株主・投資家向け情報

2010年5月7日(金)決算説明会
質疑応答
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Q 11  ヨーロッパのDSについて、もう少しお話しいただきたい。ソフトチャートの資料を見ても、2009年は前に出た『脳トレ』などのタイトルが非常に良かったが、2010年は全く消えてしまっている。ヨーロッパでなぜここまで急にマーケットが変わってしまったのか。日本の場合は一旦止まった後、『トモダチコレクション』などの有力タイトルで DSは戻したという印象があるが、ヨーロッパについてのてこ入れ策は、3DS投入あるなしにかかわらず非常に重要ではないかと思う。この辺の認識と対抗策について、お話しいただきたい。
A 11

DSハード実績前期比較
欧州携帯型ハード市場 販売台数推移
欧州携帯型ハード市場 販売比率推移

岩田:

 これは決算短信にも出ている資料ですが、DSのハードについてのものです。これは任天堂グループから外へ出ていった、任天堂が販売したもので、流通さんに在庫になっているものも含んだセルインの台数です。出荷台数と言ってもいいかもしれません。日本は前期とほとんど同じ水準です。アメリカは史上最高になりました。これに対して、その他地域は非常に落ち込みが大きく28%減っています。これはセルインのデータなので、セルスルーはどうなのかということを調べました。これです。ヨーロッパの主要4カ国分のデータで、販売台数の推移を年度で3年間比較したものですが、一番右が70期(FY2010)ですね。68、69期(FY2008、FY2009)はほぼ同水準できたけれども、70期(FY2010)でガクンと下がりました。23%ぐらい下がっています。ただ、任天堂の携帯型ゲーム機のハードのシェアが落ちているわけではありません。市場全体が小さくなっているということです。これに関しては、多分に、ヒットタイトルが携帯型に少なくて、据置型に多かったということで、据置型の比率が高まったという要素がかなりありそうだという気がいたします。


DSソフト実績前期比較
欧州携帯型ソフト市場 販売本数推移

 ただ、それよりも、誰が見ても不健全に見えるのがソフトです。ソフトは、日本はほぼ横ばいできております。アメリカが10%ぐらい減っています。しかし、その他地域では43%減っています。これは1年の減り方としてはやはり極めて大きい、大き過ぎる数値です。一部報道等では、「これはR4の影響なんだ」と、「R4のような海賊コピー装置による海賊行為の影響でソフトのマーケットがおかしくなったんだ」という説明がなされていたりしますが、その影響は確かに存在します。ヨーロッパはアジア地域の次に今、海賊行為の問題が深刻になっていると思っていますが、一方で、それだけでこのマーケットの変化を説明するのは、いかにも乱暴です。セルスルーの方も調べてみました。これがそうです。4カ国で見ますと、DSソフトの販売数の減少幅というのは23%ぐらいです。では何が起こったのかというと、このFY2009、真ん中のところです。この年の秋にリーマンショックが起きて、世界同時金融危機、世界同時不況になりました。そして、そこまではソフトメーカーさんも小売店さんも、DSのビジネスの拡大を見ながらビジネスチャンスととらえられて、非常に強気の発注をしておられたのですが、この時点を境に、一気に姿勢が変わりました。変わったのは2009年の年明けぐらいからだと記憶しています。そうすると、まず新規の注文が極端に減ってまいります。現実に、68期(FY2008)と69期(FY2009)に出荷していたソフトの中には、やはり、お客様の手に渡らずに、小売店さんで在庫になっていたものがあるように思います。それらを処分するのが先ということで新規の仕入れを極端に控えられるということの影響も、この第70期(FY2010)はずいぶん強く受けたと思います。ちなみに、年が明けてから何回リピートオーダーがあったかについては、あまり回数は変わっていません。小口のリピートはいっぱい来ているそうです。すなわち、売れるとちょっとずつ注文はしてもらえるわけです。ところが、リスクを追ってドカンと勝負ということを、流通さんがされなくなりました。流通さんがされないので、ソフトメーカーさんもされないということになり、その結果、ソフトメーカーさんのソフト(出荷数)が大きく減ってしまったということです。ただ、43%というのは出荷での減少で、セルスルーベースの影響というのは2割強であるということなので、そのペースで本当に市場が縮小しているわけではないと言えます。

