8 | 3DSの値下げについては、たくさんの議論をされて、複数の選択肢の中から選んだ結論だと思う。E3から約2カ月が経過したが、何を見てこのハイリスク・ハイリターンの決断をしたのか。また、あくまでも経験則だが、ハードの値下げというのは、値段が段階的に下がっていって、その価格に応じてユーザー層が広がっていき、結果的にハードの寿命が延びるとこういうことだと思ったが、今回かなり一足飛びということもあり、製品の寿命そのものが短くなるという恐れはないのか。今回の判断は、直接的・間接的にWii Uに対して影響を与えないのかどうか。具体的に今回の判断をしたことによって会社、社員の仕事はどう変わるのか。これらについて聞かせてほしい。 |
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8 | 岩田: ハイリスク・ハイリターンというご指摘ですが、身もふたもない言い方をいたしますと、「そもそもゲームビジネスはハイリスク・ハイリターン」なんです。任天堂は過去に、幸運にも安定して結果を出すことができてきましたので、まるでそうではないのではないかと思われているかもしれませんが、私はハイリスク・ハイリターンだと思っています。そして、「ハイリスク・ハイリターンなビジネスであるのに、無難な判断をしていて本当に結果が出るのか」とも思っています。実は、ニンテンドーDSのチャレンジはハイリスクだったと思いますし、Wiiのチャレンジもハイリスクだったと思います。みなさんにも改めて問いかけたら同意いただけると思います。でも、過ぎてしまうと、ハイリスクであったことはどこかへ飛んでしまって、うまくいったという結果だけをご評価いただいて、それがもともと必然で起こったことだというように思われてしまいます。私自身、ニンテンドーDSやWiiを開発し、世に問い、ということを陣頭でやってきた人間として、大変なハイリスクであったと思いますし、その中で幸運にもお客様にご支持いただけて大変な結果を残すことができたと思います。今回も、もちろん考えに考え抜いて決めたことですので、それは世の中の誰よりも考えた自信はあります。そうでないと、私はこの仕事を続けてはいけないでしょうから。また、このたびの値下げによって、必ず年末に状況を大きく変え、今多くのみなさんが想像できないような状況にし、スマートフォン脅威論だったり、ソーシャルゲーム脅威論だったりを、「あれは因果じゃなかったね」と、世の中の多くの人に認めていただけるようにするのだというつもりでやっています。これがまず大前提です。 |
9 | Wii Uについて、E3での発表から2カ月弱が経ち、さまざまなフィードバックが来ていると思うが、いいフィードバック、そうでないフィードバックにはどんなものがあってそれに対してどういう検討をしているか。3DSの今回の状況を受けて、価格だけでなくてソフト、マーケティング、既存のWiiとの関係など、取り組んでいることが見えてきているものがあれば教えてほしい。 |
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9 | 岩田: Wii Uにつきましては、発売までにまだ時間があるのですが、一方で据置型のソフトというのはつくるのに非常に時間がかかるものですから、特に内容的にも、物量的にも、そういう特徴がありますので、非常にたくさんの開発者の方々にWii Uの情報をお出ししないと発売のタイミングでソフトがそろわないわけです。一方で、「任天堂はWiiの次に何を提案するのか」ということは大変世間の注目を集めていました。これはありがたいことでもあり、同時に情報の管理面では難しいことでもあるんですが、やはり公の場で何らかの形で全体の構成というものをお伝えしておきませんと、私たちの望まない形で情報がばらばらに出てしまって、その結果、私たちの望む姿でご提案ができないということを考えまして、少し早めではありましたが、今回のE3で基本構成の発表をしたわけです。 |
10 | 3DSが苦戦している理由として、もしかしたら3D自体がゲームにあまり合ってないのではないか、そう感じているユーザーが多いのではないか、と自分がユーザーとして感じている。そうした議論は社内にもあるか。DSの時もそうだが、『脳トレ』のような画期的な、意外なソフトが出て活性化したという事実があるので、3DSでもそういった今までにないような画期的なソフトも開発していると思うが、近い将来、大型のタイトルやシリーズではなくて、そういったものを期待できるか。今回の効果は年末まで待ってくださいというお話があったが、対応スピードが非常に遅いという第一印象を持った。そこがそもそも問題のように感じるが、社長はどのような認識を持っておられるのか。 |
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10 | 岩田: まず、「3Dはゲームに合っていないのではないか」というご意見についてです。3Dに魅力をどの程度感じていただくかということについて、個人差があるということに関してはもちろん認識しておりますし、社内の意見でも「3Dをすごく魅力だ」と言う人から、「自分にはほとんど魅力に感じない」と言う人まで、一定の幅があります。ですから、3Dということだけですべてのお客様に納得いただけるということではないのだと思いますが、一方で、ニンテンドー3DSの魅力は3Dというポイントだけかというと、3Dが一番誰にでも分かりやすい違いであるということだけで、いろいろな差別化のポイントがありますので、それを含めて総合的に判断をしませんと3DSで提供される新しいゲームの価値というのは見えてこないと思います。ですから、「3Dはゲームに合っていない」と思われる方でもご満足いただけるような内容にすることを目指しています。例えば私たちが年末に『スーパーマリオ3Dランド』や『マリオカート7』を出しますということを申し上げましたが、これらのソフトはこういうご意見もある中で発売するわけですから、「飛び出して見える以外に価値がない」と思われたら当然私たちの負けなわけです。当然、それだけではない魅力を提案するように準備しています。まず、「個人差として、3Dとゲームの相性が悪いと思っておられる方もおられるのは事実ですが、魅力のポイントは3Dだけがすべてではないので総合的にご判断いただきたい」というのが一点目です。 |