株主・投資家向け情報

2010年10月29日(金)経営方針説明会/第2四半期(中間)決算説明会
質疑応答
Q 7

 3DSのアメリカ市場での立ち上げ方について。特に、早く動く人もいれば、遅く動く人もいるというマーケットで、DSの時は初速があまり出なくて、結構早めに値下げをして動かしたという経緯があったと思う。今回、先ほど普及の課題ということで、日本でも体験会の方をかなりやられるということになっているが、具体的にアメリカで、まずはコアゲーマーに向けてどのようにマーケティング施策を打っていくのかということを教えていただける範囲で教えていただきたい。また、アメリカのサードパーティーの対応も非常に重要と思っているが、アメリカのサードパーティー、ならびにリテーラー(小売店)の反応についてアップデートをお願いしたい。最後に、3DSの特に映画プレーヤーがカジュアルゲーマーに受けそうだが、日本ではフジテレビ、日テレさんと組むというアナウンスに加え、映画会社との協力体制について新情報があれば教えてほしい。

A 7

岩田:

 今まずご質問にありました、「ニンテンドーDSはアメリカでの初動で苦戦した」というお話、それは事実でございます。アメリカは今でこそDSがゲームボーイアドバンスのペースを上回る普及ペースになっているのですが、一時期はゲームボーイアドバンスの普及ペースに比べてニンテンドーDSの普及ペースは非常に悪い状況でして、ある時期までは、「本当にDSはアメリカで普及するのか?」と心配をされる方が市場で多かったんじゃないかというような状況でした。
 これは、日本においてDSに火がついたのは発売後半年ぐらい経って『nintendogs』と『脳トレ』が出て、その『nintendogs』や『脳トレ』の魅力がだいたい半年ぐらいかけて広まっていって2005年の年末に爆発したというのが私の認識なんですけれども、2005年の年末の爆発の時点では、まだアメリカでは爆発できなかったんですね。これは、まだ『脳トレ』は出ていないし、『nintendogs』が秋に出たばかりというような状況でしたから、私たちがキーになるソフトの投入が少し遅れたために、その時点では日本のような状況にならなかったからだと思います。ですから今回、その意味ではいかに初動をしっかり出して早く普及ペースに乗せるかというのは私たちにとって非常に重要なことだと思っています。
 その上では、日本と同じ形式であるかどうかは分かりませんが、お客様にいかに体験していただくかということは非常に重要になってくるかと思います。逆に、まさしく「百聞は一見にしかず」、英語で言うと"Seeing is believing"という言葉がありますが、ニンテンドー3DSというのはこの「百聞は一見にしかず」というのが非常にうまく当てはまる製品だと思っています。アメリカでの子会社の販売促進チームは、実はショッピングモール等を回ってお客様に商品を体験していただくということに関しては非常にうまく運営できる能力を持っているチームだと私は思っていまして、今回の場合、「見てもらえばお客さんに理解してもらえる」という手ごたえがはっきり出た時点で、積極的にそういうことを展開することになるだろうと思っています。ショッピングモール等での体験ツアーのようなものがWiiの拡販においては非常にアメリカで機能しましたので、それと同じことをやっていけばよいのではないかと思います。
 サードパーティーについては、海外ももちろんですが、日米ともに営業本部の波多野が業務部の担当としてサードパーティーさんの担当をしておりますので、ここは波多野から説明してもらおうと思います。


取締役専務・営業本部長 波多野 信治:

 ソフトメーカーさんとはいろいろ、内外ともに私どももサポートさせていただきながら一緒にやらせていただいているのですが、まず国内に関して言うならば、ニンテンドー3DSは、ほとんどのパブリッシャー(発売元)さんに興味を持っていただき、かつ積極的に展開をしようと取り組んでいただいております。
 また、海外に関してはアメリカだけではなく、米欧のパブリッシャーさんについて、お話しした方がいいのではないかと思います。E3の時点で皆さんにニンテンドー3DSの初出しをさせていただいたのですが、その段階では日本のパブリッシャーさんの評価の方が高いという傾向にありました。その後、日本のパブリッシャーさんの評価が高かったということが、かなり米欧のパブリッシャーさんやデベロッパー(開発元)さんに影響を与えているというふうに思います。
 先ほど、任天堂の開発の考え方の話の中で、映像、グラフィックというテーマが確か出ていたと思います。こういうことに対して、特に米欧のパブリッシャーさんは非常に関心度が高く、3Dというこの新しい技法に対して研究されているメーカーさんもたくさんいらっしゃいます。少なくとも今の段階では、まだ私も映像を見ていませんが、技術的にはかなり高いと思いますので、E3の時点では出遅れ感はありましたけれども、きっと彼らの得意とする分野でもありますし、かつ彼らがやりたい分野でもありますので、かなりのレベルのものを開発していただけると私は思っています。
 今日ここで具体的に何がどうかということは明確にお話しできないのですが、現在私が聞いている範囲での皆さんの取り組みは、そのような積極的な姿勢であると理解をしておりますし、期待もしております。


