インターネットチャンネルの開発スタッフに制作にまつわる話を語ってもらいました。

※インタビュー内容は掲載日(2007年3月22日)時点のものです。
インタビュー内では、インターネットチャンネル正式版の公開に関して予定となっていますが、現在は公開しています。→詳しくはこちら

はじめに

 

開発技術本部開発技術部の吉田です。「インターネットチャンネル」全体のとりまとめを担当しました。

 
 

情報開発本部制作部の今泉です。社内の他の開発チームとの情報共有や、任天堂海外子会社との連携などを担当しました。

 
 

同じく、制作部の古川です。操作方法とデザイン監修を担当しました。

 
 

総合開発本部開発部の白川です。OperaSoftwareという、インターネットブラウザを開発しているノルウェーの会社さんとの間でプログラムなどの技術的なすりあわせを担当しました。

 
 

海外本部海外事業部の堀江です。OperaSoftwareさんとの連絡や調整、通訳を担当しました。

 

OperaSoftwareとの共同開発

 

「インターネットチャンネル」正式版「インターネットチャンネル」は、Wiiでウェブサイトを見るためのチャンネルです。現在、「ショッピングチャンネル」からお試し版がダウンロードいただける状態ですが、もうすぐ →正式版が公開予定で、開発も大詰めまで来ています。

 
 

パソコンでウェブサイトを見るためには、ブラウザというソフトが必要になりますが、Wiiの「インターネットチャンネル」はOperaSoftwareさんの開発した「Opera」というブラウザをもとにしています。「Opera」はもともとパソコン向けのブラウザだったのですが、最近では携帯電話など機能の絞られた機器でもしっかり動作できるようになっているので、Wiiにも向いているだろうということで採用しました。

 
 

ゲームソフトの開発では、最初から最後まで、画面に表示されるものは自分たちでコントロールできる、というのが普通です。ところが「インターネットチャンネル」で扱うウェブサイトというものは、さまざまな方々がさまざまな環境でつくっているものですから、おおげさに言えば、どこからどんなデータが来るかわかりません。そういう点では、ゲームソフトを作るよりもかなりトライアンドエラーが多かったです。

 
 

さまざまなウェブサイトを表示させる、という点については、やはりOperaSoftwareさんの豊富な実績に頼る部分が非常に大きかったですね。ブラウザを開発している会社として、非常に沢山のテストケースをご存知でしたので。

 
 

逆に、操作方法や画面をどう見せていくかということについては、任天堂としてゲーム制作で培ってきたノウハウを、時間をかけて共有してきましたので、今度公開する正式版では、うまくOperaSoftwareさんに活かしてもらえていると思います。

 
 

最初のうちは、操作感など微妙なニュアンスの違いがあったんです。そのためブラウザをどう改善してほしいのか、リクエストは書面ではなくて、任天堂が試作品を作って具体的に見てもらうこともありました。説明するためにOperaSoftwareさんの本社があるノルウェーに直接行ったりもしましたね。

 
 

ノルウェーとはいっても、やりとりは英語でしたので、言語の壁はあまり感じませんでした。日本とノルウェーとは時差があるので、開発のタイミングを合わせるのが大変なこともありました。

 

パソコン用のブラウザとの違い

 

最初は、OperaSoftwareさんのパソコンソフトに対する考え方と、我々のゲームソフトに対する考え方に少しブレがあったんです。パソコンのブラウザは非常に多くのことをできるようにしていく傾向があって、これはパソコンの文化だと思うんです。多少操作が複雑になっても、できることは何でも盛り込もうというか。ただし、その分マニュアルなしではなかなか全部の機能を理解できない。一方で、任天堂が開発するソフトは、マニュアルを読まなくても流れを自然と理解できる仕組みを重視しているんです。Wiiリモコンを使って片手でウェブサイトを見られるようにしようと考えたときも、Wiiリモコンは、マウスに比べて細かいところを微妙に操作するというのは向いてないかもしれませんが、どこかを「指す」という事について、直感的だと思ったので、操作方法もその部分をうまく活かせるようにしたいと考えました。たとえばWiiリモコンのカーソルは、ブラウザの上ですごく大きな指になっているんですが、これは開発の初期からこの形でした。どこにあるか一目でわかるし、画面を拡大したときにちょうどよい大きさになります。おじいちゃんやおばあちゃんにとっても、使い勝手がよいものになったと思います。

