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Wii Uに関して、外部のパートナーとの間でどのような議論がなされたのかという点について聞きたい。アメリカでの発売予定タイトルを見ると、サードパーティーのラインアップがかなり充実している。サードパーティーは、単に複数のゲーム専用機向けに同じソフトを供給するという戦略の中でとりあえずWii Uに出しているのか、もしくはWii Uの新しい遊びの構造を重視しているのか。さらに言えば、御社の考えているゲーム専用機の存在意義にかなり共感しているのか。また、北米においてNetflixやHulu Plusと『Nintendo TVii』というサービスを展開することを発表したが、ゲーム業界以外のパートナーはWii Uをどのように見ているのか。 |
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取締役社長 岩田 聡: まず、最初にお話のありましたゲーム業界内のソフトメーカーさんの見かたについて回答します。サードパーティーのソフトメーカーさんの中には、非常にWii Uの可能性にほれ込んで、Wii U独自のソフトをWii U向けのみにつくろうとしてくださるようなところがあり、例えばUbisoftさんの『ZombiU(ゾンビU)』がその代表例になります。他方、(ひとつのソフトを複数のゲーム専用機向けに発売する)マルチ展開ではあっても、「ただマルチにしましたよ」だけではなくて、Wii U GamePadがあるから、あるいは「任天堂のWii Uの(ユニークな)構造があるからできる、(Wii Uで)こんなことをしますよ」という方針でつくられた積極的なタイトルから、「いちおうマルチにしました」というものまで濃淡があるのが現実です。ただ、私たちのプラットフォームが発売されるときに、これだけ充実したラインアップが、とくに海外のソフトメーカーさんからのソフトがそろったということについては大変手応えを感じています。アメリカのグラフでご覧いただいたように、「ゲーム専用機のビジネスが全体としてこれからどうなるのか」と言われる状況の中で、任天堂の提案した方向に共感をいただいて、積極的にサポートしていただいているということがこのラインアップに表れているのではないかと思っています。この中から、具体的に年末そして年始にかけて「収益が上がり、投資をしてよかった」という事例が出てまいりますと、(それに続く)第二、第三、第四の例が出てきますので、私たちとしては「ぜひ早期の成功例をつくりたい」と思っています。早期に成功例ができますと、それに続く方々が出てこられますし、「たくさんソフトは出たものの売れなかった」となりますと、当然ソフトメーカーさんは(そのプラットフォームの)将来の可能性を悲観的にご覧になってしまいますので、大変重要だと思っています。ですので、ソフトがそろったことで満足するのではなくて、その中からしっかりと成功例を出すことが私たちにとって非常に重要だと思います。 それから、二つ目のご質問に関して、外部のパートナーさんの中でゲームのソフトメーカーさんではない方々の見かたについてです。例えば先ほどおっしゃっていたNetflixさんやHulu Plusさんはビデオオンデマンドと言われる動画配信サービスをされています。「いつもテレビの隣にWii Uがあり、インターネットにもつながっている」という状況をつくることはWiiのときからの目標でもありましたが、Wii Uはテレビとインターネットと人の関係を変える存在になる可能性がある構造となっています。ただ、Wiiのときには「独自の画面を持たない」とか、「Wiiリモコンは直感的に体を動かす遊びには向いていたけれども、文字を入力することにはあまり向いていなかった」という状況の中で、「Wii U GamePadを使ったら新しいサービスがつくれるのではないか」ということで『Nintendo TVii』というサービスをアメリカで発表いたしました。ケーブルテレビの普及により、アメリカには非常に多くのテレビ放送のチャンネルがあり、ビデオオンデマンドサービスも複数あって、NetflixさんやHulu Plusさんが提供されるサービスのほかにもいろいろなサービスがあります。「(その中から視聴したい番組を一度に探す)ユニバーサルサーチを実現できると非常にアメリカのテレビ文化に合うのではないか」ということで『Nintendo TVii』を用意しました。Wii Uがリビングルームに置かれて、ゲームがプレイされていないときにもお客様のお役に立ち、お客様の笑顔をつくることに使えるのであれば、(Wii Uをお客様に受け入れていただける)可能性があるのではないかと思います。そもそもWiiでもアメリカでのNetflixさんのサービスや、イギリスBBCさんの iPlayerなどは、非常にたくさんの方に使っていただいて、今もアクティブに使われています。したがって、本来的にWiiの顧客層とビデオオンデマンドサービスは相性がよく、多くのお客様がサービスをご利用されたことをビデオオンデマンド業界のみなさんはご存じです。このことから、ビデオオンデマンド業界全体でWii Uの可能性というものを高くご評価いただいておりまして、その意味ではすでに発表されているもの以外にもいろいろなお話をいただけている状況です。 なお、テレビの視聴文化というのは国ごとに非常に大きな違いがあります。