐらいではないかと思うんです。それぐらい次々新しいこと、「次はこれです」、「次はこれです」と提案し続けていって、(その結果)ハードルが上がっていくので、「いままで以上に驚いていただかないといけないというのは、大変なチャレンジだ」と思っています。ですから、大企業病について言えば、「大企業病になる暇がないぐらいハードルがどんどん上がりますよね」というふうに思っています。

 一方で、お客様の期待度も確実に上がっております。また、これは世の中が本当に変わってきたと思うんですが、私は昔、会社に対して、あるいは会社の未来に対していかに期待していただくかということが広報の仕事であり、マーケティングの仕事であると考えていましたが、最近任天堂にはそれがだんだん当てはまらなくなってきたと思うようになっています。「今度出す製品はすごいですよ」と私が下手に口にでもしようものなら、期待が過剰に高まってしまって、何を出しても「なんだ、大したことないじゃないか。」ということになりかねないという恐怖を感じております。すなわち、お客様の期待度が、もちろん地に落ちてはいけませんが、過剰に高まりすぎないように、皆さんとコミュニケーションをしないといけない段階に入ったと思っています。

 また、ものが古くなるスピードがものすごく速くなっていて、何カ月も前から鐘や太鼓をたたき続けると、お客様は遊んでもおられないのに発売される前に飽きてしまったりするわけです。「それはもうこの間そのことで騒いだからもういい」というふうになってしまいかねない危険性があるわけです。

 ですから、どんどん事前に大きなことは言いにくい、どんどん前もってお話をしにくくなっていく環境の中で、「任天堂は最近新しい提案が少ない気がするな」というふうに見えてしまうことが、アイデア枯渇現象と言われてしまう要因なのかもしれません。別に私たちが新しい提案をするペースが極端に下がっているとは思いませんし、また、それが当たるか当たらないかはそのときの流れによって運、不運も大きく左右します。そして、先ほどおっしゃっていただいたように、任天堂にとってキラーコンテンツと言っていただけるようなもののハードルが非常に高くなってしまいましたので、それを超えるものは確かに難しくなっているでしょう。

 もう一つの、宮本の後進は育っているのかという話についてですが、宮本の名前で、また、宮本がプロデュースしたとして出されている商品がたくさんありますが、宮本は神様ではないですし、一人の生身の人間ですので、その中に詰まっているアイデアがすべて宮本の手柄であるというのは、これはまた考えすぎです。

 確かにいくつかの非常に大事な発見、たとえば毎日体重を量ることはおもしろいに決まっているという、普通の人はなかなか言いだせないことを言い切ることによって宮本が果たしている役割は、簡単にほかの人に引き継げないものと思います。しかし一方で、若くて優秀でおもしろいアイデアを出す人がいっぱいいるから、任天堂のソフトの中にはいろいろなネタがいっぱい密度高く詰まっていて、それも含めて任天堂のソフトなわけです。ですから私は、人は育っていないとは思いません。

 ただ、私や宮本はある意味で非常に幸運な時代に生きていまして、「若いうちにトップランナーとしてビデオゲームづくりを経験できた」という時代に社会人として育っていく幸運に恵まれました。それと同じ経験をできない若い人たちにどうやって自分たちが学んできたことを身に付けてもらうかというのは、非常に大きなテーマです。それはいろいろなかたちで取り組んでいるんですが、具体的には成果が出て、こんな人間がこんなものをつくりましたというお話ができたときにさせてもらおうと思います。決して未来を悲観しているものではないですし、アイデアが枯渇して困っているということもありません。ただ、前もってお話ししづらくなったということはご理解いただきたいと思います。

Q 13 御社は財務状態が非常に健全で、今回もまだネットキャッシュとして1兆円規模ある。今後のキャッシュの使い道は、何度も質問を受けられているかと思うが、環境やハードの普及の局面、競合状態も変わってきているので、今期に関して、自社株買い等も含めて、どういう状況を見ながらキャッシュを使っていきたい、あるいはいまのキャッシュのバランスを維持したい、などそのあたりの考え方をお聞かせてほしい。
A 13

岩田:

 ゲームビジネスというのは、ご存じのとおり非常にリスクの高いビジネスで、たった一つのプロダクトで局面ががらっと変わったり、数年前には考えられないようなシナリオでビデオゲームマーケットが進行しているわけです。一昔前には「(手元に)キャッシュはなくてもいいんですよ、必要なときに借りればいいんだから」という意見もマーケットにはあったんですが、「それがいかに間違いであったかは、この半年の間に証明されたと言ってもいい」と私は思っています。必要とあらば、ものすごいリスクを投じなければいけないビジネスをしている以上、このビジネスはキャッシュリッチでないとできないと思っています。

 ですから、任天堂がキャッシュリッチである状況を一気にやめてしまうということは、私には考えにくいし、そうなれば任天堂が将来打てる手が狭まってしまって、結果的に任天堂の未来への競争力が下がり、結果、株主の皆さんにもご評価いただけない会社になってしまうというのが、私の基本的なスタンスです。

 一方で、キャッシュがあるということはいろんな選択肢を持つということで、お話にあった自社株買いも当然選択肢の一つになりますし、私たちが必要と感じれば当然行います。あるいは今日現在はありませんが、ある日突然、「この技術を手にしたら、この特許を手にしたら任天堂はこれからの闘いがものすごく有利になる」というものを見つけたら、任天堂はこれまで買収等を大型に仕掛けてきたことはほとんどない会社ですが、その選択肢を任天堂が持っていていいと思います。その一つの技術、一つの特許を手にするかしないかが、われわれの未来を大きく左右するとなれば、当然(その選択肢を)使います。われわれのビジネスの構造と経営の選択の自由度があることが、任天堂がチャレンジングな目標に向かって活動できる一つの材料であり、強みであるということをご理解いただいて、任天堂に投資をいただけたらありがたいなと私は考えています。

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