おはようございます。GDC(ゲームディベロッパーズカンファレンス)に再びご招待いただきまして、ありがとうございます。
一年を通じて、レポーター、金融アナリスト、ビジネスパートナーをはじめたくさんの方々にお話をするのが私の最も重要な仕事の一つです。
しかし今日のイベントは特に重要です。というのもここで、今日私は、私の同僚である皆様にお話しできるからです。
この場にいられることを私は嬉しく思います。
本日出席された皆様の中には「何か学べることがあるのではないか」と思われて参加された方もおられると思います。
そうできることを私も望んでいますが、正直申し上げまして、GDCの価値は、すべての開発者たちがお互いから学ぶことができるということです。任天堂にとってもそれは例外ではありません。そして今年、我々には話し合うべき話題が数多く存在しています。
今、開発コミュニティーの皆さんがどんなことを話しているのか、我々は皆知っていますよね。
「安定性を欠いた、とても混乱した時代になっている。」
- Lorne Lanning, Oddworld Inhabitants
「皆がより大きな賭けをするようになり、その規模は恐ろしくなりつつある。」
- Mike Capps, Epic Games
「誰もが脆弱になっている」
- Chris Taylor, Gas Powered Games
そういったコメントを同僚である開発者の皆様からお聞きするたびに、世の中が本当に変わっているのだと確信させられます。
しかし、もうあと二つ、コメントを引用させてください。
「自分たちの情熱を傾けられるものに集中すれば、結果はついてくる。受け身にならず積極的であれ」
- Jeremiah Slaczka, 5th Cell
そして恐らく我々が最も強く記憶にとどめるべき言葉は(英語で)これらたったの3語:
「content is king.(コンテンツが王様だ)」
- Adel Chaveleh, Time Gate Studios
でしょう。
この産業が進化して、供給手段やビジネスモデルが変化しても、変わらないことが一つあります。第一に必要なもの、それはやはりコンテンツなのです。
品質の高いコンテンツがなければ、本日参加された皆さんの創造力がなければ、何も生まれませんし、この業界は存在しなかったのです。
皆さんがビデオゲームユニバースの中心だということは明らかです。
さて、現状についてお話しする前に、過去25年の業界の歴史のことをお話ししたいと思いますが、自分がビデオゲーム開発者としてその25年間にずっと携わってきたことに今更ながら気づくことには、ある種ショッキングな感覚さえありますね。
2005年のGDCで申し上げましたが、私はまだ大学生だった時にゲーム開発をはじめ、友人たちとHAL研究所という会社を立ち上げました。
当時若かった私は、独学でビデオゲーム・プログラミングを無我夢中で学び、どういうわけかビデオゲームに関してほとんど理解していると思い込んでいました。
任天堂と宮本(茂)さんに初めて出会った時も同じ想いでした。
任天堂と一緒に仕事をするようになった後も、私のプログラミング技術は任天堂の誰にも負けていないと感じており、宮本さんのソフトよりも私のソフトの方が、技術的に高度だと信じていました。
そしてお客様がゲームを買われるためにお店を訪れた時にその事実は証明されると信じていました。
先ほども申し上げましたが、ゲーム開発者は互いから学ばねばなりません。宮本さんは私に痛い教訓を与えてくれました。それが、「コンテンツこそが本当に王様だ」ということです。彼のゲームは私のものに比べ遥かに多く売れました。私はその時、技術力は創造力ほどには重要でないということに気づいたのです。
正直なところ、自分を恥ずかしく思いました。
そしてそういった経験から、英語の表現を使うと、「I lost my attitude.(私は態度を改めた)」のです。
さて、より広い視点で過去25年間のことについてお話しさせてください。
我々がビデオゲームを開発し始めた時は、まだこの産業は存在していませんでした。ごく少数の人間だけがそれを本職と考えていましたが、大半の人々は趣味に過ぎないと思っていました。我々の役割を定義することさえ困難でした。ただやるべきことを順番にこなすのみでした。
もしアイデアが必要とされるならば、ゲームデザイナーになりました。
もしキャラクターが必要ならば、アーティストになりました。
もし音楽や効果音が必要なら、それを作りました。
同様に、誰が昼食の買い出しに行くか、誰が掃除をするか、そしてどうやって賃貸料を払うかを決めました。
今話していることは、皆さんがおじいさんから聞いた「昔は良かった」というお話に似ているかもしれませんが、全てが今より良かったわけではありません。
大変楽しんだのは事実です。
しかし絶対的なマイナス面がありました。それは、ほとんど利益が上がらなかったということです。
そして我々がその当時作ったものは、今日の基準からすると原始的なものでした。我々はビデオゲーム原始人でした。
今では、すべてが変わりました。すべてが大きくなっています。
グラフィックス処理能力は飛躍的に進歩しました。そしてメモリーサイズが膨大になり、ゲーム世界のサイズの限界は取り払われました。
同時に、これらには対価が必要でした。今日、大規模ゲーム作成には大人数のチーム編成が必要とされ、開発期間は長くなり 、それらに伴う経費も増加しました。
かつて、開発費が100万ドルを超えるものなど考えられないという時代もありました。
今日、多くのゲームプレイヤーの皆様は、5000万ドルやそれ以上の予算が必要なタイトルを要求します。
今でも楽しい仕事ですが、しかし賃貸料を払うよりもっと気に掛けねばならないことがたくさんあるのです。