株主・投資家向け情報

2010年10月29日(金)経営方針説明会/第2四半期(中間)決算説明会
質疑応答
Q 4

 3DS向けのソフトについて。ラインナップを拝見すると、DSの『脳トレ』とかWiiの『Wii Fit』のように、ゲームの定義を変えるようなタイトルといったものが少ないように思えるが、3DSでこの分野に対して御社はどのような形で取り組んでいかれるか。また、3DS向けのタイトルということで、宮本さんに教えていただきたいが、『スーパーマリオ』のDSとWiiで、基本的に2Dのマリオの方が3Dよりも売れているという実績があると思う。この点を踏まえて、3DSでマリオはどうなっていくのかといった点について何かヒントを教えてほしい。

A 4

岩田:

 まず、ニンテンドー3DSを新しく開発するにあたって、任天堂が「ゲーム人口拡大」ということで進めてきたニンテンドーDSならびにWiiの普及の過程で、私たちがどうしても解決できていなかった問題があるということを考えました。具体的に申し上げますと、DSやWiiは画像の美しさであるとか、処理性能ということよりも、違うところに力点を置いて開発をしたために、映像の奇麗さや処理性能を求められるお客様のニーズには必ずしもその期待にお応えできなかったということがあります。その結果、市場は、ひとつの一番普及したプラットフォームが全体のマーケットをリードするという形にならずに、(日米欧)それぞれの市場で、構造は少しずつ違いますが、お客様が分断してしまった可能性があると思っています。
 私たちはゲーム人口を拡大したいわけですが、本来ゲームを熱心に遊ばれるお客様と、ゲームの初心者のお客様の間に明確な壁があって、「ここまでは初心者で、ここから先はゲームに詳しい方だ」というのがあるわけではなくて、その差は極めてアナログ的な段階を経たものだと思います。どんなにゲームに詳しい熱心なゲームファンの方も、最初は必ず初心者だった時代があるわけで、ビデオゲームという産業が健全に発展していくためには、新しいお客様が次々と入ってこられ、そのお客様の嗜好や娯楽に使える時間やエネルギーには個人差がありますので、それらの人のニーズに合わせて、いろいろな遊び方ができることが望ましいんだと思っているのですが、分断したままでは、そこで健全なサイクルが回りにくくなるんですね。
 その意味では、「ニンテンドーDSの普及台数は魅力だけれども、この性能では自分の作りたいソフトはどうしても作れない」と考えている開発者の方の声を、ソフトメーカー様の窓口をしている業務部等を通じてたくさん聞きましたので、それならば、そういうことにも応えられ、かつ、一方でゲームに経験のない方にとっても何か魅力的なデバイスが作れないかということで、ニンテンドー3DSを作りました。
 ニンテンドーDSが出た時の『nintendogs』や『脳トレ』に代表されるような、「これってゲームなの?」というようなものがまだ見えていないというお話ですけれども、私たちは既に、少し片鱗はお見せしたつもりでして、例えば先日のカンファレンスでお見せした『ARゲームズ』は、そういう新しい取り組みの一つですが、そういう新しい取り組みがパッケージとしてどんな形で結実するのかということについては、それはニンテンドー3DSの普及の第2段階で求められるものではないかと考えていまして、今はそういうソフトよりは、ビデオゲームのことをずっと熱心に遊んでこられた方々に満足いただけるものが前面に立って見えているので、そういうもの(ゲームの定義を変えるようなタイトル)がないように感じられるのだと思います。当然そういうものについても、いろいろなことを考えておりますし、また、そもそもビデオゲームをあまり遊ばれない方にとっては、例えば動画が立体で見られるということだけで、ものすごくインパクトがあるということは、ご覧いただいた方に既にご理解いただいているとおりですので、そういう部分でまず魅力を感じていただき、世の中で(3DSハードが)一定数普及した頃に、ユーザー拡大をするためのソフトウェアが出てくるというような段階になるのではないかと思います。
 ただ一方で、「具体的なネタは何なんだ」と当然皆さんはお知りになりたいと思うのですが、お話ししてしまいますと、私たちが出すより前に世の中に出てしまいかねませんので、それについてはご容赦ください。では宮本の方から、マリオの2D、3Dの話を。


宮本:

