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3DSのアメリカ市場での立ち上げ方について。特に、早く動く人もいれば、遅く動く人もいるというマーケットで、DSの時は初速があまり出なくて、結構早めに値下げをして動かしたという経緯があったと思う。今回、先ほど普及の課題ということで、日本でも体験会の方をかなりやられるということになっているが、具体的にアメリカで、まずはコアゲーマーに向けてどのようにマーケティング施策を打っていくのかということを教えていただける範囲で教えていただきたい。また、アメリカのサードパーティーの対応も非常に重要と思っているが、アメリカのサードパーティー、ならびにリテーラー(小売店)の反応についてアップデートをお願いしたい。最後に、3DSの特に映画プレーヤーがカジュアルゲーマーに受けそうだが、日本ではフジテレビ、日テレさんと組むというアナウンスに加え、映画会社との協力体制について新情報があれば教えてほしい。 |
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岩田: 今まずご質問にありました、「ニンテンドーDSはアメリカでの初動で苦戦した」というお話、それは事実でございます。アメリカは今でこそDSがゲームボーイアドバンスのペースを上回る普及ペースになっているのですが、一時期はゲームボーイアドバンスの普及ペースに比べてニンテンドーDSの普及ペースは非常に悪い状況でして、ある時期までは、「本当にDSはアメリカで普及するのか?」と心配をされる方が市場で多かったんじゃないかというような状況でした。 取締役専務・営業本部長 波多野 信治: ソフトメーカーさんとはいろいろ、内外ともに私どももサポートさせていただきながら一緒にやらせていただいているのですが、まず国内に関して言うならば、ニンテンドー3DSは、ほとんどのパブリッシャー(発売元)さんに興味を持っていただき、かつ積極的に展開をしようと取り組んでいただいております。 岩田:
私も海外に出掛けることが多いので、海外子会社の関係者にいろいろ現地のソフトメーカーさんがどういう姿勢でニンテンドー3DSのことを考えておられるのかということを聞く機会があるのですが、ニンテンドーDSが出はじめの時よりも非常に興味を強くお持ちであると聞いていますので、少なくとも海外のパブリッシャーさんがニンテンドー3DSについて消極的であるということは全くないと思います。かなり積極的に最初から考えておられると考えていただいてよいと思います。 |
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開発費関連について。まず竹田さんにお伺いしたいのが、今回(3DSには)国産のPICA200のチップを使われていて、ファミコンにリコーのチップを使って以来で非常に期待している部分もある。アーキテクチャーを見ていると、「プログラムシェーダー」がほとんど一般的な状況下にあるにもかかわらず、なぜ今回「固定シェーダー」のチップを採用されたのか、その背景を教えていただきたい。また、1T-SRAMの時も思ったが、どうすればこのようなチップを探してこられるのか教えていただきたい。 最後に岩田さんに開発者として伺いたいが、「社長が訊く」を読んでいると、NINTENDO64の『罪と罰』のところで「うまく作らないと動かない」という話がたびたび出ていて、恐らくこれはプログラムシェーダーにかかわる部分じゃないかなと思っているが、開発した経験から見てどうなのかということを教えていただきたい。また、今のPC用のチップは消費電力が大きくなっていて、据え置きに乗せるのが難しくなってきていると思うが、経営者という立場で、将来こういう固定シェーダーのチップを使い続けるという判断をする可能性はあるか。 |
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岩田: 少しご質問が専門的でしたので、「固定シェーダー」とか「プログラマブルシェーダー」というもののことをちょっとだけお話してからお答えした方が皆さまを置いてきぼりにしなくて済むかもしれないので、そうさせていただこうと思います。 3Dのコンピューターグラフィックスのハードウェアでは、中に「シェーダー」という回路が入っているんですね。シェーダーというのは何をするかというと、一言でいうと「陰影をつけるための回路」です。立体というのはある方向から光が当たると、その光が来ている方向は明るく見えて、光が当たっていないところは暗くなるわけですが、それによって人は立体感を感じるわけですね。そういうものをどうやって実現するかというのが、15年ぐらい前に初めてゲームの世界にCGを使えるようになった非常に初歩的な段階から今日に至るまで、かなりの進歩があったんですが、だいたい2000年代に入ってから、「プログラマブルシェーダー」という、「ソフトウェアからどのような陰影づけをするかのプログラムをハードウェアに送り込めばどんなことでもできます」という万能な方法が普及したんです。それに対して、今回ニンテンドー3DSがとっている方法は、世の中で一般的に使われているプログラマブルシェーダーというものではなくて、そのプログラマブルシェーダーで実現できるいろいろな陰影づけの方法のうち、「使う組み合わせはほとんど決まっているので、この方法とこの方法とこの方法を選べるように最初から(ハードウェアで)作り込んであります」というものなので、それを「固定シェーダー」というふうにおっしゃっているんですね。それがなぜそうなったのかということや、そのことによるメリット、デメリットはどういうふうに判断したのかというご質問だというふうにご理解いただいてお聞きいただいたらよいと思います。では、竹田から。 