1 | デジタルビジネスが拡大しているという話があったが、デジタルビジネスの価格設定についていろいろなケースが見られるようになったので、基本的な考え方について教えてほしい。具体的には、『Wii Sports Club』でなぜ2種類の価格を設けたのかというところと、パッケージソフトとして発売しない理由を教えてほしい。『ポケモンバンク』では年間500円の利用料がかかる点や、『だるめしスポーツ店』で値引き交渉がある点などについてはどのように考えているか。また、「Wii Fit U 1か月無料先行体験キャンペーン」や「ニンテンドー3DSソフト2本買うと“もれなく”もう1本プレゼントキャンペーン」を実施中だが、デジタルビジネスによってパッケージを含めたソフト価格全体のデフレを引き起こすリスクについてどう考えているか。 |
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取締役社長 岩田 聡: まず、デジタルビジネスの特徴についてですが、パッケージソフトビジネスでは、「物質的なメディア原価がかかるうえに、モノを物理的に運んでお客様に渡していただくために、1個あたりある金額以上の利益が無ければ、配送もできなければ、小売店さんで扱っていただくこともできない」という特性があり、結果として、「価格設定に柔軟性を持たせにくい」ということがありますが、デジタルビジネスにはそれがないということがあります。これが一つの側面です。もう一つは、例えば『フリー』(クリス・アンダーソン著)という本で書かれているように、「デジタルのものは価格が下がりやすい。そしてどんどん無料に近づいていきやすい。」と主張されている方もいて、「気をつけないとソフト価格のデフレがどんどん進んでしまうのではないか」という側面です。 一方で、今、私たちが提案している娯楽だけではなく、これは単純にスマートデバイス上のゲームという狭い意味だけではないですが、世の中にあるさまざまな娯楽について、デジタル化が進んでいます。その中で、「無料」、あるいは「期間でいくらという期間課金型のサービスにして、その中で全部遊び放題にする」といったいろいろな提案があり、その状況の中でパッケージソフトはお客様の目から見て以前よりも割高に見えやすくなっていると思います。昨今のゲーム全体の流れとしては、ゲームはパッケージソフトとして大ヒットするものは以前よりも大ヒットし、中ヒットクラスのものがだんだん減ってきて、過去にはヒットしていたものが以前のようには売れなくなってきているという、二極化現象が起こりやすくなっていると思います。 こういう中で、当社の価格設定に関する基本的な考え方として、まず、パッケージソフトをデジタルで販売する場合の価格設定ですが、私たちが昨年パッケージソフトのダウンロード版を本格的に展開しはじめるまでは「デジタルにしたのだから、値段を下げるのが普通だ」というのが、業界内の主流の考え方だったと思うのですが、私たちは、パッケージ版もダウンロード版も、同じものを提供するのであれば、基本的に同じ値段でご提案しています。私たちはソフトの価値をなるべく高く認めていただきたいと考えており、また、ソフトの価値を認めていただくためにコンテンツ制作に最大限の努力をしています。そして、例えば『スーパーマリオ』や『ポケモン』のような、遊ばれる前から多くのお客様に価値を認めていただきやすいソフトについては、それを受け入れていただけていると思っています。現実に、昨年であれば『とびだせ どうぶつの森』、今年であれば『ルイージマンション2』や、カプコンさんの『モンスターハンター4』、あるいは『ポケットモンスター X・Y』は、ダウンロード版もたくさんの数が売れましたし、パッケージソフトと同価格のダウンロード版のご提案を受け入れてくださっている方がたくさんいらっしゃいます。また、一度受け入れてくださった方は、ダウンロード版は、ゲームカードをなくす心配がないし、いつも持ち歩けるようになって便利なので、「次もダウンロード版を買いたい」と言っていただける方が多いということも分かっています。その一方で、新規のIP(知的財産)や、著名なキャラクターが使われていたとしても、ゲーム性として全く新しく、最初から価値を認めていただくのが難しいものについては、今までと同じパッケージ型の売り方をすると、どうしても販売数が縮小し、仮に面白いものができてもお客様に認知されないまま消えてしまうということが起こりやすくなります。