株主・投資家向け情報

2011年4月26日(火)決算説明会
質疑応答
Q 4

 ニンテンドー3DSの新興国展開について。昨日、本決算の発表後にコメントをされ、比較的早い段階での展開を示唆されていたと聞いたが、価格と流通、時期について伺いたい。価格については、先進国におけるハードの価格と新興国における価格にギャップがあるという状況は、社長の考えとして許容できるかどうか。流通に関しては、どの地域が特に流通網を構築しにくいか。また、展開時期についてコメントをいただきたい。

A 4

岩田:

 既に日本、そしてアメリカ、ヨーロッパ、オーストラリアでニンテンドー3DSは発売しているわけですが、これ以外の地域についても、いわゆる新興市場といわれる地域についても、準備ができましたら順次展開していきたいと思っています。もちろん、これにはローカライズが絡んでまいります。ローカライズ一切なしでは、本当にその市場のポテンシャルのごく一部だけにしか受け入れられませんので、ローカライズの体制作り、準備が一つのポイントになるかと思います。また、価格の問題は、単にその国にとっての値ごろ感という問題以外に、例えば保護貿易主義をとっておられる国の場合は非常に高い関税がかかってしまって、結果的にゲーム機の値段が数倍になってしまうというようなこともあります。そういうものを回避するための適切な手段があるのかどうかといったことも関係してまいりますので、それも含めて考えますと、すべての新興国に一律にということにはならないかもしれません。
 しかし、今日の時点で、例えば価格をいくらにして、どこの国でいつ発売しますと申し上げられるほど細かい計画がすべての地域で煮詰まっているわけではございません。私として今日申し上げられるのは、今期中に日本、アメリカ、ヨーロッパ、オーストラリア以外の地域でも販売を始めていく予定ですということだけです。それ以上のことについては改めて固まってから、基本的には現地発で発表していきたいと思っています。

Q 5

 今後の中長期的な戦略について。特にDS以降の展開を見ると、連続性のあるイノベーションの事業展開というのが御社の特徴で、その根幹にあるのは自前主義、自社発のオリジナリティーのあるアイデアを製品化していくというところだと思うが、今後戦略的に外部リソースを積極活用して事業展開していく可能性があるのか。その場合、自社の強みとしてどの部分を残し、どの部分を外部に任せるのか。それに関連して、内部留保資金の活用の使い方を含めてコメントをいただきたい。

A 5

岩田:

 今、「自前主義」という言葉が出ましたが、この自前主義という言葉には二面性がございまして、一方では、「自社にユニークな長所があるので、自前主義でできるのはいいこと」ともとらえられますし、一方で、「自前主義にこだわったばかりに世の中の変化についていけなかった」といった言われ方をされる時はネガティブな意味になります。任天堂の場合、ハードとソフトの両方を社内で作って、お客様が世の中でまだ味わったことのない体験を新たに提案して、それは、お客様が日頃から「こういうものがほしい」とおっしゃっているわけではなくて、目の前にわれわれがご提案して初めて「ああ、そうそう、こういうもので遊んでみたかったんだよ」と言っていただけるものを作り出すということにおいて、当然ここの部分が任天堂の生命線であると思っていますので、これをどんどん外部に依存していこうとしてしまいますと、任天堂は任天堂でなくなってしまうと思います。この部分の強化や、内部の開発陣の育成というのは、任天堂にとって非常に重要なことだと思っていますし、今後とも「任天堂はそういうことが特にできる会社だね」と言われ続けたいと思っていますし、そうあるように努力したいと思っています。
 一方で、任天堂が今、世の中のスピードの変化に対して、すべて社内のリソースであらゆるものを作れるかというと、そうではありません。現に、既にいわゆるセカンドパーティーと業界で言われている、任天堂が発売しているソフトだけれども実際には他の開発会社さんで作っているソフトもあります。例えば、私自身がハル研究所という会社の出身で、この会社は『星のカービィ』とか、『大乱闘スマッシュブラザーズ』などを作った会社なのですが、任天堂ではない外部の会社で、その会社が作ったものを任天堂のブランドで売り、その開発の過程で任天堂からさまざまなアドバイスをもらう、という形でお付き合いする、そういう会社が既にたくさんあります。そういう会社さんも入れれば、全部が自前主義というわけではありません。
 一方で、特に今のネットワークにかかわる分野においては、われわれが社内のリソース、あるいは長年お付き合いしている開発会社さんとの組み合わせだけでできることでは、世の中のスピード、あるいはお客様の求めるスピードにマッチできないと思っています。これはM&Aという形になるのか、それとも提携という形になるのか、具体的に「この例はこうです」ということを今申し上げませんけれども、ただ、私たちが悪い意味で自前主義に陥って、「何でも自分たちで作らなきゃ気が済まない」となったために展開スピードが遅くなってしまっては、元も子もないと思うわけです。
 先ほどのWiiのコンセプトに関するご質問の話ともちょっと絡むのですが、私は任天堂がWiiの普及の初期にもう少しネットワークサービスで社外の方々と上手に連携できていれば、Wiiの未来は変わっていたのではないかと感じることが正直ございます。すなわち、任天堂はその時点では悪い意味で若干自前主義に陥っていたかもしれません。今は既に軌道修正をしているのですが、自前主義に悪い意味で陥らないように、われわれが本当に得意なことと、それから、われわれの社内でも、やれば一応できるけれども、もっと得意な人たちが社外にいるという場合どうするかということとは、はっきりと切り分けていきたいと思っています。その意味では、これからニンテンドー3DS、あるいは昨日お話ししましたWiiの後継機という展開の中で「ああ、あの時に岩田が言っていたのはこういうことだったんだな」とお分かりいただけるようなことがあるのではないかと思います。今日は具体的に申し上げられませんので、それはご容赦ください。

