5-1 |
年末商戦がほぼ全てのカテゴリーでご計画を下回ってしまったという事態を受けての戦略の変化について教えていただきたい。2013年3月期以降の業績改善に向け、この年末商戦前後で主に変化・加速した戦略があれば教えてほしい。例えば、3DSタイトルラインアップやWii Uのスケジュール、大作ソフトのラインアップやオンライン新戦略で、どの辺りがこの3カ月間で特に変化したか。 |
---|---|
5-1 |
岩田: 結果として、年末商戦の結果は昨年の10月に私が申し上げていた目標・見通しに到達せず、日本でニンテンドー3DSのハードの爆発的な販売があったことを除きますと、想定を下回りました。Wiiも同じような状況であり、アメリカやヨーロッパのニンテンドー3DSの最終的な盛り上がりは私たちの想定に達しましたが、盛り上がるタイミングが遅かったため、年末商戦で販売できた総量は小さくなりました。従って、年間の販売予想数量を変更せざるを得なくなりました。戦略の変更というよりも、反省点としては、日本では3DSハードの値下げから年末の主力タイトルの発売までの間を、いろいろな形で非常にうまくつなぐことができて、市場の盛り上がりがある状態で二つのマリオタイトル、そして『モンスターハンター3(トライ)G』を出すことができましたが、これに対して、アメリカやヨーロッパでは、値下げ直後にハードは売れましたが、その後その盛り上がりを維持できずに一度冷えて、冷えてからまた年末の有力タイトルの発売で盛り上げなければいけなくなったため、その分(盛り上がりが)遅れたという一面がありました。それから、そもそも昨年の年末商戦は全体的に私たちの想定以上に立ち上がりそのものが、私たちの商品に限らず遅れていたという要因もありました。アメリカでは、「例年だったら買い物客が増える時期なのに、ショッピングモールがガラガラなんですよ」とか、ヨーロッパですと、ユーロの危機以降は一般の人までが「自国の政府は破産するかもしれない」と感じるようなニュースが連日報道されると、やはり買い物のムードはよくなくなり、「すごくお得なオファーが出るまでお客様はなかなか動かれない」というようなことがありました。よって、これは私たち自身の問題と環境上の問題が混ざっていると思います。ただ、私たちの反省点としては、「とにかく市場を冷やさない」の一点でありまして、結果的に先ほど一つ申し上げた、いかにソフトを切れ目なく出すかが重要になります。特に、新しいプラットフォームは、当然同時発売のソフトはなにがしか用意もされますし、そこを目指してつくられるソフトメーカーさんも多いのですが、その後第2陣のソフトが発売されるまで谷間ができやすいのです。ですから、「その谷間をいかにつくらないか」というのが、今後の非常に重要なポイントになっており、Wii Uの発売時期を最終的に決断する上でも、「発売する時に何が用意できるか」ということのほかに、「その後の谷間をどうつくらずに、熱を冷まさない状態で販売していくか」が大切になります。以前、「プラットフォームは勢いのビジネスなんです」ということを申し上げたことがあると思いますが、「そのことについて、より強く意識し、また、その後ろ盾をバックアッププランも含めて考えていく」ということが重要であるという、極めて当然のことではありますが、その重要性がより深くかみしめられたと思います。 それと、先ほど申し上げた追加コンテンツ回りの話ですが、非常にたくさん売れたソフトの追加コンテンツというのは、うまく活かすことができれば、市場が冷えるのを防ぐための一つの方法になり得ると思っています。それは、なにがしかの大ヒットソフトが、やはり日が経つとだんだん売れ行きが鈍っていくわけですが、その時に追加コンテンツ回りで何か大きなニュースが発信できたら、またたくさんの方がそこで遊ばれるので社会の中でそれについて語る方が増えて、勢いを取り返すチャンスになるということです。ですから、追加コンテンツは収益機会であると同時に、商品の寿命を延ばしたり、活性を維持したりするための重要な位置づけとしてとらえるべきではないかと思っています。 |
5-2 |
先ほど『いつの間に交換日記』の話もあったが、このような3DSにおけるソーシャルグラフを広げるような施策はとても魅力的で、日本においては消費者に支持されているように見受けられる。ただ、これがどれくらいの訴求力を持っているのか、私たちから見ると少し分からないところがあるので、ユーザーの反応が分かる具体的な御社の、例えば独自調査があれば、接続率60%以外にそのようなデータがあれば教えてほしい。ユーザープロファイル、どのような方がこれを、どのような方に訴求をされているかについて、日米あるいは欧、地域別で教えてほしい。定性的な感触でも結構です。 |
---|---|
5-2 |