例えば日本には地上波のチャンネル数は数えられるくらいの数で、それでお客様のテレビ視聴の大部分が占められているわけですが、ケーブルテレビが非常に普及しているアメリカでは何百チャンネルの中から視聴者が(見たい番組を)選んでおられるという非常に細分化されたものです。テレビの視聴文化が違うことにより、「テレビをより見やすくする、テレビをより楽しむサービス」というものは国や地域で同じにならないわけです。ですので、日本においても、「いつもテレビの隣にあってインターネットにつながるWii Uをテレビをより楽しく見るために使えないか」ということは検討しているのですが、恐らく同じサービスではそのまま日本のお客様には理解していただくのは難しく、同じことがヨーロッパについても言えます。日本やヨーロッパでも『Nintendo TVii』というものを、テレビの視聴文化に合わせた別のサービスの形でご提案できるような検討も進めておりまして、これについてはそう遠くない将来、具体的にご説明できるのではないかと思います。その意味では、外部のパートナーさんという点において、ゲームのソフトメーカーさん以外にも、ゲームではない、ビデオオンデマンドやショッピング、他のインターネットを使ったサービスを提供する方々に、リビングで自由なスタイルで、テレビが占有されていても使えるサービスを提供できるWii Uの魅力を感じていただいているようです。また、Wiiのときにはそういうサービスを展開する際、「私たちにとっては貴重な、ゲームを開発できるチームのパワーを使わないと前に進めなかった」ということを非常に反省しておりまして、今回は「いかに任天堂のゲーム開発チームのパワーを使わずに、それらのサービスを充実していくか」ということに取り組んでおります。その意味ではWii U自体がかなりパワフルになり、ウェブで標準的に使われている技術を使って、十分な反応スピードと使い勝手が実現できるようになったと思いますので、そういう形のサービス展開をこれからしていくことになると思います。 |
2 | 先ほど、Wii Uのハードの詳細なご説明をいただいたが、仮に今後、為替と販売単価が横ばいになるという前提で、(Wii Uハードは)いつ頃逆ざや解消を見込んでいるのか教えてほしい。 |
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岩田: まず、Wii Uハードについて、今日の時点で「いつ逆ざやが解消します」ということを具体的に申し上げる材料はありません。一方で、今期だけで見ますと、まだ普及台数も少なく、ソフトの発売数も限られますので、ハードとソフトを合わせた収益という点でも決して楽観はできませんし、最初はプロモーション費用もかかりますので、任天堂の収益に大きく貢献することは期待できないと思っております。一方で来期になりますと、ハードの普及台数も増え、ソフトも充実してきて、また原価も下がってきますので、「単純にハードの逆ざやがいつ解消するか」ということよりも、携帯ゲーム機よりもタイレシオ(※)が比較的高めやすいホームコンソールゲーム機で、いかにソフトを速いペースで展開し、たくさんのソフトをお買い求めいただいて「トータルのビジネスとして健全な収益構造をつくること」をより早く実現するべきであり、来期にはそれが十分可能だと私は思っております。その意味で、「何月の時点でハードの逆ざやが解消するか」ということは申し上げられませんが、来期には(ハードとソフトを合わせた)Wii Uというプラットフォームのビジネスは十分に収益貢献するところまで持っていける自信を持っております。 (※) タイレシオ: ハード1台に対するソフト販売本数。
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「Nintendo Direct」1周年という話が先ほどあったが、今の時点で「Nintendo Direct」を岩田社長はどう評価されているか。 もうひとつは、「Nintendo Direct」の内容がゲームファン向けになっているため、ライトユーザー向けに『鬼トレ』などを採りあげても販売本数増加にうまく結び付いていないのではないかという印象を持っている。その点はどう考えているのか教えてほしい。 最後に、Wii Uハードの逆ざやの話が出ていたが、Wii Uハードを製造した時点で損失を計上して、販売時点では販売管理費だけの損失になると考えておけばいいのか、この点について森専務からコメントをいただきたい。 |
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岩田: まず、「Nintendo Direct」を始めた非常に大きなきっかけは、「私たちが何かゲームの情報を発表したとしても、その情報を私たちがネットに上げるよりも早く、何らかの形でゆがんだ形で拡散してしまう」ということが当時非常に大きな問題になっていたことでした。それは、「私たちのメッセージが正しくお客様にお伝えできない」ということであり、「ゲーム内容などのお客様が求めていらっしゃる情報は、お客様に直接お伝えして受け取っていただくほうがよいのではないか」ということをちょうど1年前の決算説明会で申し上げたと記憶しています。一方で、ではアナリストの皆様とこうして向き合ってお話しすることや、昨日の大阪証券取引所での決算発表の場でマスコミの記者の方々とお話しすることに意義を感じていないかというと、そのようなことはもちろんございません。これはお話しする内容によって状況は違うと思っています。