株主・投資家向け情報

2011年7月29日(金)第1四半期決算説明会
質疑応答
Q 8

 3DSの値下げについては、たくさんの議論をされて、複数の選択肢の中から選んだ結論だと思う。E3から約2カ月が経過したが、何を見てこのハイリスク・ハイリターンの決断をしたのか。また、あくまでも経験則だが、ハードの値下げというのは、値段が段階的に下がっていって、その価格に応じてユーザー層が広がっていき、結果的にハードの寿命が延びるとこういうことだと思ったが、今回かなり一足飛びということもあり、製品の寿命そのものが短くなるという恐れはないのか。今回の判断は、直接的・間接的にWii Uに対して影響を与えないのかどうか。具体的に今回の判断をしたことによって会社、社員の仕事はどう変わるのか。これらについて聞かせてほしい。

A 8

岩田:

 ハイリスク・ハイリターンというご指摘ですが、身もふたもない言い方をいたしますと、「そもそもゲームビジネスはハイリスク・ハイリターン」なんです。任天堂は過去に、幸運にも安定して結果を出すことができてきましたので、まるでそうではないのではないかと思われているかもしれませんが、私はハイリスク・ハイリターンだと思っています。そして、「ハイリスク・ハイリターンなビジネスであるのに、無難な判断をしていて本当に結果が出るのか」とも思っています。実は、ニンテンドーDSのチャレンジはハイリスクだったと思いますし、Wiiのチャレンジもハイリスクだったと思います。みなさんにも改めて問いかけたら同意いただけると思います。でも、過ぎてしまうと、ハイリスクであったことはどこかへ飛んでしまって、うまくいったという結果だけをご評価いただいて、それがもともと必然で起こったことだというように思われてしまいます。私自身、ニンテンドーDSやWiiを開発し、世に問い、ということを陣頭でやってきた人間として、大変なハイリスクであったと思いますし、その中で幸運にもお客様にご支持いただけて大変な結果を残すことができたと思います。今回も、もちろん考えに考え抜いて決めたことですので、それは世の中の誰よりも考えた自信はあります。そうでないと、私はこの仕事を続けてはいけないでしょうから。また、このたびの値下げによって、必ず年末に状況を大きく変え、今多くのみなさんが想像できないような状況にし、スマートフォン脅威論だったり、ソーシャルゲーム脅威論だったりを、「あれは因果じゃなかったね」と、世の中の多くの人に認めていただけるようにするのだというつもりでやっています。これがまず大前提です。
 E3後2カ月経って、何を見て判断したかというと、これは1カ所だけではありません。日本、アメリカ、ヨーロッパ、それぞれの状況、私たちが何かをしたことに対するお客様の反応、私たちの発した情報がどう伝わっているかのスピード、それから、私たちが年末に切れるカードの詳細がより具体的に見えてきて、その中で、定石でいえば、「年末にすごくいいソフトが出るんだから、それに合わせて値段を変えるのが一番いいじゃないか」ということが普通なわけです。でも、「今普通の判断をしてはダメだ」といくつかの点で感じました。それは、普通の判断では恐らくいろいろな方に驚いていただけないし、そのような方法では社会の話題にもしていただけないと思いましたし、それから、そもそもいいソフトが出る時にニンテンドー3DSの普及母数が一定以上になっていないと、なにせ「3Dは現物でしか見られない」「テレビ宣伝では伝えられない」、それから、人から人に口で伝えるのは、私たちが期待していたよりかなり難しいということを、本当に実感しましたから、そうすると、やっぱり(ハードの)母数を今から増やしておくことが必要になります。また、事実、「ただ値下げをしただけでは、一回盛り上がっても、(販売数が)すぐ元に戻るんです」と私自身以前に言っていますし、値下げだけをして何もしなければ当然そうなると思います。当然、これからいろいろな形で二の矢、三の矢と考えていますので、その二の矢、三の矢を出しながら年末の勝負ソフトのタイミングの時に一定のお客様に早く伝わり、それが早く社会の話題になり、年末に大きなムーブメントが起こるというシナリオを描きましたので、まず、そういう意味での総合的な決断をしたもので、「ここ1カ所だけを見て決めました」というものではないということはご理解ください。
 それから、「経験則として、値下げというのは少しずつするものだ」ということは、それはそうやって成功された例も世の中にたくさんありますので、その実績を私は否定するつもりはありませんが、一方で、「今回は大きなインパクトをもって流れを変える」、そして「流れを変えたところに強力なソフトを出すことで爆発的な変化を起こす」、そのことで「プラットフォームの寿命を延ばし、健全にする」という意思でやっておりますので、「寿命を短くするのではないか」というご心配とは逆に、この判断がこのプラットフォームの寿命を本来あるべきところに持っていくのだというつもりで判断をしました。
 今回の判断がWii Uにどのように影響するかというご質問についてですが、まず、私たちが一番深刻に捉えなければならないのは、やはり今回の値下げの決定によって、最初にニンテンドー3DSを真っ先に応援してくださったお客様の信頼を損ねてしまいかねないという事実だと思います。そのことに対して自分自身の責任は非常に重いと思っています。これにより、Wii Uを発売する時に「ちょっと待っていたら値段が下がるんじゃないの?」というお気持ちを残してしまう可能性を持つ、そういう副作用を持つ判断をしてしまったということです。今回は、それでもニンテンドー3DSの値下げをすることが、今、どうしても必要であると判断をさせていただいたわけで、Wii U発売の時までに私たちの信頼を取り戻せる活動をどれだけできるのかということが、すごく大きいと思っています。私たちがこの6月のE3でお見せしたWii Uは、まだまだ発売までに間がある状態で、ソフトの提案もまだ具体的ではありませんでしたから、来年具体的な提案をできるようになったタイミングで発売日や値段などをお話しするようになっていくと思いますけれども、やはり一番の影響はそこかなと思います。
 それから、会社、社員の仕事という意味では、やはり今回のことで、「(ゲームビジネスでは)たった一つ歯車が狂うだけで、会社のビジネスがこんなに変わるのだ」ということを、任天堂という組織全体が今思い知っているわけですから、そのことをむしろ今後に活かさないといけないと私は思っています。そういうことが教訓となり、任天堂が、タイミング、あえてこの言葉を使いますが、「天の時を逃さない会社になるのだ」というのが私の決意でございます。多分に精神論的ですが、ご理解ください。