岩田: まず今日、定量的なデータを用意してきていませんので、すぐに定量的にはお話しできませんが、一つだけ定量的に申し上げられることは、これは先日公開された「社長が訊く」のインタビューの中に出てくるのですが、「(『いつの間に交換日記』を)サービスインして4週間で1,000万通を超える日記のやりとりがありました」とありますので、それなりに活発だと思います。ただ、今はまだ1,000万通ですけど、もし使い続けていただくことがうまくできれば、これから加速度的に増えていく可能性が高いと思っています。また、『いつの間に交換日記』をより多くの方に使っていただくためのきっかけになり得るようなことを、これからいくつか計画していますので、それは実際にそのことが起こった時に「あの時の話はこういう意味か」とお分かりいただけるかと思います。活性は今後ますます高められると思いますし、これは定性的な話ですけれども、『いつの間に交換日記』は女性にとても人気があり、愛用いただいていると思います。社員の身の回りや私自身の身の回りを見ても、「年齢を問わず、さまざまな世代の女性のみなさんが面白がって使ってくださっている」という印象がありますので、「3DSが自分たちにとって非常に身近なものになった」と女性のみなさんに感じていただける非常に大きな武器になっていると思います。定量的な情報は、次回説明会等があるときにお話しできるように用意してまいります。 |
6 |
(これまでの話を一通り伺ってみると)特に来期についてはDSとWiiのプラットフォームバリューの維持、それから海外などでの3DSの拡販、今日説明のあったネットワークサービス、そしてWii Uの立ち上げ、これ以外にも3DSのコストダウンについてはめどが立ったという点もあったが、円高への対応、アジア市場の開拓とか、悪く言うと課題山積、よく言えば、まだできることがたくさんある、ということだと思う。これらを同時並行で進めるかじ取りの難しさをいかに克服するかという点について質問させてほしい。以前、「多くの問題を一気に解決するのが優れたアイデアだ」と宮本専務が言っていたが、その優れたアイデアを生み出す仕組みをどのように変えていくのか、もしくは強化していくのか。平常時のアプローチであれば、例えば、若手への権限の委譲だとか、例えば外部リソースの活用とか、サードパーティーとのコラボレーション、ないしセカンドパーティーの拡充などがあるが、平常時ではないという前提に立った場合にどういうアプローチがあるのかという点について聞かせてほしい。 |
---|---|
6 |
岩田: 「課題山積なのか」、「改善のネタがいっぱいあるので、これは機会がいっぱいあるのか」というのは見方次第だと思うのですが、ご懸念の一つに、「パワーが分散してしまって集中を欠き、フォーカスがない状態で運営されないか」あるいは「みんなが中途半端になってしまわないか」ということはあると思います。私たちは、経営をする上で一番大事なことはフォーカスすることで、今何に集中するべきなのかが重要だと思っています。その点で私たちはやらなければならないことを分散しているつもりはなくて、一つ一つ方向を決めたら、あとは私たちが毎日やることに対していかに効率よく前に進んでいけるかということについて工夫しているつもりですので、機会、あるいは課題が多過ぎて、その結果、困っているという認識は持っておりません。ただ、やはり複数のものを含めて考えたときに、一度に解決できるということはありますので、一度に解決できることをなるべく見つけようと思っています。見つけてやろうと思えば思うほど当然、それを常に意識していると見えてくることがあるわけで、当社の経営陣は、そういうアイデアに対して敏感であると私は信じておりますので、誰かがそういうことに気付き、発言すると、みなさんすぐ響きますので、その点でも特に懸念はありません。 先ほどおっしゃっていたことの中で、未来を決めていくものにニンテンドー3DSがあります。3年度目というのは、ある意味とても重要な勝負の年です。ここで本当にどこまで伸ばせるかで、恐らくニンテンドー3DSのプラットフォームが総量でどれだけハード、ソフトを売るプラットフォームになるのかを決める年だと思います。Wii Uのように、これから据置型の、据置型というにはプレースタイルが必ずしもテレビの前に縛られないのがWii Uの特徴ですから、私たちは将来、据置型という言葉をきっと使わなくなるのではないかと思っているのですが、ただ、新しいゲーム機を出すときに、出足からしばらくの間、勢いを保てないと、当然、今回のニンテンドー3DSのような非常に難しい状況を迎えかねませんので、絶対にそうならないようにすることが、当然会社にとっての二大フォーカスで、あとのことは、いわば今まで既に仕込んであること、今まで準備してあることをきっちり実行していくということになります。 それから、以前、「会社はリソース不足になっていないか、その問題についてどうするのか」ということについてご指摘をいただいたことがあったと記憶していまして、当然、任天堂は人数の多い会社ではありませんので、会社の中はいわゆるリソースリッチではありません。ただ一方で、会社の中がリソースリッチではないということは、逆に言えば社外にいいパートナーの方を見つけると、その方と組む自由度が非常に高いという強みでもあると思っていますので、実はいくつかの分野で既に今までであれば社外には出さなかったであろう仕事を社外の方と一緒に始めていたりします。実際にそのことを発表するタイミングというのは、その製品の中身なども含めてお話ししないと、単にこういうことをどこそこに頼んでいますとだけ言っても、意味をご理解いただけないと思いますので、いずれセットでお話しさせていただくこととし、きっと今年中にはお話しできるネタが複数ありますから、そういうことでは「任天堂はリソース不足に対してこんな対応をしているんだな」ということについて、具体的に納得いただけるような例をお話しできるのではないかと思います。 |