すなわち、「前の作品と今回の作品は何が違うのか」というようなゲームに関する情報は、当社の製品のお客様がものすごく知りたいと思っておられて、それで買うかどうかを決めていただける大事な情報です。それらの中には、必ずしも任天堂について報じられる記者の方や、投資を検討される方、アナリストの方にとって重要な情報ではないものもあると思います。今までは方法がなかったのですべてメディア経由で情報発信してきたわけですが、今はインターネットが普及し、動画を見るということが当たり前になって、新たな情報発信の手段ができました。去年は「これが一体何人の方に見ていただけるのだろうか、分からないけどやってみよう」ということで(Nintendo Directを)始めたわけですが、最近は「1週間で60万人とか100万人規模の方にご覧いただいているらしい」ということが分かってきました。そうなりますと、これだけの方に届くのであれば、私たちが一定のエネルギーを割いて続けていく価値が十二分にありますし、現実に「Nintendo Direct」をすると「ニンテンドーeショップ」に、体験版のダウンロードや3D映像のダウンロードの目的で来られるお客様が増えたり、ゲーム機の稼働率が上がったりすることも分かってきました。また、その後ハード販売のセルスルーにもよい影響が出ていることも分かってきましたので、一定のサイクルで続ける価値があると思っています。私は、「50代の特別なこともない男である私が、延々とゲームについてしゃべる映像にお客様がいつ飽きるか分からない」とは思っているのですが、今のところ楽しんでいただいて注目いただけているようですので、「その間はやっていこう」と思って続けています。 一方で、ライトユーザーの方には届いていないのではないかという点についてですが、確かに任天堂のファンの方、あるいはゲームファンの方は「Nintendo Direct」のことをよくご存じで、「Nintendo Direct」がいつ放映されるのかという情報をキャッチされると、その日のその時間に生で見ていただけるということが起こります。ですので、その意味ではそこに集まっていただける方がそれを見て盛り上がっていただいていることは大変ありがたいことだと思っている一方で、「『Nintendo Direct』はあまり能動的に情報を集めない方にとって何の効果も発揮していないのではないか」というと、必ずしもそうではありません。これは数字ではっきり表れています。今、YouTubeに「Nintendo Directチャンネル」というのがあって、放映後に映像を掲載しています。私たちは生放送の終了後にYouTubeにアップロードしておけばもっとたくさんの方に見ていただけるのではないかと思って(YouTubeに)置いているのですが、実は「Nintendo Direct」のライブ視聴が盛り上がったからといって、必ずしもYouTubeでたくさん見ていただけるとは限りません。一方で例外がございまして、つい最近放映しました「とびだせ どうぶつの森Direct」が、YouTubeだけで110万回を超える視聴回数になっています。3分のミュージックビデオが100万回視聴されることはありますが、「47分の、ゲームについて延々と語っている映像を100万人以上の方がご覧になる」というのはちょっとした驚きで、しかも65パーセントの方はスマートデバイスからの視聴をされているそうです。こうなってきますと、これは「Nintendo Direct」の放映のときに情報をキャッチして来ていただけるファンの方だけではなくて、「どうぶつの森には興味があるが、『Nintendo Direct』をやっていることは知らなかった」という方がうわさを聞きつけて見に来られ大変好評だったということが理由のようで、また、しばらくYouTubeの総合ランキングに載っていました。そうしますと、とくに何か目当ての映像があるわけではなくYouTubeを見に来られた方が「何か面白そうな映像がある」と見ていただけるといったことが起こり、「『Nintendo Direct』=カジュアルユーザー、ライトユーザーに届かない」というのは、実はステレオタイプな考えかたで、一定の条件がそろうとそのようなことはなく広がっていくということも分かってきました。 一方で、「『Nintendo Direct』さえやっていればほかのマーケティング手段はいらない」ということはあり得ません。「『Nintendo Direct』はひとつの新しい軸になりました、でも、ほかにもいろいろなことをやっていきます。」というのが現在の私たちの答えです。ただ、これは去年から今年にかけて、私たちが発見し、確認し、少し前進できた新しいマーケティングの方法ということであって、将来にわたって通用するかどうかは分かりません。例えば、(他のマーケティング手法で)「かつてに比べたら、こういう宣伝の方法は昔より効いてないよね」ということがあるように、いずれ同じことを続けていくと飽きられてしまいますので、これは娯楽と一緒だと思っています。ある意味、「Nintendo Direct」は娯楽としての側面も持っていると思いますので、これを今後も変革し、続けられるかということだと思っています。 では最後に、逆ざやの部分の理解について森から説明してもらいます。 専務取締役・経営統括本部長 森 仁洋: 今回Wii Uの希望小売価格が決まり、同時に当社からの仕切り価格も決まりましたので、商品の製造を基準として、売ったときに売上総利益段階で発生する損失について今回計上いたしました。販売管理費まで見ているわけではございません。 |