岩田:

 私も海外に出掛けることが多いので、海外子会社の関係者にいろいろ現地のソフトメーカーさんがどういう姿勢でニンテンドー3DSのことを考えておられるのかということを聞く機会があるのですが、ニンテンドーDSが出はじめの時よりも非常に興味を強くお持ちであると聞いていますので、少なくとも海外のパブリッシャーさんがニンテンドー3DSについて消極的であるということは全くないと思います。かなり積極的に最初から考えておられると考えていただいてよいと思います。
 それから、最後の映画の件ですね。これはまだ、何か決まっているというわけではございませんが、任天堂は、このニンテンドー3DSを世界で初お披露目するE3の時にハリウッドのスタジオから映画の予告編をお借りできないかとお願いをして、貸していただいてお見せしましたので、その時に(ハリウッドの映画関係者にも3DSを)お見せしていますし、それ以降もニンテンドー3DSの発表後、たくさん引き合いをいただいていまして、ハリウッドの皆さんも非常に興味をお持ちだということは間違いないと思います。今まで関係者の皆さんにお見せすると、ほぼ例外なく非常に強い興味を持っていただけています。
 これからは、映画館は3Dになっていきますから、映画のコンテンツの中には、3Dで作られるものがどんどん増えていくわけですね。ですが、出口の部分では、3Dのテレビというのが一気に世の中でものすごい台数が普及するというふうには今ハリウッドの皆さんは思っておられないようで、3Dの映像を見ていただく装置として、ニンテンドー3DSはマスマーケットにまとまった量で普及する最初のデバイスになるんじゃないのかなと感じていただけている手ごたえがあります。これについては、なにがしかお話しできるようになった時点で、具体的なお話ができると思います。

Q 8-1

 開発費関連について。まず竹田さんにお伺いしたいのが、今回(3DSには)国産のPICA200のチップを使われていて、ファミコンにリコーのチップを使って以来で非常に期待している部分もある。アーキテクチャーを見ていると、「プログラムシェーダー」がほとんど一般的な状況下にあるにもかかわらず、なぜ今回「固定シェーダー」のチップを採用されたのか、その背景を教えていただきたい。また、1T-SRAMの時も思ったが、どうすればこのようなチップを探してこられるのか教えていただきたい。
 宮本さんにお伺いしたいが、ソフトウェアの開発の管理責任者から見た時に、この固定シェーダーのチップを使う開発上のメリットを教えていただきたい。

 最後に岩田さんに開発者として伺いたいが、「社長が訊く」を読んでいると、NINTENDO64の『罪と罰』のところで「うまく作らないと動かない」という話がたびたび出ていて、恐らくこれはプログラムシェーダーにかかわる部分じゃないかなと思っているが、開発した経験から見てどうなのかということを教えていただきたい。また、今のPC用のチップは消費電力が大きくなっていて、据え置きに乗せるのが難しくなってきていると思うが、経営者という立場で、将来こういう固定シェーダーのチップを使い続けるという判断をする可能性はあるか。

A 8-1

岩田:

 少しご質問が専門的でしたので、「固定シェーダー」とか「プログラマブルシェーダー」というもののことをちょっとだけお話してからお答えした方が皆さまを置いてきぼりにしなくて済むかもしれないので、そうさせていただこうと思います。