Q 9

 Wii Uについて、E3での発表から2カ月弱が経ち、さまざまなフィードバックが来ていると思うが、いいフィードバック、そうでないフィードバックにはどんなものがあってそれに対してどういう検討をしているか。3DSの今回の状況を受けて、価格だけでなくてソフト、マーケティング、既存のWiiとの関係など、取り組んでいることが見えてきているものがあれば教えてほしい。

A 9

岩田:

 Wii Uにつきましては、発売までにまだ時間があるのですが、一方で据置型のソフトというのはつくるのに非常に時間がかかるものですから、特に内容的にも、物量的にも、そういう特徴がありますので、非常にたくさんの開発者の方々にWii Uの情報をお出ししないと発売のタイミングでソフトがそろわないわけです。一方で、「任天堂はWiiの次に何を提案するのか」ということは大変世間の注目を集めていました。これはありがたいことでもあり、同時に情報の管理面では難しいことでもあるんですが、やはり公の場で何らかの形で全体の構成というものをお伝えしておきませんと、私たちの望まない形で情報がばらばらに出てしまって、その結果、私たちの望む姿でご提案ができないということを考えまして、少し早めではありましたが、今回のE3で基本構成の発表をしたわけです。
 「いいフィードバックとそうでないフィードバック」というお話がございましたが、実際にE3の場で実機を触っていただけた方と、それからインターネットで遠く離れたところから発表内容を見られた方とでは、ずいぶん評価が異なるという傾向が出ているように思います。もちろん、触った方は100パーセント素晴らしいとおっしゃってくださったということではないかもしれませんし、離れてご覧になった方が全員否定的だったというわけではないのですが、明らかに、直接触られたか、そうでないかで評価の傾向に非常に大きな差が生じていたというのが私の印象です。このことは私たちにとって大きな反省でもあって、特に、今のE3というのは、E3の会場の中で起こっていること、あるいは発表会の場で起こっていることは大切なのですが、同時にインターネットを通じてご覧になっている方というのは、実際にその場におられる方よりも人数の規模が大変大きく、かつその方々がソーシャルメディアを通じて意見交換をされて世論が決まっていくという世の中になりましたので、その方たちにうまく伝わるように発表できなければ、どんなに現地にいる方が「良かった」と言ってくださっても、結果としては発表としてうまくいっていないのだと思います。現に私はたくさんのメディアの方の取材をE3で受けましたけれども、私の記憶では、半分強の記者の方が、最初か最後に「Congratulations(おめでとう)」 と言ってくださったんです。「Congratulations」と言われるのは、発表内容に対する強い賛辞と言えますし、実際に何年に一度しか経験できなくて、出来の良かったショーの時しか言っていただけません。記者の方とはそんなことをお世辞で言っていただけるような間柄ではありませんので、今年の現地での反響は大変良かったと私は思いました。ですが、現実に離れた場所では全く違う理解もあったわけなので、ここは私たちが大きく反省するべきことです。
 また、先ほど「据置型」という言葉を何気なく使ってしまいましたが、Wii UというのはWiiの後継機として発表したわけですけれども、これまでの据置型ゲーム機と少し位置づけが変わると私は思っています。今までの家庭用ゲーム機は、携帯型と据置型という二つのカテゴリーがあって、そのカテゴリーの間にはすごく分厚い壁があって全く別のものと考えられてきたのですが、Wii Uというのは家庭用テレビに接続して遊ぶことはできますけれども、いわゆる単純な据置型、すなわち「テレビの前にいる時だけ遊べます」というものではないわけです。それは、手元のコントローラに別の画面がありますから、少し違う場所で、テレビの前でなくても、テレビが別のことで占有されていても使える可能性があるわけです。ですから、リリースの中に「新しいゲーム機」と書いてあるのですが、「新しい据置型ゲーム機」と書いていないのです。