欧州携帯型ソフト市場 販売比率推移

 もちろんこれは、放置できる状況では到底ございませんので、日本で再活性化ができたように、ヨーロッパでの再活性化をいかにするか、どのソフトでするか、特に、携帯型ゲーム機のヨーロッパのビジネスパターンでは、夏商戦の結果がかなり年間のビジネスの結果を左右すると感じておりますので、この夏商戦に向けていろいろな準備をしているところです。ちなみに、販売比率で見ますとやはり(DSソフトの販売シェアは前年と)ほぼ変わっていませんので、携帯型ソフトに関しては、DSだけの問題ではないということが言えます。ただ、これほど急激に市場が変わっているのはヨーロッパだけの現象ですので、ヨーロッパのこの現象について、より的確な手を打って、良い手ごたえを次回以降にご報告できるように努力したいと思います。

Q 12  インフラとストレージの考え方について。任天堂のコストで「ニンテンドーゾーン」を増やすという考え方についてはどう思うか。また、今後「ニンテンドーゾーン」が増えてきて、任天堂でやりたいことが増えてくる中でストレージの需要というのも増えてくると思うが、それは任天堂のコストでされるのか、もしくは任天堂のアセットとして持つことを志向されるのか、それとも、外に出して、例えばグーグルとは違ったような形で、みんながコンテンツを載せられるような形になるのか。
A 12

岩田:

 「ニンテンドーゾーン」のような取り組みの重要性というのは、これからますます高まると思っていますので、その展開する場所に応じて、コストの負担をどうするかということについてはフレキシブルに考えようと思っています。例えば、「ニンテンドーゾーン」があることで、お店のトラフィック(来店者数)が増える、従って、そのお店の利益につながるということになれば、そのお店の方々は自分たちで「ニンテンドーゾーン」のコストを負担してでも「ニンテンドーゾーン」を導入したいとお考えになってくださるでしょう。逆に、これ以上人を増やしても仕方がないという場所、人が増えても何ら(直接の)利益につながらないという場所、例えば日本で言えば、「鉄道の駅に『ニンテンドーゾーン』があったらいいよね」と仮に任天堂が考えたとして、鉄道の駅に「ニンテンドーゾーン」ができたら、鉄道会社の方々の収益に直接つながるかと言うと、必ずしもそうではないと思います。そういう場合については、コスト負担の考え方を構造別にフレキシブルに考えないと前進しないと思います。

 それから、ストレージについては、今おっしゃるように将来を考えるといろんな可能性があると思います。具体的に将来こうするつもりだということを今日申し上げるつもりはないのですが、私たちも注目している分野の一つですということは申し上げられると思います。

Q 13  岩田社長は今年のゲーム市場をどのようにご覧になっているか。また、その中で任天堂のポジショニングをどのようにご覧になっているか。コピープロテクションの問題について、欧米の投資家からずいぶん問い合わせを受けているが、もし試算値があれば、どのぐらいのダメージをこれによって被っているのか。新しい3DSに関しては、何かしら新しい方法を使ったプロテクションシステムを入れる考えがあるか。Wiiについて、今はタイレシオ(*)が過去のゲーム機に比べると非常に低い印象がある。この水準というのは、カジュアルな購入層が中心である以上、ある意味やむを得ない水準という理解なのか、あるいは、かなり大型のタイトルが3本出そろった後ということもあり、コアゲーマーに対してこれからどういうアプローチが必要だと考えるか。さらに、カジュアル層を広げていくためには価格戦略等もまた新しく必要になると思うが、そういう考えが今期あるいは来期以降、予算に入れているかどうかは別にして、あるかどうか。
(*) タイレシオ: ハード1台に対するソフト販売本数。
A 13

岩田:

 まず、ゲーム市場の見方についてです。一言でいいますと、「お客様がものに飽きていく時間、スピードがすごく早くなっている」と思います。ですから、全体として、ビデオゲームの中でいろいろな商品の寿命が、どんどん短くなる力が働いていると思うのです。任天堂はその中で比較的寿命の長い商品をいくつか持ててはいますけれども、すべてが私たちのシナリオ通りに推移しているかというと、そうではありません。お客様がこれだけ物事に飽きるスピードが早いとしたら、私たちの展開スピードをどう早めるかということが以前にも増して求められていると思います。これは私たちだけの問題ではなくて、ビデオゲーム産業全体の問題です。どうしても少数の大作が市場をドライブするという構造になりがちだったビデオゲームマーケットですが、今でも、少数の大作が、「ハードを買ってまで遊びたい」と思っていただけることで、ハードを牽引するエンジンになることに関しては変わっていませんし、それを任天堂が定期的に生み出せるように努力するということは変わらないのですが、それと同時に、そういう形でゲームを遊び始めていただいたお客様に、常に次々と新しい刺激があって、ビデオゲーム機の活性が高い状態を保たないといけないと思っています。