 
 

あと、家庭用のゲームソフトをリリースする時は、すごくたくさんテストしてからリリースしますから、時間も必要なんですね。ディスクとかROMは、出しちゃったらどうにもならない世界ですから。ただ、パソコンソフトの場合、将来的にネットワークアップデートできるとか、動作に不具合があってもまたソフトを再起動すればいいということが受け入れられるんですよね。でもゲームソフトの世界ではそれは許されない。ですから僕らにとっては、1回リリースするっていうことにすごい覚悟が必要なんです。開発当初、その部分の意識の違いが開発スピードの差となって現れていたように思います。

 
 

「インターネットチャンネル」は、開発当初から「リビングでインターネット」というコンセプトがありました。それで、Wiiでウェブサイトを見るってどういうことかな、とより具体的に考えたときに出てきたのが、「ソファに座って、片手でぽちぽちさわって見られるものにしよう」というビジョンでした。このビジョンは、OperaSoftwareさんにも理解していただけて、それをきっかけにだんだんお互いの目指すものに対するブレがなくなっていきましたね。

 
 

ただ、やっぱり開発当初は、どうしてもパソコンのブラウザが頭の中にあって、Wiiで操作するものとして、ブラウザの機能をどの程度まで残すべきか悩んでいたんです。そんな時、通りがかりの同僚がテレビ画面をのぞき込んできたので、「ここをこうやると見られるんだよ」と、実際に操作をしながら話をしていた時にハッとして。パソコンだと一人でこもって見てしまうんですけど、まわりの人も交えて同じ画面を見てわいわい話ができるというこの感覚は、やはりテレビだからこそ。そこからは、テレビでインターネットを見るのに必要な機能以外は、ズバッズバッと切ることができるようになりました。

 
 

私は、正直最初は「インターネットチャンネル」にどちらかというと否定的でした。でも、実際に自宅で息子と一緒に「インターネットチャンネル」を見たらすごく盛り上がったんです。ゴミ収集車とか、働く自動車の写真をテレビの画面いっぱいに拡大して見せると大興奮で(笑)。テレビならではってこういうことか、と実感しました。

 
 

テレビで見ていた映画やドラマについて、その場ですぐウェブサイトに行けるのは便利だと思います。わざわざ別の部屋に行ってパソコンを立ち上げて見るまでにはけっこう手間がかかりますよね。

 
 

最近、検索ワードが出るテレビCMがものすごく増えてますよね。そんな時にWiiはぴったりじゃないかと思いますね。

 

正式版のこと

 

正式版では、検索ボタンがつきますので、TVで見た後にすぐ検索する、という事がさらに気軽にできるようになると思います。
スタートページに検索が追加 ツールバーに検索が追加

 
 

複数のカーソルを表示みんなでテレビの前でわいわいできるように、正式版では、2つめ以降のWiiリモコンのカーソルも表示されます。1つめのWiiリモコン以外では操作はできませんが、「ここを見て」とか、「こっちをクリックして」という感じで、画面の中を指さしながらコミュニケーションができます。

 
 

「インターネットチャンネル」のお試し版ができて、私たち自身、家族や知人の反応を実感できましたし、ユーザーサポートやクラブニンテンドーのアンケートなど、すごく大勢の方から感想をいただきました。検索ボタンや半透明カーソルも、いただいた意見を参考にしながら固めていったものです。

 
 

お試し版と比べて、特に大きく変わったのは、ズームとスクロールと動作速度です。

 
 

まず、正式版ではズームは2種類あります。1つめはお試し版でも搭載されていた、カーソルのあるエリアを自動的に大きくするズームです。そして、正式版で加えた2つめは、一定倍率でズームができる多段階ズームを搭載しています。この2種類のズームは、お客さんのお好みによって、切り替えられるようになっています。

 
 