Q 6

 3月のゲームデベロッパーズカンファレンス(GDC)で、無料ゲームを作っている多数のクリエーターさんの前でゲームの量と質の話をされたと思うが、いろいろな反論も含めて、どんなフィードバックがあったか。高い価格を維持して、質を高めるためにどういう方策を考えているのか、聞かせてほしい。
 Wiiの後継機についても、株式市場ではGDCで何か発表があるかという期待があったようだが、決算発表のタイミングで話をされた意味合いを併せて聞かせてほしい。情報漏えいを避けるためなのか、E3に是非来てくれというメッセージなのか。

A 6

岩田:

 まず、GDCの私の講演についてですが、私自身は自分の講演の全文をウェブページに載せておりまして、実は一つ大変残念に思っていることがございます。
 私がゲームの量と質を対立軸として話したと報道される方が多かったのですが、せめて報道される方は、全文が日本語で載って出ているわけですから、それを読んだ上で報道していただきたいと思いました。私は量と質の対立などとは全く申し上げていません。さらに、誤解されている方の中には、「任天堂はスマートフォンやソーシャルゲームに押し込まれていて、それらを質が低いと斬り捨てた」みたいなことを書かれていたりしていましたが、そんなことは全く申し上げていないわけです。
 GDCというのは開発者の前でしゃべるわけですから、開発者のみなさんの前で、「私たちが作っているものの価値の維持ということを注意しないと、デジタルのディストリビューション(流通)革命というのは、ものすごく簡単に価値のデフレへの後押しになりますので、そうなった時にみんなが困ることになるんじゃないでしょうか」ということを言いたかっただけなのです。
 当然、われわれがずっと伝統的にやってきたビデオゲームビジネスの中にも、質の高いゲームも質の低いゲームもあります。面白いゲームも面白くないゲームもあるのは歴然とした事実です。また、任天堂がかつて発売したゲームがどんな方にも絶対に「質が高い」と言っていただけるかということは、人に好みというものがある以上、それもないと思いますし、他社さんのゲームの質が高いとか低いとかいうことを申し上げたつもりも全くありません。ただ一方で、私が「一言で言えば量と質の対立の話をした」というふうに要約できてしまう文脈で話をしたというのは、これは私の至らないところで、私が反省しなければいけないことだとも同時に受け止めています。
 私が一番申し上げたかったのは、私たちがせっかく世の中に価値を認めていただいたビデオゲーム産業というものを持続可能な状況で続けていくために、われわれは「価値の維持」ということに対して注意しないといけないですよね、ということです。これをどうしても言いたかったのです。「誤解を受けるかもしれないけれども、GDCだからこそ言おう」と思いました。ゲームを作る側の都合の話ですから、GDCがふさわしいと考えました。
 なので、私がGDCでした話は「量と質の話」ではないということは是非ご理解いただいて、もう一度文章を読んでいただくと、量と質という対立にはなっていないはずで、価値をどう維持しましょうかという話であるということはお分かりいただけるはずですので、是非よろしくお願いします。

 それから、なぜWiiの後継機についてGDCではなく今回お話ししたのかということなのですが、早くからお話しすればするほど、いろいろな形で憶測が乱れ飛んだり、あるいは、われわれもどうしてもたくさんの方にご協力いただかないと新しいゲーム機というのは作れませんので、情報が漏えいしてしまうリスクが生じたりします。いろいろなことを考えますと、任天堂が今後どんな展開をするのかということに関して非常にたくさんの方が注目をしてくださっているということもあるので、あまり早くお話をすると、E3の当日に驚きがなくなってしまうのではないかということも考えました。
 その一方で、E3の当日に突然何かを発表するのは、驚いていただくにはいいことなのですが、みなさんにはみなさんのご予定というのがございまして、「やあ、任天堂さんも人が悪いですね」、「発表するなら前もって教えといてくださいよ、ちゃんと行きますから」というようなことも同時にあるわけです。この(決算発表の)タイミングがE3に出張をご予定いただく最も遅いぎりぎりのタイミングであろうと考えたことが、昨日この話をしようと決断した理由です。


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