株主・投資家向け情報

2010 E3 Expo アナリスト Q&A セッション
質疑応答
Q 4  現在市場に出回っている携帯通信デバイス向けに、(任天堂の)過去のゲームや(携帯デバイス向けに)新しいゲームを販売する考えはありますか。
A 4

岩田:

 任天堂は、ハードウェアとソフトウェアを一体として提供することで、お客さまに我々が考える最高の体験を提供することで、価値を認めていただいている会社だと思っています。ですから、我々が作るものでないハードウェアに我々のソフト資産を提供するというのは、任天堂の価値を毀損することにはつながっても、任天堂の価値を高めることにはまったくつながらないだろうというのが私の考えです。

Q 5  ニンテンドー3DSでは、ソフトウェア開発コストはどのようになると考えていますか。自社とサードパーティ開発者の双方の観点からお答えください。
A 5

岩田:

 私は元々開発者でしたので、開発者としての視点と、それからニンテンドー3DSというプラットフォームを新しく提案する会社の人間として、2つの視点から語ろうと思います。

 まず、ソフトウェアを3D対応にするというのはどれほどコストがかかることかという問題についてです。これは元々ソフトウェアが、実際に3D空間をレンダリングするという形で作られているソフトであれば、カメラを左目と右目の位置に置いて2回絵を描けば済むので、実はそれほど開発コストは変わりません。一方で、ニンテンドー3DSになることによってビジュアルの表現力はニンテンドーDSの時よりも向上します。それをフルに活かそうとすれば、それだけグラフィックスの制作にはコストはかかると思います。ですから、そういう方向に舵を切ってビジュアルでアピールをしようというソフト作りをしたら、今までのDSよりはコストが上がって、Wiiのソフトに近いぐらいお金がかかるかもしれません。

 それから、プラットフォームを提供する会社の社長としての見解です。私は、「ニンテンドー3DSのソフトは、高い開発費をかけないと売れるものは作れない」とは少しも思いませんが、逆に、「どんなソフトでも安く作れます」と言うと、これは嘘になると思います。私自身は、一つ一つのタイトルによって、開発費に広いダイナミックレンジがあっていいと思っています。アイデアで勝負して、そんなにグラフィックスにお金をかけずに比較的少ない開発費で作ってもヒットするようなタイトルがきっと作れると思いますし、一方で、本気で、今までだったら据置型ゲームにかけてきたようなパワーでリッチなソフトウェアを作って、その結果、それがニンテンドー3DSのお客さまに満足してもらえるという可能性もあると思っています。今までよりもプロダクトの開発費の幅が広がり、それによって、支持されるお客さまの幅も広がっていくというのが、ニンテンドー3DSにとっての望ましい姿だと思っています。任天堂自身も(自社タイトルで)両方の例をぜひ示したいと思っています。

Q 6  昨日のプレゼンテーションは、任天堂のシリーズ作品をコアゲーマーにフォーカスした内容になっており、基本的にコアゲーマーを対象として売ろうとしていると私は理解しました。
 一方で、現在カジュアルゲーマーを対象にした、据置型の競合他社やPCゲームとの競争が激化していると私は感じます。そしてカジュアルゲーマーは、エンターテインメントに、より少ない時間とお金しか使いません。
 御社の携帯型ゲーム機のビジネスはすごくうまくいっているようですが、とくにWiiの市場を拡大するために、価格に敏感なカジュアルゲーマーに向けて、他社が据置型ゲーム、携帯電話ゲーム、PCゲームでやっているような、よりカスタマイズができ、各個人に合わせることができるオプション、ソーシャル・コミュニティ・オプションについて、今後どのようなプランがあるのか教えてください。また、『Wii Fit』に続く商品は何かありますか。
A 6

岩田:

 まず、コアゲーマーと、カジュアルゲーマーについては、ステレオタイプに語られがちだと思うのですが、「カジュアルゲーマーはエンターテインメントにお金を使わない」という思い込みは、私は、捨てていただいた方がいいと思っています。それから、カジュアルゲーマーは永遠にカジュアルゲーマーのままなのか、生まれついてのコアゲーマーはいるのか、というと、そんなことはないはずです。みんな最初は初心者からコアゲーマーになっていくものです。昨日のプレゼンテーションで、Reggieが「ブリッジゲーム(橋渡し的なゲーム)」という言葉で説明しましたが、「コアゲーマーとカジュアルゲーマーといわれる人たちが一緒に遊べるものを作って、お互いに理解が進んでいくことが、ゲームの継続的な発展のためにすごく重要だ」と、任天堂が考えていることは、ぜひご理解ください。

 もうひとつ。最近、「(他社の)カジュアルゲームや携帯電話のゲームと、我々のカジュアルユーザー向けのゲームが競合しているのではないか」というお話もよく聞くのですが、このことについても少しお話ししたいと思います。私たちの提案するプロダクトが競合しているのは、単にソーシャルゲームやiPhoneのゲームだけではありません。人々の時間とアテンションとエネルギーを奪い合うあらゆるものが我々と競合関係にありますから、特定のプロダクトや会社を競合相手として意識しないようにしています。これは、特定のプロダクトや会社だけを意識すると、我々の考えが狭まってしまうと考えているからです。任天堂には、「ソーシャルゲームのソーシャルな要素が受けているから任天堂もソーシャルな要素を足そう」とか、「iPhoneのゲームが受けているからそれにどう対抗しよう」とかという発想そのものがありません。そうではなくて、我々は、我々が提案するプロダクト、ハードウェアとソフトウェアの組み合わせが、それでしかできないユニークで魅力的な価値を持っているかどうかということにフォーカスしています。例えばソーシャルな要素ひとつをとっても、任天堂は十数年前から『ポケモン』でそれをやってきましたし、20年以上、Mii を研究してモノにしたという自信もあります。そういう意味ではソーシャルな要素そのものが任天堂にとってまったく新しいものではないのです。

 ただ、今年のE3が、任天堂の伝統的なファンの人たちに向けた発表だったと感じられたということは多分正しいと思います。任天堂はE3で何を発表し、それ以外の場所で何を発表すべきかということについて、去年、一昨年の経験から少し調整をしました。今年はE3で発表することで好意を持って迎えていただけるであろう情報を中心にお話ししましたので、それ以外の新しさが少し足りないというふうに、アナリストの皆さんは感じられているかもしれません。それはそれで、また別の機会にお話ししようと思います。

 少し長くなりましたが、もうひとつだけ追加させてください。「バイタリティセンサーはどうしたんだ」と、皆さん思っておられると思って、実際、今年のE3で発表できる内容を全部そろえて机の上に並べてみて、「バイタリティセンサーをこの中に入れて、ちゃんと注目していただけるんだろうか」、「E3で発信される多くの情報の中に埋もれてしまわないだろうか」、あるいは、「こんなに皆さんがエキサイトされている場所で、『さあ皆さん、ここに座って、バイタリティセンサーに指を入れて、リラックスして、落ち着いてください』とお願いするのは、果たして、適切なんだろうか」というようなことを自問自答しました。その結果、「別の機会にお話ししよう」ということに決めました。(この説明で)今年のE3ショー(の任天堂の発表・展示内容)がなぜこうなっているか、多分、ご理解いただけたと思います。


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