ズームに関連して、指摘が多かったのが、文字に関することでした。お試し版は文字が小さくてズームしてもにじんで読みづらいといった意見を多くいただきました。社内からもニンテンドーDSの「脳を鍛える大人のDSトレーニング」の文字の大きさを見習え、といった声があったりして・・・。

 
 

正式版では、アウトラインフォントという機能を使っているので、どんなに拡大しても文字がにじんで読みにくくなるということはありません。 →文字をぐーんと引き延ばしても、きれいに表示されます。

 
 

それと、文字を読みやすくするために、ワイドテレビに表示する場合でも、あえて画面サイズを削って横幅800ピクセルにしたんです。表示されるエリアはちょっとせまくなりますが、その分全体が大きめに表示されますので、より見やすい画面になったと思います。

 
 

スクロールに関しても、いろいろなご意見をいただきました。「どうやってスクロールするのか分かりにくい」とか、「仕組みが分からない」ということをよくご指摘いただきました。

 
 

正式版に向けて、8種類ぐらい、新たにスクロールの試作品を作ってみたんです。その中で、社内でモニターしたとき、はじめて触った人が一番わかりやすいといってくださったスクロールを、正式版では実装することにしました。仕組みとしては、Bボタンを押したときのカーソル位置からの方向と距離に応じて速度が変わる、というものなのですが・・・これは口で説明するのがむずかしいので、ぜひ実際に触っていただければと思います。

 
 

また、 →Bボタンを押しはじめたところからガイドがでるようになったので、どの方向にどれくらいのスピードでスクロールしているかも、しっかりわかるようになったと思います。

 
 

それと、正式版では十字ボタンでもスクロールできるようになっています。十字ボタンだと画面を指していなくてもスクロールできるので、便利だと思います。

 
 

大きく改善したもうひとつの点が、動作速度です。特に、起動にかかる時間と、お気に入りを表示する速度については、お客さんからもたくさんご指摘をいただきましたし、自分たちでもすごく気になっていたところだったので、最優先で取り組みました。結果として、起動時間は5秒以上短縮され、お気に入りについてはたくさん登録していても開いたらすぐ使えるようになっています。

 
 

起動時間とお気に入りの動作速度については、詳細にプログラムを調べて、かなり具体的にOperaSoftwareさんと調整していきました。ここは、任天堂社内での開発経験が役に立っています。ただ、今後、リリースまでにさらに短くしていきたいという思いはありますね。

 
 

→ツールバーを消せる機能も正式版では搭載しました。お客さんからも消したいという要望が非常に多くて。実は、お試し版を出す以前の段階ですでにツールバーは消せるようになっていたんですが、ツールバーが消えたときにお客さんが操作に迷わないだろうか、などの懸念点があって踏み切れなかったんです。お試し版を通じて、使い方をご理解いただける手応えがありましたので、正式版では、しばらくすると自動的に消えるモードや、ボタンを押すと消えるモードなど、お客さんのお好みで切り替えができるようになります。どういうタイミングで消えるのがよいか、といった部分は現在もかなり時間をかけて調整しています。

 
 

クリックしようとしたら、ツールバーがでてきてクリックできない、とか、そういった部分をどう解決するか、議論を重ねて今のような状態になっています。消すぐらい簡単だと思われがちなんですけど、あらゆるウェブページに対応するように動作させないといけないので、実は全然そんなことないんです。

 
 

ハードウェアキーボードに対応してほしい、というリクエストも数多くいただきました。コストの問題など、検討すべきことがいろいろあって現段階では未対応ですが、文字入力には便利ですし、将来的には考えていきたいですね。それと、お試し版のソフトウエアキーボードは、半角と全角の違いがわかりにくくて、半角が入力できないというお問い合わせをものすごくいただいたんです。もちろん正式版では、半角全角をわかりやすくしたり、「www.」や「.co.jp」といった定型で入力するものに関しては、画面にあらかじめ表示して、簡単に入力できるようにしました。使い勝手はずいぶん向上したと思います。

 
 