 3Dのコンピューターグラフィックスのハードウェアでは、中に「シェーダー」という回路が入っているんですね。シェーダーというのは何をするかというと、一言でいうと「陰影をつけるための回路」です。立体というのはある方向から光が当たると、その光が来ている方向は明るく見えて、光が当たっていないところは暗くなるわけですが、それによって人は立体感を感じるわけですね。そういうものをどうやって実現するかというのが、15年ぐらい前に初めてゲームの世界にCGを使えるようになった非常に初歩的な段階から今日に至るまで、かなりの進歩があったんですが、だいたい2000年代に入ってから、「プログラマブルシェーダー」という、「ソフトウェアからどのような陰影づけをするかのプログラムをハードウェアに送り込めばどんなことでもできます」という万能な方法が普及したんです。それに対して、今回ニンテンドー3DSがとっている方法は、世の中で一般的に使われているプログラマブルシェーダーというものではなくて、そのプログラマブルシェーダーで実現できるいろいろな陰影づけの方法のうち、「使う組み合わせはほとんど決まっているので、この方法とこの方法とこの方法を選べるように最初から(ハードウェアで)作り込んであります」というものなので、それを「固定シェーダー」というふうにおっしゃっているんですね。それがなぜそうなったのかということや、そのことによるメリット、デメリットはどういうふうに判断したのかというご質問だというふうにご理解いただいてお聞きいただいたらよいと思います。では、竹田から。


取締役専務・総合開発本部長 竹田 玄洋:

 今回固定シェーダーを選んだという理由についてですけど、私が直接それに関係はしていないんですけれども、一般的に「どちらがいい、どちらが悪い」ということではなくて、それぞれ適材適所だと思います。
 携帯ゲーム機においては、消費電力が一番大きな要素になるわけですね。消費電力を下げるということ、および、解像度がテレビなんかに比べてみると、解像度が低く、その代わり目の近くで見る、というバランスで考えた時に、今岩田が説明したように、何でも万能のフレキシブルにできるものがいいのか、一番使うものに焦点を合わせた方がいいのかという選択になります。そういうことで総合的に判断して、ソフトを作る開発費とか、いろいろなことを考え、携帯ゲーム機においては固定シェーダーが一番妥当ではないかなという、一種のソロバン勘定じゃないかなと思っています。


宮本:

 今の竹田の説明でほぼ要約していると思いますが、ソフトを作る側からすると、安定した性能が欲しいんです。ずっとさかのぼってファミコンの頃にハードウェアが自動的に全部をやってくれていたというところで、非常に安定した性能がとれていました。まあ制限は受けるんですけれども。そういう任天堂の経験則みたいなものがあって、一般的なメーカーのとる設計に沿っていくというより、「任天堂らしくていいんじゃないか」という直観のようなものもありまして、そういうことも含めて選んだわけですが、やっぱり基本は安定した性能というところだと思います。


岩田:

 私は決定のプロセスに関与していましたので、私自身が提案を受けて「それで良いのではないのか」と考えた理由は、消費電力と表現力のバランスが良いと思ったからです。ですから、未来永劫にこの方法がいいのかは分かりませんけれども、今の段階で、バランスはこれがいいのかなというふうに考えたということです。ちなみに、先ほどご質問にあった「社長が訊く」で話題になっていた、「性能を出すのに苦労した」というのは、実は「安定して性能が出る機械がいい」と宮本が言う理由とも関係していまして、私も宮本も開発者として大変苦労したことで、この話をすると竹田はたぶんつらいと思うんですが、NINTENDO64の時代に結構苦労をしたんです。ファミコン、スーパーファミコンは、基本的にハードで「これはできますよ」といわれていることは必ずできるんです。しかしNINTENDO64になってガラっとハードの考え方が変わりました。「やろうと思えば何でもできます。でも総量はこれだけです」、というものになったんです。つまり「総パワーをどう割り当てるかは開発者の自由です」と言われるんですけど、開発者って欲張りですから、あっちもこっちも頑張りたくなるわけです。で、全部入れると動かないとなるわけです。例えばそれは、私が頑張るか頑張らないかだけ、あるいは宮本が頑張るか頑張らないかだけじゃなくて、1人のデザイナーが「もうちょっと自分の描いている絵をきれいにしたい」と思ってちょっと頑張ると、とたんにフレームレート(1秒間で何回画面が書き換えられるかを表した値)が下がったりということが起きて、非常に苦労したんです。しかも、NINTENDO64の時に何に苦労したかというと、それがどうしてそうなるのかが、どうもよく分からない。ある時はとても調子よく動くんだけれど、ある時は妙に性能が出ないという時があって、ツボにはまればすごく速いけれども、そうですね、チューニングしたスポーツカーみたいな感じでしょうかね。万能ではないという状態で、そのことをすごく考えて作られたのはゲームキューブというハードなんです。ゲームキューブの時に考えられたことは、今のWiiに引き継がれているのですが、こんなに時間が経ってもまだちゃんと使えているのは、その時にたぶん竹田をはじめハードのチームの皆さんがNINTENDO64の経験から学んだことを注ぎ込んで入れたからで、その時に任天堂は「ああ、やっぱりソフト開発にとっては安定して性能が出る、予想可能な状態でソフトが作れるということはいかに大事か」ということが組織として学ばれたわけですね。
 そういうようなことが、たぶん「社長が訊く」の中で出てきた、NINTENDO64時代のソフト開発ですごく苦労したという話でしたから、そういうことだとお考えください。ちなみに、先ほどのプログラマブルシェーダーなのか固定シェーダーなのかということについて言えば、固定シェーダーでできることというのは、プログラマブルシェーダーでは大抵できるわけです。プログラマブルシェーダーでできるすべてのことが固定シェーダーでもできるわけではありません。プログラマブルシェーダーでできる無限の可能性のうち、使いそうな種類、事前に選んだ種類だけ、ハードで用意してあるのが固定シェーダーだと思っていただくと良いので、表現力に一定の制限はあるのですが、ではそれはものすごく不自由かというと、普通に使いそうなことは全部用意されているので、別に劣っているわけではありません。現実に、ニンテンドー3DSでエネルギーをかけて作られた絵を見ていただくと、グラフィックスが不満だというふうには皆さんお感じになっていないと思います。ですから、後のポイントは、では消費電力とのバランスはどうなのか、性能のバランスはどうなのか、ということで、そのことがあって私たちは今回そういう選択をしたんだというふうにご理解いただければと思います。

