お天気チャンネルの開発スタッフに制作にまつわる話を語ってもらいました。

※インタビュー内容は掲載日(2007年2月22日)時点のものです。

はじめに

 

環境制作部の河本です。お天気チャンネルの開発では、ニュースチャンネルに引き続き、全体のまとめ役を担当しました。

 
 

環境制作部の松下です。天気を表示する画面や地球儀などのデザインを担当しました。

 
 

企画開発部の鈴木です。気象情報会社さんなどとの窓口を担当しました。ニュースチャンネル同様、北米や欧州でも同時に公開する予定だったので、各国との連携も行いました。

 
 

研究開発部の藤川です。気象情報会社からの配信を受けて、お天気チャンネルに情報を送るサーバの仕組みを作りました。

 

ニュースチャンネルと根っこは一緒

 

お天気チャンネルの開発は、ニュースチャンネルの開発とほぼ同じスタッフで進めました。「普段ゲームをされていない方にもWiiを使っていただきたい」という発想がニュースチャンネル開発のスタート地点でしたが、この発想はお天気チャンネルも同じです。

 
 

ニュース同様、お天気もテレビのデータ放送やインターネットで簡単に知ることができる情報なので、まず、そういったものとの差別化が課題になりました。Wiiならではの見せ方として、地球儀と組み合わせて見せていくという枠組みは、わりと早くからありましたね。

 
 

そういう点で、ニュースチャンネルと根っこは一緒なんです。

 
 

ただ、地球儀が出てきた開発当初は、地球儀に各地の天気が入ったウェブページのようなデザインでした。これが次第に今のテレビっぽいデザインに向かっていったんです。

 
 

Wiiチャンネルをつくるのは、テレビのチャンネルを増やすことという発想から、まずは時計だろう、ということで左上に時刻を表示するようにしました。朝使われることを想定したときに、とにかくあわただしい時間帯に、時計は必要だと思ったんです。

 
 

あわただしいタイミングを想定しているからこそ、天気予報を見るまでの時間も短くしたかった。WiiConnect24で情報が確実にダウンロードされていてこそ実現出来る話なので、すべてのWiiが同じサーバを利用するのではなく、身近なサーバから高速にダウンロード可能な仕組みになっています。

 
 

世界の天気をまとめるのはたいへんでしたが、情報元が複数のニュースチャンネルに比べれば、気象情報は日本、海外まとめて1社からの配信だったので、開発が進めやすかった面はありましたね。

 
 

天気予報だと、もし配信された内容が間違っていてもその不具合の発見が困難だということの方が問題でした。

 
 

降水確率の表示タイミングがずれてしまう現象とか、ぱっと見ても分からないですよね。昼間に開発スタッフのだれかが見ているときなら、元データと比較してある程度はチェックできるとしても、深夜だとそうもいかない…開発時には、朝早くに来ていたプログラマがたまたま発見できた、なんて綱渡りもありましたからね。

 
 

天気にせよニュースにせよ、そういうことはゲームの開発ではなかなか無いことで、ナマモノなんだなあ、と思いました。

 

地球儀と地名

 

気象情報という、内容がまじめなものなので、あまり遊びを入れることはできません。ただ、地球儀をつかんで動かすと、→ぐりぐりっと回せるとか、手触り感のある操作を盛り込みました。

 
 

私も地球儀は気づくとくるくる回してます。くるくる回していると、ついあちこちチェックしちゃいますね。南極の気温とか、エベレストの天気とか。地球儀がなければ絶対に確認しなかった場所の天気を見てしまう。

 
 

どの地名をWiiの地球儀に表示するかもけっこう議論しました。基本的には、いわゆる市販の地球儀で表示されている都市を入れました。あと、各国から、こういうところを入れてくれというのを洗い出して、入れるものは入れました。

 
 

地球儀に表示される地名は、見る人の国によって若干異なります。たとえば日本版を見ると日本の都市が多く表示されるし、→北米版で国の設定をアメリカにすれば、アメリカの都市が全部で数百表示されます。

 
 

ただ地球は広いので、なかなかどこが重要と言い切れないところもあります。なんでこんな地名が?というのが混ざっている可能性も・・・(笑)

 
 

地球の表面の画像はNASAから提供いただいた非常にしっかりしたデータを元にしたものです。地理の学習にも良いかもしれません。

 

意外だった日本と海外との違い

 

お天気チャンネルを開発していく中で、かなり意外だったのが、天気予報に対する日本と海外の感覚の違いでした。

 
 