私たちがそういうものをダウンロード専用ソフトとしてご提案するときには、価格や販売方法にいろいろな柔軟性を持たせていきたいと思っており、『だるめしスポーツ店』も、『Wii Sports Club』も、『ポケモンバンク』も、それぞれ新しい(価格付けと販売方法の)トライアルで、これまでになかった形でのご提案をすることによって、より幅広いお客様に受け入れていただきたいと考えています。また、『Wii Sports Club』に関しては、前作を大変気に入っていただいて、「頻繁に遊びたい」と考えておられる方もいらっしゃれば、「みんなが集まったとき、たまに遊べればいい」と考えておられる方もいらっしゃると思います。その、「たまに遊べればいい方」と、「頻繁に遊ばれる方」に、二つの選択肢をご提案すれば、「ソフト販売のポテンシャルを大きくできるのではないか」と考えて、このような提案をしています。『Wii Sports Club』が将来パッケージソフトになる可能性は否定しませんが、パッケージソフトとして来年以降に発売するよりも、この年末に、まずテニスとボウリングを楽しんでいただくことのほうが、Wii Uにとって重要だと考えましたので、このような形でのご提案になりました。 また、「ニンテンドー3DSソフト2本買うと“もれなく”もう1本プレゼントキャンペーン」というのは、国内で実施しているキャンペーンです。「クラブニンテンドー」にニンテンドー3DSのソフトを2本ご登録いただくと、決められた14タイトルの中からお好きなソフト1本を無料でダウンロードいただける、という内容です。このキャンペーンには二つの側面があります。一つは、ソフトというのは多くのお客様が欲しいと思ったら必ず買っていただけるかというと、「欲しいと思った。でも買わないまま終わってしまった。」ということが実は大変多いものです。皆様も、本やCD、DVD、あるいはゲームでも、「欲しいと思ったけれど、なんとなく買わないままに終わってしまったな」ということがあるのではないかと思います。せっかく3DSがたくさん普及して、良いソフトが密度濃く出ていますので、「できることなら1本ではなくて2本買っていただきたい」と思い、お客様に複数本購入していただくきっかけとなるようなキャンペーンを考えました。 それからもう一つは、ソフトのダウンロード版を経験されている方はお客様全体の中では一部です。ダウンロード版を体験されて「ああ、パッケージソフトをダウンロードしてハード本体に入るというのはこういうことなのか」ということを多くの方に実感していただくことは、未来(のデジタルビジネス拡大)につながるのではないのかと考えました。ご指摘があったように、「この施策はソフトの価値を壊しかねないのではないか」という議論は私たちの中でもありましたが、この年末の、特に今年は3DSソフトが密度濃く揃いましたので、そのポテンシャルをなるべく多くビジネスにつなげ、多くの方にデジタルの体験をしていただくことが未来につながるのではないかと考えてこうしました。ただ、このような施策がどんどんエスカレートすると、ソフトの価値の毀損につながりかねないと思いますので、そうならないように注意したいと思います。 |
2 | 外部環境に対する社長の認識と、事業戦略に対する考え方を確認したい。スマートフォンやタブレットが急激に普及し、無料アプリなどが氾濫している状況で、「時間とお金の取り合いが激しくなっている」とよく言われていると思う。一方で、「ゲーム専用機の市場がどんどん縮小していくのではないか」という危機感も私たちは持っている。こういった外部環境の変化のスピードに対して社長はどう認識しているか。一方で、3Dを否定するようなニンテンドー2DSの発表もあり、第三者の立場から見ると任天堂が少し迷走しているようにも見えるが、こういったことも、もともと社長が想定していた戦略のオプションの一つだったのか。 |
