Wiiショッピングチャンネルの開発スタッフに制作にまつわる話を語ってもらいました。

※インタビュー内容は掲載日(2007年3月29日)時点のものです。

はじめに

 

制作部の水木です。「Wiiショッピングチャンネル」のとりまとめを担当しました。

 
 

制作部の春花です。操作画面のデザインを担当しました。

 
 

研究開発部の今元です。「Wiiショッピングチャンネル」のサーバの仕様のとりまとめを担当しました。

 
 

研究開発部の小山です。「Wiiショッピングチャンネル」のサーバ開発・運用に携わった海外のパートナー会社との調整などを担当しました。

 

これをやらねば・・・!

 

「Wiiショッピングチャンネル」メニュー画面「Wiiショッピングチャンネル」は、「バーチャルコンソール」対応ソフトや、新しく追加されるチャンネルを購入・ダウンロードする窓口となるチャンネルです。任天堂がはじめてダウンロード販売に挑戦するということもあり、開発自体はかなり早い段階からはじまっていました。

 
 

ショッピング自体の仕組みや操作の骨格はだいたいできていて、あとはお客さんが操作するWii側の画面作りができれば、という状態で水木さんたちと合流したんですよね。

 
 

もともとはWiiメニューの開発チームが担当する予定だったのですが、Wiiメニューそのものの開発に手一杯で、しかも周りを見渡してもみんな手が離せない。これはもう私がやるしかないと思いました。私は当時「Wii Sports」と「はじめてのWii」の開発を担当していたのですが、この2本のソフトの開発が軌道にのった頃、「Wiiショッピングチャンネル」の開発チームに合流したんです。

 
 

私は別のプロジェクトに関わっていたのですが、水木さんが「春花さん、ショッピングチャンネルがピンチです!」って「バーン」と扉を開けて飛び込んできて(笑)。

 
 

動くと決めたら一直線です(笑)。とにかくデザインを担当してくれる人を確保しようと思って、デザイナーをとりまとめている春花さんに相談したんですが、ちょうどWiiの各ソフトの追い込みの時期だったので、デザイナーがみんな出払っていたんです。

 
 

そこで、「どこか他のプロジェクトからデザイナーをなんとか借りられないか」と考えて、宮本(茂)さんたちに相談しに行ったんです。でも「どのプロジェクトも止められない」という話になって、どうしようか・・・となったんですが、そのとき、なぜかみんなが僕を見ていて(笑)。

 
 

宮本さんからも「春花さん、やってもらえない?」と言われたんですよね。本来はデザイナーを取りまとめる役割なのにいきなり最前線に指名という。

 
 

宮本さんから直接指名され、さらに会社としてWiiという一大プロジェクトの立ち上げですし、「これをやらねば男がすたる」ということで(笑)。

 
 

頼もしいお二人に来ていただけて、本当にありがたかったです。当時はちょうどWii立ち上げでみんな出払っていて、「Wiiショッピングチャンネル」チームにはしばらく人が来そうにないなあ・・・と覚悟していたので。

 
 

ただ、デモ版は既にあったので、肉付けしてくれる人さえ来てもらえればいい、という見通しはあったんです。

 
 

それで、担当すると決まってから3日か、4日目ぐらいには、もう岩田さんにデザイン案を見せに行ったんです。デモ版があったので、すぐに作業に取りかかれましたが、デモ版が作られたのはずいぶん前で、Wiiがどんなイメージなのか、といったことはまだ固まっていなかった頃のもので。それもあって、ずいぶん無機質で、機能だけがもりこまれているような形からWiiらしさを加えていきました。

 
 

表示項目とか基本的なところは変わらなかったですけど、デザインはデモ版からガラっと変わりましたね。

 

商品棚をデザインする

 

Wiiチャンネルの開発に関わるということで、Wiiメニューに関わっているスタッフに話を聞いたんですが、「それぞれのチャンネルは、雑多でバラバラな個性があっていい」といった言葉があったんです。それなら「Wiiショッピングチャンネル」なりの味付けが必要だな、と考えていました。

 
 

ただ、あくまで買い物をしていただくのが目的ですから、あまり偏ったデザインや、何かをモチーフにするのはむずかしいとも思いました。商品を載せる棚が目立ちすぎるのも変だろうと。

 
 

カラフルな棚を作ったところで、多くのお客さんの好みにあわなかったら台無しですしね。なのでWiiそのもののイメージカラーを踏襲した雰囲気にしようという事になったんです。