これは英語に訳すとどちらも「コンソール」なので、英語ではこのニュアンスは表現されていないのですが、日本語のリリースでは「据置」という言葉を今後使わないでWii Uを提案していこうと思っています。ちなみに、現在まで携帯型ゲーム機として販売されてきたゲーム機ですが、実はかなりのお客様が家の外ではあまり使わないとおっしゃっています。これはニンテンドー3DSはぜひぜひ外に持ち出してくださいという、通信機能を充実させた機器ですので、この常識とか習慣を私たちが変えていきたいのですけれども、一方で、家の中でテレビとは関係なくちょっと遊びたいというニーズが実はものすごく大きくあるということも事実でして、そういうことにWii Uは応えていきたいと思っています。いわば、ライフスタイルが今どんどん変わってきているわけですから、テレビの前にいる時だけ遊んで、遊ぶにはテレビを占有しないと楽しめない、というプレイスタイルがだんだん時代に合わなくなってきていると私は思っています。ですから、Wii Uというのは、これからのライフスタイルの変化に対する任天堂なりの新しい回答にしたいと思っています。
 あともう一つ、今日せっかくの機会ですので、いつかお話ししようと思っていたことを一つお話ししようと思います。それは、これからテレビはどうなるのかということです。この中にも私以上に詳しい方がいらっしゃると思いますが、いろいろエレクトロニクス系の雑誌などを見ていますと、総じて「テレビはマルチスクリーン化する」、あるいは「テレビはスマートフォンと連携する」というようなこと、そういうことが未来として語られているように思います。Wii Uの提案というのは、「特に最新のテレビに買い替えていただかなくても、家のテレビがマルチスクリーンになります」というものでもあります。ちょうど日本の家庭では、つい先日の地デジ対応のために多くのご家庭でテレビが買い替えられたばかりだと私は理解していますので、家のメインのテレビがそう近い将来にものすごい量、さらに新しいテレビに置き換わるという未来は、私にはあまりイメージできないのです。家のテレビを最新のテレビに替えなくても、家のテレビがインターネットと密結合するマルチスクリーンテレビに変わるというのもWii Uが提案していることの一つで、2006年9月にWiiを発表した際に、「Wiiはゲームとテレビとインターネットと家族の関係を変える」と申し上げましたが、それをさらに高い次元で提案したいということも併せて考えています。もちろん、最上級のゲーム体験ができるという特長を軽視しているわけではなくて、それは一つの大変重要な側面ですが、それだけでは家族全員の方にとってWii Uが関係のあるものになりませんから、Wii Uを家族全員の方に関係のあるものにするために、このような側面が必要になると考えています。ですから、Wii Uというのは「テレビのある場所に縛られずに新しいプレイスタイルを提案するもの」でもありますし、「マルチスクリーンで新しい遊びを提案するもの」でもありますし、同時に「テレビの未来を先取りするもの」であるということも併せて考えている、そういう商品だとお考えください。今年はニンテンドー3DSの勝負の年と言っても差し支えない、非常に重要な時期ですし、Wii Uの発売は来年4月以降と公言しておりますし、これ以上の細かいことについてはまた、しかるべきタイミングが来ましたらお話ししようと思いますが、Wii Uというのは単にユーザーインターフェイスの目先を変えたWiiのようなものを、あるいは性能を向上させたWiiを世の中に提案しようとしているというのとは全く違う、構想と展望を持ったハードなのです。
 3DSの今回の状況についてですが、先ほど申し上げたとおり、私が「あそこがいけなかった」、「ここがいけなかった」と申し上げることが個別にピックアップされますと、これからの3DSのビジネスにプラスになると思えませんので、個別には申し上げませんけれども、たくさんの反省点がありましたので、その反省点に関して、この年末までには万全の状況をつくって、世の中に提案して、この年末に状況が大きく変えられるようにしますというのが、私たちが考えていることです。