 マリオに限らず、そういうアクションゲームの抱えている課題として、3Dになる方が臨場感が出るし、それからお客さんのできることの幅が広がりますから、選択肢が広がって自由度が高くなる、だから自主的に遊ぶと言う意味では、3Dにも魅力があります。
 けれど、ちょっと複雑そうに見えるだけで嫌だと言う人もいるし、入力方法も結構複雑にならざるを得ません。いろいろなことをしたくなる、遊び始めると欲しくなる機能というのを全部つけると、初めての人にはとても複雑に見えるという構造になってしまいます。決して複雑ではないんですけど、初めての人にはそうなってしまうという課題です。
 そういう意味で、おっしゃるとおり、『スーパーマリオ』というのは『マリオ64』になった時点でずいぶんとお客さんの幅を狭くしました。一方で、ゲームが3Dになって臨場感があり、選択肢が広がり、というゲームの新しいスタイルは作ってきたと思うんですけど、それをずっと、何とか、3Dでありながら誰でも遊べるゲームを開発しようという方向で進めてきたのが今の『スーパーマリオギャラクシー』というシリーズで、『スーパーマリオギャラクシー 2』になると、初めて3Dゲームを遊ぶ人にも、かなり大勢の方に遊んでもらえるようになったと思うんですけど、一方で、それだけでは解決しないので作ってきたのが『Newスーパーマリオ』のシリーズです。やはり分かりやすく、誰でも遊んでもらえますし、それと、ちょっと触っただけでも遊んだ実感があって、満足できるということです。ゲームって何も攻略するだけが楽しみじゃなくて、遊んで楽しかったらそれでいいわけなので、それが非常に伝わりやすいということではあります。
 それで、「ニンテンドー3DSではどうなるのか」というと、当然、両方作っていきます。どちらが魅力があるかというと、それぞれにあるんですね。3DSで分かりやすいのは、今まで3次元のマリオのゲーム、ゼルダのゲームを含めて、例えば同じ平面上にいくつかの床がポツポツポツと並んでいると。でもそれは、同じ平面上に同じ間隔が空いて並んでいるのか、ちょっと遠くの上の方にあるものなのか分からないんですね。これが、(ニンテンドー3DSの)3D表示と2D表示で二つの画面を作って見比べると、すぐに分かります。これは同じ平面上にあるもの、これはちょっと手前の上の方にあるもの、というのがすぐに分かります。ですから、切り株があってもすぐに乗れるとか、空中に浮いている"ハテナブロック"が下にサッと入って叩ける、というようなことが簡単にできるようになります。それと、マリオとか、リンクとかの存在感というのがすごく出るんですね。僕のゲームはプレイヤーの体重みたいなことを意識して作ります。ちゃんと重量感があるか。ピョンと跳んだ時に、地面に着いた時に、ちゃんとクッションの動作があるか、その瞬間どれくらい止まったらその人らしい体重を感じるのかとか、いろいろなことを考えて作るんです。それが3Dになることで強調されて、非常に臨場感が出るようになってきていると感じています。
 それから、2Dの方はどうかというと、今までよくマリオの2Dゲームを遊んでいただいている方はご存じだと思うんですけれども、遠くの方から"ハナチャン"が飛んでくるとか、"キラー"が遠くの方から飛んでくるとか、奥行きに対してのネタもいくつかあるんですね。それらはなかなか、いつ自分に当たるようになるのか分からないということで、軽くしか使えなかったと。けど、ニンテンドー3DSではこういうのは結構たくさん使えたりもします。
 バーチャルボーイの時にもいろいろチャレンジをしましたけど、なつかしい、奥行きのあるマリオについては、いくつかアイデアはいきてくると思います。ですから、その二つの方向でニンテンドー3DSはいろいろ使っていけると思います。


岩田:

 予想以上に踏み込んだ話でした。私も初めて知りました。


宮本:

 まずかったですか。ゲーム雑誌の人には言わないでください(笑)。

Q 5

 先ほどから年末商戦が短期集中型になるということで、思えば去年のクリスマス商戦はロングセラーのタイトルもあったが、Wiiのハードの値下げがあって、『Newスーパーマリオブラザーズ』が出て、一部小売店、ウォルマート等の支援もあった。今年については、多少なりとも、多かれ少なかれ3DSを前にしたDSの買い控え的なハンデもあると思うので、具体的にもう少し、年末商戦に向けての戦術というのを教えていただきたい。また、いわゆるレイトマジョリティーをメインにした商戦になると思うが、この結果は3DSの立ち上げ、恐らくアーリーアダプターに向けてということになると思うが、そちらに影響するのか。

 設備投資170億円、来年4月までに生産設備というご計画を伺った。もう少し具体的に、どこに、何を、何のためにということと、この結果開発のリソースの配分がどう変わってくるのか。

A 5

岩田:

 まず、この年末に新しく任天堂の製品を買っていただけるのはどういう方なのかということについてです。もちろん新作ソフトは別としまして、既にこれだけ行き渡ったハードがあり、これだけ行き渡った定番ソフトがある中で、この行き渡った状態からさらに買っていただくのはどういう方かというと、それは、欲しいと思ってすぐに行動される方に対する、欲しいと思ってもゆっくり決断される方、あるいは、欲しいと思っても、なにがしか季節に後押しされる、ムードに後押しされる、「これはお得なのでこの機会に買おう」と踏ん切りをつけると、いろんな要素がありますが、何かの後押しがあるまで決断をゆっくり待たれるお客様、そういう人たちがマーケティングの世界ではレイトマジョリティーと呼ばれるお客様だと思うのですが、そういう人たちが年末に新しくハードを買ってくださるお客様の中心になるというのはたぶん事実だと思うんですね。それは、それだけの量を既にもう、WiiやDSを世界中で販売したためです。
 では、そういうお客様に対して、どうしたら買っていただけるのかということですが、いかに私たちのご提案がシンプルで分かりやすいかということが重要だと思います。「選択肢がいっぱいあって、あればあるほどいい」というふうに、私たちはつい思いがちですし、また情報に詳しい、情報を熱心に集められる方は「情報がたくさんあるほどうれしい」わけなんですが、例えば私自身もそうですが、自分があまり興味のないことだと、選択肢がありすぎると選べなくなるんですね。「行動経済学」という分野でもよく「人は選択肢が多すぎると選択しなくなる、決断しなくなる」ということが言われていたりします。例えば、旅行に行こうと思って旅行のパンフレットを見だすと、選択肢がいっぱいあるのは、そのことにエネルギーを注げる人にとってはとてもうれしいことですが、あまり時間がなくてとりあえず行こうという人にとってはかえって選べなくなります。自分がベストでない選択をするのはすごく不快なことになりますので、なかなか選べなくなってしまうんですね。
 そういう意味でいうと、お客様がこの年末にお買い求めいただくものについて、自信を持って「お薦めできるのはこれです」ということを、いかに分かりやすくお伝えするかが鍵になります。それは、任天堂だけでやれることではなくて、どちらかというと、任天堂がテレビ宣伝をしてお客様に「こういう製品がある」ということを認知していただくだけではなくて、それと同時に、「買うのはここで、この小売店さんのこのオファーで買うのがいい」ということが、すごく分かりやすく伝わる必要があると思っていますので、そういうことがしっかりできるかどうかが重要なのではないかと思っています。もちろんテレビ宣伝も大事なんですが、それ以上に、小売店さんと、いかにちゃんと連携がとれるかというのが特に重要になってくると思います。
 一方で、ここで、「そういうお客様に向かって頑張って年末に販売しすぎると、年明けにニンテンドー3DSは売れるの?」という懸念があるかもしれませんが、私はニンテンドー3DSを真っ先に選んでお買い求めいただけるお客様と、この年末にDSやWiiをお買い求めいただくお客様は重なりがないとは申し上げませんが、比較的重なりは小さいのではないかと思っています。といいますのは、ニンテンドー3DSを一番最初の段階でいち早く買っていただける方というのは、やはり世の中の新しい物に興味がおありで、情報を早く自分から能動的につかまえて行動されるお客様だと思いますし、商戦期ではない時期の発売ですから、当然、商戦期だから背中を押されて買ってくださるお客様はそこには参加されないわけで、その意味でも、そのような棲み分けができるのではないかと思います。
 それから、設備投資ですが、設備投資について個別にどこでどのようなものに投資をしているかということを個別にはお話ししておりませんので、これはご容赦いただきたいと思います。
 また、今後の開発リソースの配分ですけれども、やはり、以前に比べますと、そのソフトにとって決定的な、魅力的なアプリを作るということだけをしていたのでは、ハードウェアというのを普及させ、健全に発展させるということは難しくなってきていると思うんですね。具体的に言いますと、本体を作る、新しいプラットフォームを作るということは、それに向けての最も大切な、「そのソフトがあるからそのハードを買う」という、いわゆる"キラータイトル"と呼ばれるものを作ることが最重要であることは何も変わっていないんですが、それだけをすれば全部が解決するというわけではなくて、例えば今ですと、いかに海賊行為からプラットフォームを守るかとか、ネットワークサービスをどんなものを用意したらお客様にご満足いただけるかとか、とりあえずハードを買ってきたら、どんな体験ができるべきか、というようなことのお客様にとっての意味や価値が、どんどん高まっていますので、そういうものを作るための開発リソース配分がやはり若干増えてきています。任天堂の開発リソースは、10年前はそのほとんどを「いかに"キラータイトル"を作るか」ということに振り向けられたわけですが、現在はそうではなくなってきています。
 一方で、任天堂は単純に自社の従業員だけですべてを開発しているわけではなく、さまざまな開発をしている開発会社さんと一緒にいろいろなことをしていますので、開発の総パワーというのは、私は以前よりかなり増えていると思っています。そうやって新たに必要になる部分、あるいはソフトウェアの開発がより複雑になって、よりたくさんの開発リソースが必要になるという状況の中で、どうやって新しく、社内だけでなく社外の方と共同歩調をとりながらプラットフォームを立ち上げていくかということが重要になると思います。ただ、「開発リソースをいかに配分するか」ということが経営上の極めて優先度の高い課題になって、この判断を的確にしないとタイミングがいいところでいろいろな製品を出せなくなっていく恐れがあるという意味では、これは非常に重要なポイントで、私自身も注力しているところです。