 
 

情報をどう整理するか、いろいろな通信販売のウェブサイトを参考にしてみたんですが、1ページ毎の情報が多くて、Wiiで目指しているものとは違うと思いました。

 
 

ウェブに慣れていない人にも使いやすいようにというのは、Wiiらしさのひとつだと思うんです。そのためには、Wiiリモコンで操作しやすいよう、画面の中で何をしたらいいのかがすぐわかるように、まずは最低限の情報以外はそぎ落としていく必要があると考えました。

 
 

それでデザイン作業に入っていくんですが、「Wiiショッピングチャンネル」の仕組み上、デザインしたものを画面で確認するには、一度サーバに組み込んで確認する必要がありました。デザインができあがるたびに、サーバーを共同開発している海外のパートナー会社に依頼して・・・ということを繰り返していたので、デザインにかかる手間は通常のゲームの開発よりも大きかったですね。

 
 

海外とのやりとりになると、微妙なニュアンスを言葉で伝えるのが本当に難しいんです。それに時差もある。データを渡して1日後にできあがった画面を見てみたらイメージと違うものになっていた、ということも当初はありました。それと、操作画面は海外向けにいくつものバージョンを作るんですが、ここでも思わぬ言葉の壁があったりして。日本語なら短い言葉で済む表現が、ドイツ語やオランダ語だと、すごく長くなってしまったりするんです。

 
 

決まったスペースなのに、長い言葉や短い言葉がいろいろと混在してしまうんですよね。以前ゲームキューブで開発した「マリオカート ダブルダッシュ!!」が、日米欧ほぼ同時発売だったんですが、その時の経験があったので、海外とのやりとりの大変さは何となくつかめていました。

 
 

その時の経験があったからこそ、水木さんは「いつまでに、これこれができていないと間に合いません」と常に周りに叫び回ったわけで、それが結果的に間に合わせる大きな力になったと思います。とにかく実体験に基づくリアリティが効きましたね。

 

世界同時公開

 

世界同時に公開するうえで、真っ先にやらなければならなかったのが、技術の前に、まず法律でした。やはり「課金」という要素があるので、法律的にクリアにしなければいけない部分が沢山ありました。日本に住んでいるので、日本の法律はわりと常識的に理解できるんですが、海外の法律となると、なかなかそうもいきません。

 
 

たとえばヨーロッパだと20カ国、30カ国とあって、それぞれ法律も税金の仕組みも違う。また、アメリカに至っては、州ごとに税率が違います。

 
 

国内外の法務的な問題や、税務・会計の問題について、他部門と連携して時間をかけてかなり議論しましたし、その結果、海外、国内ともに現在のようなWiiポイントの仕組みと、取り扱いに達することができました。おかげで海外事情にずいぶん詳しくなりました。

 
 

通常のソフト開発なら開発部門だけの調整で済むんですが、「Wiiショッピングチャンネル」は、むしろまったく新しいサービス・新しいビジネスモデルの開発なので、海外も含めてとにかく関係部門がとても多いプロジェクトでした。

 
 

日本と海外の違いといえば、ソフトの内容をあらかじめ示したり、年齢制限を表示したりするソフトに対する分類、いわゆる「レイティング表記」も課題の一つでした。各国ごとに審査機関のマークも異なりますし、様々なバリエーションがあるんです。

 
 

デザインを進めるにあたって、世界的にどういう団体があって、どういう年齢制限があってということに詳しくなりましたね。ヨーロッパの国々の中には同じ大きな審査機関に所属しているにも関わらず、各国でそれぞれ独自のレイティング基準があったりとか、暴力表現がある表記とか、お酒が出てくる表記とか・・・すごく種類が多いんです。しかもソフトによってはこのジャンルのマークがいくつも入ったり、注釈が必要だったりとどんどん細かくなっていく。

 
 

ソフトの紹介画面も、わかりやすく大きくしようという目標があったので、そういったレイティング情報をうまくおさめるのは大変でした。あまり細かい情報をいれるとテレビの画面では字が小さくなりすぎて読みづらくなりますので。

 
 

15インチのテレビでも字やマークがきちんと読み取れるように、というのが私たちのひとつの基準で、字やマークがきちんと読みとれるかについてはかなり石橋を叩きながらデザインしました。

 
 

デザイン作業では、必ず入れなければならない要素があったり、注意書きが入ったりと、説明書やパッケージデザインに近い感覚でしたね。いろんな決まりがあって、その決まりの中で、どのようにまとめ上げるかという。