Q 8-2

 NINTENDO64の時に苦労されたのはチューニングの部分だったと考えればいいのかということと、こういったチップというのはどういう経緯で見つけてこられるのかという点についてコメントいただきたい。

A 8-2

竹田:

 特にそういう見つけるようなノウハウがあるわけではないんですけれども、日本だけではなく、世界中の方々、この頃はヨーロッパの方々ともいろいろお付き合いが増えてきていまして、いろいろな方々とオープンにお話しするというところではないでしょうか。任天堂は、そういう(チップ開発)技術のあるような会社ではないわけですから、いろんな方と偏見なしにいろんなお付き合いができるという利点がありまして。大きな会社になると、ある部分はコンペティターであったりする部分があるんですけれど、任天堂はユニークな存在であるがゆえに、技術の会社にとってみればコンペティターではない。ですからそういう意味では、かなりいろんな全方位のお付き合いができる。この利点を活かしていくというのが一般的なお答えになるかなと思います。


岩田:

 今竹田が申し上げたことは任天堂の、あまり一般に認識されていない、ひそかな強みなのかなと思っています。例えばですけど、「加速度センサー」というデバイスがあって、加速度センサーを作った人は世界中でWiiリモコンがこんなに普及して、こんなにたくさんの加速度センサーが世の中に出回って、そしていろんなその後のデバイスに加速度センサーが使われることになるというのは、事前に予想されていなかったと思うんです。加速度センサーは、もともとリモコンのために作られたデバイスではありませんので。ということは、そういう技術の作り手から任天堂を見ていただくとどういうふうにご評価いただけるかというと、「自分たちが想像もしなかった用途で、世の中に巨大な需要を新たに創り出す可能性があって、それがうまくいった場合にはいろいろなところに波及するかもしれない」と考えていただけるということです。竹田と時々話すんですけれど、「何かあるかもしれない」とご期待いただけるので、いろいろなところからたくさん売り込みをいただけるという特殊性があるんですね。そこでたぶんすごく大事なのが「目利きの力」です。
 以前に私はこの場で「ソフトの目利き力」についてお話ししたことがありますが、「ハードの目利き力」、すなわち、「この技術は筋が良いのか良くないのか」というようなことを目利きする力がここでは非常に重要になってきます。この間、比較的その点で選んだ技術がうまく使えたかなと思うのは、例えば1T-SRAMの時などが代表例ですけれども、その事実の素性を評価して、それがまだ世の中で保証されていない段階だけれども、恐らくいけるだろうと判断し、採用し、実際にものにするという流れをとることによって、ますます新しい技術を開発された方は「任天堂なら自分たちの技術をうまく大衆化し、市場を大きくしてくれるかもしれない」というご評価をいただける構造を作り出す流れができるわけで、その点で、私たちここに並んでいる開発関係の人間のすごく重要な仕事は、いい目利きをすることなのかなと思います。


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