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岩田: スマートフォンとタブレットを総称してスマートデバイスと呼びますが、その登場と普及というのは、この2年間くらい、社会の非常に大きなトピックであり、世の中のあらゆるところで話題にされています。そして、例えば電車に乗ると、以前だったら携帯ゲーム機で遊んでいたと思われる方が、スマートフォンで遊んでおられ、「携帯ゲーム機市場は縮小していくのではないか」という見方をされる方が出てきています。そういう論調のメディアの記事も大変多いので、「ゲーム専用機の市場はどんどん縮小し、スマートデバイスに飲み込まれていくのだ」とおっしゃる方がおられます。一方で、昨日、大阪証券取引所で同じことを記者のみなさんにお話ししたのですが、「昨年はスマートデバイスが日本の中で究極の話題であり、それは今年も変わらない状況ですが、ニンテンドー3DSは国内で昨年550万台セルスルーし、今年も500万台以上セルスルーする自信を持っています」ということを、先ほどのプレゼンテーションでも、あえて少し強調して申し上げました。過去にもいろいろなゲーム専用機のプラットフォームがあり、「大ヒットした」と言われたプラットフォームはそれぞれの世代でありましたが、それらが一番売れた年のピーク台数は大体400万台前後でした。年間500万台を超えたプラットフォームは過去にニンテンドーDSしかありませんでした。それが、ニンテンドー3DSもそうなり、それが2年連続となり得る状況です。もし、「スマートデバイスが普及するとゲーム専用機はなくなっていく」という未来であるとするなら、「この状況は、どのように説明できるのか」と思っています。ただ、ニンテンドー3DSは日本でこれだけの勢いを獲得できましたが、まだアメリカやヨーロッパの勢いは本物ではありません。また、欧米のゲームビジネスが日本以上にゲーム専用機市場が縮小して見えることの背景に、ちょうど欧米市場でマーケットシェアの大きいコンソール型ゲーム機の世代交代の端境期にあることがあります。任天堂は新しいハードのWii Uを出しましたが、まだ軌道に乗っておらず、他社さんは今年ハードを出される予定ですので、「どうしても新しくハードを買う時期ではない」とみなさん考えておられ、そういう要素もあってゲーム専用機市場が縮小しているという面もありますので、このトレンドが続いていくとは考えていません。 一方で、あらゆるゲームをゲーム専用機だけで遊ぶ時代は終わったと思います。例えば、非常に短い時間に、時間をつぶすために遊ばれるものの中には、「スマートデバイスのほうがゲーム専用機より手軽だ」と考える方が増えるのは自然なことだと思います。かつてゲーム専用機で受け入れられていたものの中で、ある部分は「スマートデバイスのほうが未来がある」という分野があると思います。一方で、ゲーム専用機では「ゲーム専用のハードとソフトを両方一体に考えて開発するので、独自の特長を持った提案ができる」という要素もあります。これらのことを考えますと、私自身はゲームという娯楽の中で、住み分けが起きていくだろうとは思います。ただ、これはスマートデバイスが「ゲームに関して単純にゲーム専用機と競合する」というだけの意味ではなくて、むしろ、スマートデバイスは競合相手として見るよりは、これだけ普及しているので、どうやって活用するのかを考えるべきだと思っています。例えば、既に「Miiverse」というWii Uのコミュニティーサービスはスマートデバイスでご覧いただけるようになりましたが、こういう取り組みをきっかけに、「スマートデバイスをさらに(ゲーム専用機のビジネス拡大のために)活用できないだろうか」ということを議論しています。既に、例えば『とびだせ どうぶつの森』がヒットしたとき、あるいは『モンスターハンター4』が話題になり、『ポケットモンスター X・Y』が話題になり、その話題を、お客様、特に若い世代の方たちの間で話題を広げている主役はスマートデバイスだと思います。例えば、Twitterのタイムライン上で、モンハンやポケモンの話題を見た人がモンハンやポケモンを知るきっかけになり、また「Nintendo Direct」も相当数、スマートデバイスから視聴いただいていることも確認していますので、むしろ、スマートデバイスを競合相手として単純に考えるよりは、どうやって私たちのビジネスに活用できるかを考えるべきだと思っています。 また、2DSの発売に対して、「3Dという最大の特長を捨て、任天堂は迷走しているのではないか」というご意見についてですが、2DSというハードを今の時期に発売できるということは、どれくらい前から開発をしていたかというと、相当前なわけです。ハードというのは実際に開発を始めてから外に出せるまでに1年半近い時間が大体の場合かかりますので、その意味では、(お考えになっているより)もっと前に「こういうエントリーモデルがポケモンの発売時期にないと、3DSの最大限の普及は難しいだろう」と考えていたということです。