また、お試し版では表示されないページというのも、ずいぶん解消できたと思います。お客さんからたくさんご指摘いただいた、「mixi」なども見られるようになっています。ただ、対応は日々行っているんですが、ウェブの世界は一日一日どんどん進化していって、動作チェックしている間にも仕様が変わっているケースがしばしばありますので、どうしても時間がかかってしまいます。

 
 

「インターネットチャンネル」の正式版のリリースについてあらためてお話したいと思います。これまで3月末にとアナウンスしていたのですが、お試し版へのたくさんのご意見や、いま申し上げたような改善点、それに加えてできるだけ多くのウェブコンテンツが問題なく表示できるような調整に、思った以上に時間がかかっています。お試し版のようなもれがないように、時間をかけて調整するということで、4月中には、「ショッピングチャンネル」からダウンロードいただけるよう、作業を進めています。結果的にリリースが遅くなってしまい、大変申し訳ないのですが、われわれも鋭意努力しておりますので、もうしばらくお待ちください。

 

インターネットチャンネル向けのウェブサイト

 

「インターネットチャンネル」ができてから、「Wiiのインターネットチャンネルで見てください」というウェブサイトが増えてきているようです。

 
 

私たちは今のところブラウザを作っただけなんですよね。でもお客さんが自分たちの手でコンテンツを作って、みんなで使って楽しんでくださっている。私たちの手の届かない世界で、結果的に「インターネットチャンネル」を盛り上げていただけるというのは、本当にありがたいことだと思っています。

 
 

中にはこんなことまでできるのか、という驚きもありましたよね。それに任天堂が企画として考えていたようなことが先にお客さんから実現したような形でできあがってくることもあって。たぶん任天堂の製品でお客さんにここまで何かを開放したというのは初めてではないでしょうか。我々が箱を作って、お客さんが箱の中身を作ってくれるという双方向的なものは。将来的にどうふくらんでいくのかわくわくしています。

 
 

こちらが投げたものを、しっかり受け止めて投げ返していただいているような印象ですね。お試し版でお客さんとキャッチボールできたような気持ちというか。

 
 

厳しい批判も含めていろんなご意見が聞けたことは本当にいい経験になりました。

 

リビングでインターネット

 

家族がリビングにいるときに、インターネットチャンネルを立ち上げて、どんなページでもいいですから開いてみてほしいと思いますね。そのときに、後ろでほかの人が見ていたら、きっとそこでパソコンで見ていたのとは違う見え方がすると思うんです。ぜひ、家族みんなでいっしょに使ってみてください。

 
 

そうですね。買い物とか、旅行とか、家族であれこれ決めながら見るのもいいんですが、いつもパソコンで見ているものをみんなで見て、「ああ、うちの奥さんはいつもこんなところを見ているんだ」みたいな新しい発見があるのもいいなあと思います。逆もありそうですが(笑)。

 
 

それと、インターネットに触れたことのない人にも、世の中って便利になったねって、言ってもらいたいですよね。たとえば、おじいちゃんと「温泉行こうか」という話をしたときに、どんな温泉があるかがテレビ画面にぱっと出る。「テレビでいまこんなことできるの?」「いや、テレビじゃなくて、この機械(Wii)で見られるんだよ」なんて会話を期待したいです(笑)。

 
 

最近動画コンテンツがすごい勢いでネットの世界では増えていますよね。動画とテレビの相性は抜群にいいですから、ぜひ「インターネットチャンネル」で見ていただきたいと思います。ネット上にある動画をテレビでみる人が増えると、インターネットのすごく大きな転換になるような気がします。

 
 

これまで、ほぼパソコン専用に近かったウェブサイトの世界が、テレビに来るというのは大きな変化だと思うんです。そして少しずつテレビで見るためのコンテンツも現れて、将来的にはウェブサイトはテレビで見るもの、なんてところまで行ってしまうかもしれない。

 
 

パソコン用のウェブサイトとは違う、Wiiだけのページが作れるような仕掛けを用意したいですね。

 
 

Wiiがテレビでインターネットを見るためのスタンダードになってくれたらうれしいんですが。そこまで行くと、起動時間ももっと短くしたり、敷居をさらに下げたりしないと(笑)。

 

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