取締役専務・総合開発本部長 竹田 玄洋: 今回固定シェーダーを選んだという理由についてですけど、私が直接それに関係はしていないんですけれども、一般的に「どちらがいい、どちらが悪い」ということではなくて、それぞれ適材適所だと思います。 宮本: 今の竹田の説明でほぼ要約していると思いますが、ソフトを作る側からすると、安定した性能が欲しいんです。ずっとさかのぼってファミコンの頃にハードウェアが自動的に全部をやってくれていたというところで、非常に安定した性能がとれていました。まあ制限は受けるんですけれども。そういう任天堂の経験則みたいなものがあって、一般的なメーカーのとる設計に沿っていくというより、「任天堂らしくていいんじゃないか」という直観のようなものもありまして、そういうことも含めて選んだわけですが、やっぱり基本は安定した性能というところだと思います。 岩田: 私は決定のプロセスに関与していましたので、私自身が提案を受けて「それで良いのではないのか」と考えた理由は、消費電力と表現力のバランスが良いと思ったからです。ですから、未来永劫にこの方法がいいのかは分かりませんけれども、今の段階で、バランスはこれがいいのかなというふうに考えたということです。ちなみに、先ほどご質問にあった「社長が訊く」で話題になっていた、「性能を出すのに苦労した」というのは、実は「安定して性能が出る機械がいい」と宮本が言う理由とも関係していまして、私も宮本も開発者として大変苦労したことで、この話をすると竹田はたぶんつらいと思うんですが、NINTENDO64の時代に結構苦労をしたんです。ファミコン、スーパーファミコンは、基本的にハードで「これはできますよ」といわれていることは必ずできるんです。しかしNINTENDO64になってガラっとハードの考え方が変わりました。「やろうと思えば何でもできます。でも総量はこれだけです」、というものになったんです。つまり「総パワーをどう割り当てるかは開発者の自由です」と言われるんですけど、開発者って欲張りですから、あっちもこっちも頑張りたくなるわけです。で、全部入れると動かないとなるわけです。例えばそれは、私が頑張るか頑張らないかだけ、あるいは宮本が頑張るか頑張らないかだけじゃなくて、1人のデザイナーが「もうちょっと自分の描いている絵をきれいにしたい」と思ってちょっと頑張ると、とたんにフレームレート(1秒間で何回画面が書き換えられるかを表した値)が下がったりということが起きて、非常に苦労したんです。しかも、NINTENDO64の時に何に苦労したかというと、それがどうしてそうなるのかが、どうもよく分からない。ある時はとても調子よく動くんだけれど、ある時は妙に性能が出ないという時があって、ツボにはまればすごく速いけれども、そうですね、チューニングしたスポーツカーみたいな感じでしょうかね。万能ではないという状態で、そのことをすごく考えて作られたのはゲームキューブというハードなんです。ゲームキューブの時に考えられたことは、今のWiiに引き継がれているのですが、こんなに時間が経ってもまだちゃんと使えているのは、その時にたぶん竹田をはじめハードのチームの皆さんがNINTENDO64の経験から学んだことを注ぎ込んで入れたからで、その時に任天堂は「ああ、やっぱりソフト開発にとっては安定して性能が出る、予想可能な状態でソフトが作れるということはいかに大事か」ということが組織として学ばれたわけですね。 |
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NINTENDO64の時に苦労されたのはチューニングの部分だったと考えればいいのかということと、こういったチップというのはどういう経緯で見つけてこられるのかという点についてコメントいただきたい。 |
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竹田: 特にそういう見つけるようなノウハウがあるわけではないんですけれども、日本だけではなく、世界中の方々、この頃はヨーロッパの方々ともいろいろお付き合いが増えてきていまして、いろいろな方々とオープンにお話しするというところではないでしょうか。任天堂は、そういう(チップ開発)技術のあるような会社ではないわけですから、いろんな方と偏見なしにいろんなお付き合いができるという利点がありまして。大きな会社になると、ある部分はコンペティターであったりする部分があるんですけれど、任天堂はユニークな存在であるがゆえに、技術の会社にとってみればコンペティターではない。ですからそういう意味では、かなりいろんな全方位のお付き合いができる。この利点を活かしていくというのが一般的なお答えになるかなと思います。 岩田: 今竹田が申し上げたことは任天堂の、あまり一般に認識されていない、ひそかな強みなのかなと思っています。例えばですけど、「加速度センサー」というデバイスがあって、加速度センサーを作った人は世界中でWiiリモコンがこんなに普及して、こんなにたくさんの加速度センサーが世の中に出回って、そしていろんなその後のデバイスに加速度センサーが使われることになるというのは、事前に予想されていなかったと思うんです。加速度センサーは、もともとリモコンのために作られたデバイスではありませんので。ということは、そういう技術の作り手から任天堂を見ていただくとどういうふうにご評価いただけるかというと、「自分たちが想像もしなかった用途で、世の中に巨大な需要を新たに創り出す可能性があって、それがうまくいった場合にはいろいろなところに波及するかもしれない」と考えていただけるということです。竹田と時々話すんですけれど、「何かあるかもしれない」とご期待いただけるので、いろいろなところからたくさん売り込みをいただけるという特殊性があるんですね。そこでたぶんすごく大事なのが「目利きの力」です。 |