一番印象的だったのは、NOA (米国任天堂)から、今現在の天気を必ず表示してくれと言われたこと。私たち日本人の感覚からすると、「そんなのは窓の外を見ればいいんじゃないか」と思いますよね?でも何度も何度も確認したのですが、どうしても必要だと言われました。これは話してる相手だけが思っていることなのか、アメリカ中の人がそう思っているのか、疑心暗鬼になりながら開発をすすめていました。

 
 

結果、欧米版では、お天気チャンネルをはじめるとまず、今現在の天気が表示されるんです。

 
 

天気のマークも晴れなら赤い太陽のマーク、雨なら傘のマークとか、世界共通だろうと思っていたんです。でも海外から来た資料をみると、全然違っていました。写真のような雲やまぶしく光る太陽など、どれも写実的なマークばかりでした。

 
 

しかも、日本には無い天気があるんです。ですから、天気のマークを世界共通にするのは無理だ、と考えまして、日本国内向けと海外向けの2種類のマークを作りました。

 
 

海外向けのマークの中には、複雑な組み合わせもあって、くもりと晴れと雪がかさなっているような…つまりくもりながら晴れていて一時雪が降っているというような天気が海外にはあるらしくて。

 
 

くもりだけで何段階もあったりとか・・・

 
 

ヨーロッパから「ひょう」と「あられ」と「みぞれ」の絵はもっと表現を変えてほしいという注文もありましたよね。

 
 

「それってマークにしたらそんなに差が出ないんじゃないですかね」、と言うと「いや、違うから変えてくれ」と。

 
 

そういえば砂じん嵐というのもありましたね。

 
 

日本では砂じん嵐の天気マークなんて見かけないので、資料を送るようお願いしたりしました。

 
 

そんな感じで、お天気マークを決めるのも試行錯誤でしたね。 画面のデザインという面では、天気以外のレイアウトなんかもだいぶ違いました。日本だと降水確率は欠かせませんが、海外では、そんなものは必要ない。晴れとかくもりとかの情報と気温があればいいと。

 
 

何が大事な情報かということがまったく違うんです。洗濯指数という考え方もなくて、「ランドリーインデックス?なんだそれは?」といった返事でした。

 
 

洗濯指数は海外でも重要だろうと思っていたんですけどね。日本に比べて、湿気がないので乾きやすいのかも。最終的には紫外線指数だけになりました。

 
 

とはいえ、容量的な面でもあまり細かいバリエーションは作りにくかったので、なるべく各国共通でいけるように調整しました。

 
 

日本と海外との両方に許してもらえるように。グローバルな視点を持てるようになるためには最高の仕事でした(笑)。グローバルといえば、つい最近始まった「みんなで投票チャンネル」のワールドアンケートは世界各国の人々の考えかたの違いを知ることができますよね。

 
 

僕は投票チャンネルにもかかわってるんですが、第1回目のワールドアンケートには50万を超える投票があったんです。スタートして2日しか経っていないのにこんなにアクセスしてくれているんだとうれしくなりました。サーバー担当としては、うれしさと怖さが両方あるんですけど。

 

開発中、海外スタッフがニュースの渦中に

 

印象的だったのが、NOA(米国任天堂)からリクエストのあった「サンダーストーム」。雷を伴う嵐なんですが、私たちの感覚からすると、単独で「雷」という天気予報は見かけなくて、普通は「雨」という予報に補足として「雷を伴う」というような説明がつきますよね。だから「雷」は必要ないんじゃないかと思っていたのですが、どうもサンダーストームは単なるサンダーとは違うらしく、何が違うんだろうか、という疑念もあったんですが、重要なので必ず入れてくれと言われていて。

 
 

ちょうどそういった話をしているときに、NOA(米国任天堂)があるシアトルにサンダーストームが来て、たいへんなことになった。

 
 

何日か停電してホントに連絡がつかなくなりましたもんね。お天気チャンネルの開発終盤にもかかわらず、メールの返事がこないなあ、なんて困っていたら、「今ろうそくしかありません。このパソコンのバッテリが切れたら連絡がとれません」なんて連絡がシアトルから来て・・・

 
 

申し訳ないけど、なんだかおおげさだなあと思っていたら、おりしもそのニュースが開発中のニュースチャンネルに出てきて、木が倒れたり、何万世帯も停電して、復旧に何日もかかるほどの大災害でした。それを見て、これは本当に大変なことになっているなと。

 
 

ニュースチャンネル公開直前にも似たようなことがありましたね。ヨーロッパ北部に何十年かぶりの暴風雨がやってきて、NOE(欧州任天堂)の人たちが全員いなくなってしまったんです。