 ちなみに、タイレシオに関しては、「カジュアルユーザー中心だから低い」というのは、一つの見方としてはもちろん理解するのですが、一方で時代も変わってきていて、昔と同じようにパッケージソフトを次々買って消費し、また次を、ということが以前よりもやはり起こりにくくなっているのではないでしょうか。お客様は、ものを買われる上で厳選されるようになっていると思うのです。すなわち、情報が広く伝わるようになったことで、これは特にインターネットの普及が大きな要因だと思いますが、「自分が欲しいと思ったゲームを買わないことを決断するための情報」がいっぱい出回るわけです。「これはやめとけ」という誰かの意見を読んで、買う気がストップしてしまう、ということが非常に起こりやすくなっていて、「カジュアルゲーマー中心のユーザー層だからタイレシオが低くて、そうでないとタイレシオは高い」と単純に言えなくなってきています。ですから、もし本当にタイレシオ対比だけで語るなら、ソフトの販売本数は、Wiiと他の機械でもっと差が出てもよさそうに思うのです。しかし、そこにはそんなに大きな差があるわけではないので、その意味で言いますと、「私たちがカジュアルユーザーをターゲットに含めたからタイレシオが低い」ということが本当に正しいのかどうか、私は疑問に思っております。その意味で、一つ一つの製品がお金を出して買っていただくに値すると認めていただけるように、しっかりものを仕上げることと、お客様に対する提案の間隔が空き過ぎないようにすることが大事であると思っています。

 次に、コピープロテクトの件ですが、違法なコピープロテクト解除による被害額を数えるということには、私はあまり意味がないと思っています。というのは、違法なコピープロテクト解除による被害額を、単純に「ダウンロードした数」×「ソフトの市場価格」としても、ダウンロードした人(全員)が買うつもりだったのをそれで買わなくなったのかというと、必ずしもそうではないと思います。そこで出てくるのは、いわばバーチャルな被害総額で、実際にそれが市場として存在したわけではありません。ですから、それを数えることは無意味なことだと思っているので、あまり深く調べてもいませんし、考えてもいません。

 ただ、(違法なコピープロテクト解除による海賊行為は)非常に深刻な問題の一つだと理解しています。何よりも非常に良くないと思うのは、以前に比べて、海賊行為の人口も拡大していることです。今までだったら、そういうことをされないような方までが、そういうことへの抵抗をなくすようになっていき、そしてだんだん、ソフトというものにお金を払うことに対する意味を感じられなくなっていくということが、私たちにとっては最も怖いことだからです。先般、『フリー』(クリス・アンダーソン著/日本放送出版協会)という本が話題になりました。デジタルのコンテンツは、これからデフレ化が進むと言われています。最初のご質問であったソーシャルゲームの話もちょっと似ていまして、あれもコンテンツデフレの方向の一つでしょうし、その意味で言えば、例えばiPhoneのゲームに無料や1ドルのゲームが多いというのもコンテンツデフレの一つかもしれません。

 私たちはそういう中で、いかに私たちのつくるエンターテインメント体験の価値を高く認めていただいて、あるべき価格を市場で維持するかということを考えていますので、その意味で海賊行為がどんどん広がっていくということについては、非常に強い危機感を持っています。ハードというものは互換性を持って作らないといけないものですから、ハードのプロテクトの仕組みを一旦破られると、過去のソフトが全部動かなければならないので、なかなか簡単に(プロテクトの仕組みを)変えられないのですが、3DSは変えるチャンスですので、当然強化はしたいと思います。ただ、どうやって強化するかをここでお話ししますと、プロテクトを破りたい人にヒントを差し上げてしまうので、それは申し上げられないのです。ただ、このことは私たちが深刻にとらえていて、非常にエネルギーを注いでいることの一つだということは明言できます。

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