Q 6

 3DS発売以降の今のDSの扱い方について。今のDSはインストールベース(ハード普及台数)では巨大な市場を持っており、ソフトも減速しているといっても大量に売れている。一方3DSは、インストールベースは最初当然小さいわけで、将来的にはすべて切り替えて新しいユーザーを獲得されていくというのが目標だとしても、達成まで数年かかると思う。ソフトタイトルも、サードパーティーのコアタイトルもあって、若干未知数のところもある。来年、御社のソフト開発の重点あるいはマーケティングは3DSに集中されて、今のDSはやはり古いものとして扱われていく場合には、若干業績的に不安定になる可能性もあると思う。逆に3DSの立ち上げが非常にうまくいけば業績は大きく伸びると思うが、リスクが高まってしまう可能性が懸念される。そもそもDSの今の普及台数を活用せずにおくのはもったいないような気がするので、来年以降のDSの扱いについて教えていただきたい。

A 6

岩田:

 海外でのニンテンドー3DSの価格をまだお話ししておりませんが、日本の価格を見ていただくと、既存のニンテンドーDS、DSiと比べると値段の差が少しあるということはお分かりいただけるかと思うんですが、そういう状況の中でマーケットはどうなっていくのかということが問題になるかと思います。
 ちなみに過去にもプラットフォームの乗り換えといいますか、新しい世代への切り替えということはあったわけですけれども、実は切り替えのスピードというのは市場によって非常に大きく違います。恐らく、世界一切り替えが速いのが日本の市場です。それから、同じように比較的速いのが、ヨーロッパの中でイギリスが突出しています。ヨーロッパでは逆にドイツが非常にゆっくり変化が起こる市場で、アメリカも、早く反応してくださる方の数も非常に多いのですが、一方でゆっくり動かれる方の数も非常に多いので、市場全体としての変化はゆっくりに見える面があります。アメリカにもたくさんのすぐに行動される方がいらっしゃるので、アメリカには二面性があるんですけれども。それらのことを考えますと、各国が将来、既存のDSのシリーズの新しいソフトをどれぐらいのエネルギーをかけて売っていくかというのは、市場ごとに若干の違いが出てくると思います。
 これは、ゲームボーイアドバンスとDSの時にもそういう部分がありましたし、過去すべて、いろいろなゲーム機で変化のスピードが国によって違いますので、その傾向は先ほど申し上げたとおり、ほぼ国によって決まっているという印象がございますので、一律にはならないと思います。また、当然のことながらニンテンドーDSのような巨大な普及台数にニンテンドー3DSが達するにはどうしても一定の時間がかかりますから、その間、ニンテンドーDSをお持ちのお客様に何らかの提案ができることは当然望ましいわけで、ただちにニンテンドーDSのものは何もしないということはもちろん考えていません。
 一方で、ニンテンドーDSの市場を維持するために会社の開発エネルギーがあまりにもたくさんとられてしまいますと、今度はニンテンドー3DSの立ち上げができません。まさしく先ほどのご質問とも絡む面があるんですが、どうやって(開発リソースを)配分して、どういうソフトはニンテンドー3DSに早くドンドン切り替えていき、どういうソフトはDSで出し続ければいいのかというようなことを適切に判断しなければならないと思います。また、その重点が若干日本と海外の市場、特に海外の中でもゆっくり変化する市場においては変わってくるのではないかなと思います。
 もう一つは、もともと任天堂のソフトでは、日本で最初に開発して、日本版が先に出て、日本版で市場性を確認してから海外にローカライズするという場合があります。宮本が作るような、最初から任天堂の関係者全員が「世界中で受け入れられるであろう」と信じているソフトは、いきなり開発の最初から全世界対応で作るんですが、宮本が手掛けていたソフトでも、例えばかつて『どうぶつの森』を作った時は、まず日本で出て、日本で出たものを海外のローカライズ担当の現地の人たちが気に入ってくれて「これを現地で発売しましょうよ」という提案をもらって、それで初めて始まるというケースがやっぱりありました。ですから、私たちの一連のソフトラインナップの中には、日本では世の中で結果が出ているけれども海外ではまだ出ていないもの、ローカライズの関係で時間が少しずれているものというのがあるんです。ですから、今のご質問にあった「ニンテンドーDSからニンテンドー3DSにどうやって市場が移り変わっていくんですか」ということに対しては、今お話ししたようなソフトの存在をうまく活用することも一つの答えなのかなと私は思っています。


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