 
 

そうそう、フランクフルト近郊の暴風雨・台風警報により、全員帰宅。

 
 

それもニュースチャンネルに出ていて、ああ、本当だ!こんな大変なことが起きているのか・・・と。

 
 

一緒に仕事をしている人がその渦中にいるというライブ感。すごい説得力でした。本当にナマの情報で、生活に密着した重要な情報を扱っているんだと、あらためて実感させられました。

 

生活の中に溶け込むこと

 

デザイン面からお天気チャンネルをふりかえってみると、開発当初とはずいぶん変わった印象があります。まだ開発が始まったばかりで地球儀もなかったときは、単に今日と明日の天気を出すという、テレビのデータ放送やウェブページに近いものでしたね。

 
 

でもそのころは、今作っているのは何か違うっぽいなあ、という思いがあって。試行錯誤するうち、ここでもテレビっぽく行こうというコンセプトが出てきたんです。となると、ぱっと見たときにぱっと必要な情報が得られるようにしたいと。

 
 

情報の中で一番見せたいところはなにかと気づいたときに、ほかの要素を思いっきりズバズバと切っていけたんです。

 
 

松下さんはニンテンドーDSの『脳トレ』でも、デザインを担当したんですが、脳年齢をどーんと大きく表示するのと、「25℃」って大きく出すのと、どこか通じるところがありますよね。

 
 

テレビっぽい表現というと、やはり左上の時計がありますよね。

 
 

ゲームに興味がない人にも、「これは自分に関係のあるものだ」と少しでも認識してもらいたくて。暮らしの中にWiiを取り入れてもらうきっかけになれば、と思いました。例えば、お母さんが積極的にWiiの電源を入れてくれたらうれしいですね。

 
 

知り合いに、朝、ごはんを食べているとき、時計を確認するためだけにお天気チャンネルをつけている人がいるんです。普通のテレビ番組だとテレビに集中してしまって、ご飯が進まないらしくて。お天気チャンネルだと時計と天気だけなので、食べるのに集中できる。そういう使い方もあるのか、と気づかされました。

 
 

時計だけでなくBGMも時間によって変化しますよね。昼と夜でだいぶイメージが違っています。

 
 

最初は→夜の曲しかなかったんです。すごく良い曲なんですが、わりとゆったりした癒し系というか、少し眠たくなるような曲で、朝から眠くなるというのはちょっとどうかなあと(笑)。ということで→昼の曲も作ってもらいました。ゆったりした曲は夕方から朝まで流れます。ニュースチャンネルの「流し読み」にも似た処理があって、深夜はゆったりした曲に。ちょっとこだわりすぎなのかもしれませんが。

 
 

ただ、生活の中に自然と入り込むには、そういった点がどれだけ考えられているか、というところは大切な気もします。自分の生活のリズムやペースと合わないなあと感じるものでは、結局使われなくなってしまうと思うんです。

 
 

そういえば、ニュースとお天気チャンネルの公開後に社内外の意見を受けて、試作してみた機能があるんですよね。

 
 

別の開発チームで、音声を読み上げるライブラリの実験をしているんです。DSの『しゃべる!DSお料理ナビ』を思い浮かべていただけるとよいのですが。この読み上げ機能をニュースやお天気チャンネルで使えないか、特にニュースの流し読みで、読み上げがあれば画面を見なくても使えるじゃないかって思って。たまに固有名詞を読み間違えたりするんですけれども、それも結構いい感じに思えることも・・・。

 
 

読み間違うところがかわいいんですよね(笑)。樹木希林さんを「じゅもくのぞみばやしさん」と読んじゃうとか。

 
 

実用には相当いろんな準備が必要でしょうけど、一度見せられてしまうと・・・(笑)。

 
 

表示するお天気を、自分が住んでいる場所のほかに1,2ヵ所登録できるようにしてほしいという声もありますよね。

 
 

そういうアップデートの機会ってあってほしいと思いつつ、あったらエラいことになる…、と正直複雑です。読み上げにしても、世界中の言葉に対応するにはまだまだ多くの準備が必要になりますし、ニュースチャンネルにしても、お天気チャンネルにしても、ただ作るだけでなく、安定して動作することを確認しなければなりませんから、手元でちょっと試作してみることと、アップデートを実際に行うことは全く別次元のことになるんですね。もちろん新たなプロジェクトとしてやるとなったら自分らがやらなきゃいけないことは自覚してるんですけど(笑)

 

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