ちなみに、当時は今よりもかなり円高でしたので、「今の為替のままでは、3DSハードの値段についての(お客様の)選択肢が十分でないだろう」ということで、当時から準備をしていたものです。結果として幾分円高が和らぎましたので、その意味では、2DSは採算性が悪くない状態で発売できましたし、それは私たちの事業環境にとってはとてもありがたいことだと思っています。海外市場で3DSプラットフォームをもっと広げるために、こういう選択肢もお客様にご提供しています。これはあくまでお客様の選択肢としてご提案しているもので、「(3DSはやめて)2DSだけにします」ということではなくて、従来の3DSや3DS XLも販売を続けますので、「3Dをあきらめた」とか、「3Dの提案をもうしない」ということではありません。ちなみに、今年の年末に発売する『ゼルダの伝説 神々のトライフォース2』は是非3Dで遊んでいただきたいソフトです。見下ろし型のゼルダで、「(ステージの)上下方向をネタにした3Dを活用すると遊びはこう変わるのか」ということを実感していただけるソフトに仕上がっていると思います。 |
3 | Wii Uのマーケティングについて教えてほしい。Wii Uのソフトが年末から年明けにかけて充実してくると思うが、特に欧米に関して、競合のコンソールゲーム機の世代交代も進む中、Wii Uをどのようにマーケティングしていくつもりなのかを教えてほしい。また、そのマーケティングのやり方によって、今期計画の広告宣伝費に多少の上振れ下振れがあるのかどうかという点も教えてほしい。 |
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岩田: 今年の私たちの年末のご提案は、「ご家族のみなさんで遊んでいただくのに適したソフト」が充実していると思います。来年になりますと、任天堂がWii U向けに用意している「ゲーム上級者の方々に強くアピールするようなソフト」が複数あるのですが、今年の年末はどちらかというとご家族のみなさんで集まって、例えば、「お父さんと子どもさんが」、あるいは「おじいちゃんおばあちゃんと一緒に」、というようなソフトの提案が中心になっていると思います。(海外では、今年の年末に)他社さんが新しくコンソールゲーム機を発売されますが、ゲーム上級者の方にターゲットを絞っておられると思います。確かに「新しくゲーム機が発売されるので競争が激化する」、あるいは、メディアの記事では「ゲーム機戦争」と言われるのですが、果たして「(任天堂と他社さんとは)同じお客様がターゲットだろうか」と思います。今年の年末商戦に向けて発売する『スーパーマリオ 3Dワールド』『Wii Party U』『マリオ&ソニック AT ソチオリンピック™』『Wii Sports Club』『Wii Fit U』のいずれも、どちらかというとファミリー向けで、「Wiiをお買い上げいただいたお客様の中でWii Uのご提案にも興味を持っていただけるようなお客様」が今年の年末商戦における私たちのターゲットで、他社さんの目指すターゲットとは少し違うと思います。ですから、ビデオゲーム業界にお客様の注目が集まるという意味では、ビデオゲーム業界全体が元気になるためにも、他社さんのゲーム機の発売は、私たちにとっても大変良い面があると思います。単に、「競争激化」=(イコール)「任天堂は国内はともかく海外は苦しい」という見方をする方がいらっしゃるかもしれませんが、私は必ずしもそう見ていません。今年、任天堂がアピールしているものは「ゲーム業界の中では逆に個性が際立って、独自の価値を示せているのではないか」と思っています。 マーケティング費用について、現時点では、期初の予想額を特に大きく変更する必要がある状況ではありません。ただ、今回の上期決算をご覧になって「なんかマーケティング費が増えているな」と感じておられる方が多いのではないかと思いますが、実はこれには一つの背景があります。私たちの決算は全部円建てに換算します。当期は前期に比べて、円安になりましたので、外貨建てのマーケティング費用は円に換算すると額が増えてしまいます。ですから、円安というのは、「(円換算した)売上をプラスにする」という面と、「海外で使っているマーケティング費などの経費も(円換算後の数字を)増やしてしまう」という二つの側面があるということをご理解いただきたいと思います。現状のような経営環境ですから、「当然、経費を効率的に使うべきだ」と思っていますので、その意味で特にマーケティング費用について非常に大きなぶれを想定しているということは現時点ではありません。 |