Q 10

 3DSが苦戦している理由として、もしかしたら3D自体がゲームにあまり合ってないのではないか、そう感じているユーザーが多いのではないか、と自分がユーザーとして感じている。そうした議論は社内にもあるか。DSの時もそうだが、『脳トレ』のような画期的な、意外なソフトが出て活性化したという事実があるので、3DSでもそういった今までにないような画期的なソフトも開発していると思うが、近い将来、大型のタイトルやシリーズではなくて、そういったものを期待できるか。今回の効果は年末まで待ってくださいというお話があったが、対応スピードが非常に遅いという第一印象を持った。そこがそもそも問題のように感じるが、社長はどのような認識を持っておられるのか。

A 10

岩田:

 まず、「3Dはゲームに合っていないのではないか」というご意見についてです。3Dに魅力をどの程度感じていただくかということについて、個人差があるということに関してはもちろん認識しておりますし、社内の意見でも「3Dをすごく魅力だ」と言う人から、「自分にはほとんど魅力に感じない」と言う人まで、一定の幅があります。ですから、3Dということだけですべてのお客様に納得いただけるということではないのだと思いますが、一方で、ニンテンドー3DSの魅力は3Dというポイントだけかというと、3Dが一番誰にでも分かりやすい違いであるということだけで、いろいろな差別化のポイントがありますので、それを含めて総合的に判断をしませんと3DSで提供される新しいゲームの価値というのは見えてこないと思います。ですから、「3Dはゲームに合っていない」と思われる方でもご満足いただけるような内容にすることを目指しています。例えば私たちが年末に『スーパーマリオ3Dランド』や『マリオカート7』を出しますということを申し上げましたが、これらのソフトはこういうご意見もある中で発売するわけですから、「飛び出して見える以外に価値がない」と思われたら当然私たちの負けなわけです。当然、それだけではない魅力を提案するように準備しています。まず、「個人差として、3Dとゲームの相性が悪いと思っておられる方もおられるのは事実ですが、魅力のポイントは3Dだけがすべてではないので総合的にご判断いただきたい」というのが一点目です。
 『脳トレ』あるいは『Wii Fit』のようなソフトは、あまりにも結果が非常に大きなものになりましたので、「第二の脳トレ」、「第二のWii Fit」ということを言われるのですが、私が「実は画期的なこうこうこういうものがあります」とここで申し上げても、実際には、「そんなものが売れるのか」と言われるようなものが爆発した時に大きくなるわけです。ですから、「今これこれこういうものをつくっていまして、これを『脳トレ』のように売ります」と申し上げても、あまりリアリティーがないわけです。私たちは当然『脳トレ』のようなソフトというよりは、お客様にとって今までのシリーズのビデオゲームの枠でははまらない新しい提案については、本体の機能かもしれませんし、新しいパッケージソフトかもしれませんし、『ニンテンドーeショップ』で売るソフトかもしれませんし、(『絵心教室DS』のように)それが最初は『ニンテンドーeショップ』で販売され、それが売れたらパッケージに変わるのかもしれませんし、どういう形になるか分かりませんが、その中のどれが本当に大当たりするかというのは事前には、完全には分かりませんので、私たちは複数のそのような提案を検討していまして、それは今年度中にも出てまいりますし、来年度にもいくつか予定しているものがありますので、その中からぜひ「あのソフトが3DSの普及をさらに加速させたね」と言っていただけるようなものをつくりたいと思っています。
 私たちが発売の相当前からアピールできるのは、やはりシリーズものになってしまいます。シリーズものだから、前々からアピールして、まだ形が十分できていない段階でもお客様は価値を認めていただけるわけで、こういうもののコンセプトが斬新であればあるほど、実際に完成したものを触っていただかないとご理解いただけないのがこの世界の宿命ですので、それはご理解ください。
 それと、「年末まで待ってください」というのは、「年末まで何もしません」と申し上げているのではなくて、「ニンテンドー3DSの値下げが最大の効果を発揮するのは今年の年末なので、この最大の効果を発揮する時期を見て任天堂のビジネスというのが将来どうなるのかをご判断いただくのが最も適切だと思います」という意味で申し上げました。ですから、年末まで何もしませんということでは当然ありません。一方で、任天堂のこれまでの行動・活動において、タイミングをこの点では逃していたのではないかというご批判やご指摘があるとしたら、その中には私たちが反省しなければならないものは当然あると思いますので、その点でのご指摘において対応スピードが十分でないということがあるのでしたら、それはそのご批判を私たちは将来に活かさねばならないと思います。


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