 
 

目立つ部分ではないけれど、かなり責任が大きい作業だったと思います。

 

Wiiとバーチャルコンソール

 

自分でソフトを購入すると、→Wiiメニューに自分が購入したソフトのアイコンが増えるんですけど、これが妙にうれしいんですよね。

 
 

Wiiメニューのマス目が埋まっていくのが無性にうれしい。「ポケットモンスター」のモンスター図鑑みたいに空いているマスがあるから、埋める楽しみがあるというか。

 
 

私のWiiメニューは3ページ目まで埋まっちゃいました。クラシックコントローラと5000ポイントのカードのセットを2つ買ったんですけど、10000ポイントあると、ソフトを購入しても購入してもまだ余っているというすごく裕福な感じが味わえます(笑)。

 
 

少年時代の自分に教えてあげたいですよね(笑)。開発中の話なんですが、動作チェックを手伝ってくれていたスタッフが、ダウンロードした「PCエンジン」のゲームを一生懸命遊んでいたんです。それを見たときに「Wiiってなんか変なハードだなあ」と思いましたね(笑)。任天堂のゲーム機で他社さんのハードで出ていたソフトが遊べてるぞって。そのときに、いろんなゲームがどんどんWiiメニューに置かれていくっていうのはおもしろいだろうなと実感しました。

 
 

たしかにWiiメニューにファミコンのアイコンが出ていると、なにか不思議な感じがしましたよね。

 
 

実は初期のデモ版のソフトでは、操作にはゲームキューブのコントローラを使っていたんです。でもこれを、Wiiリモコンに切り替えるとなかなかうまく動作しなくて・・・。はじめてWiiリモコンでダウンロードに成功したとき、すごく「ホッ」としましたね。やっとWiiらしくなったな、と。サーバの担当だと自分の仕事がどう役に立つかって実感しにくい部分があったりするんですけど、ダウンロードして、Wiiリモコンで遊ぶ、という一連の流れを体験すると、「そうか、みんなこうやって遊ぶんだな」とリアリティを感じられました。Wiiが実際に家の中でどんな風に遊ばれるのかを想像できたので。自分の仕事の役割や価値を再認識しました。

 

ソフト屋魂

 

「Wiiショッピングチャンネル」では、→BGMにも耳を傾けていただきたいんです。そもそもダウンロード販売にBGMがいるのか、という議論があって。でも、お店でもBGMは流れてるよね、ということで「どうぶつの森」シリーズの音楽を担当した戸高さんにお願いしたんです。あの曲のおかげで、ダウンロードまでいかなくても、ウインドウショッピング感覚で楽しめるチャンネルになったんじゃないかと思います。いままでのゲームとは勝手がだいぶ違うので、作曲にはかなり苦労されたそうですけれども。

 
 

ゲームじゃないのにダウンロード中にマリオが出てくるという不思議な感じも、BGMによってうまくまとまっていると思います。

 
 

「Wiiショッピングチャンネル」の開発は、わかりやすさ重視の部分があって、お遊びの要素をあまり入れることができなかったところもあったんです。でも、そんな中でも積極的に遊びを盛り込んだのが、→マリオが出てくるダウンロード表示なんです。

 
 

ダウンロード表示で→ファイアマリオが出てきたときにAボタンを押すと、ファイアを投げるというのは、広く知られているようなんですが・・・。

 
 

実は、極めて低い確率で→マリオとルイージが2人で泳いでいるアニメーションが出るときがあるんです。これはほとんど知られていないみたいなんですよね。このまま言わないと闇に埋もれてしまいそうなんで、この際だから言っちゃいます(笑)。

 
 

たぶん見た人はいると思うんですが、それがレアだとは気づかずに「ああ、泳いでいるな~」と思っているだけかもしれないですけど(笑)。レアすぎましたか・・・?

 
 

遊びの要素とはいっても、実は宮本さんにしっかりチェックしてもらって「マリオを左右に走らせたら?」とか、いろんな指示を入れていただいてるんです。ソフト屋の魂が入っている部分ですね(笑)。ちなみに、ダウンロード中のアニメーションは全部で6種類あります。それと、ダウンロード中にマリオがとっているコインは、1枚が1%で、ちゃんと100枚とったらダウンロード終了という仕組みになってるんです。ただ、データ量や受信速度によってはコインの枚数が省略されることもあります。

 
 

コインがチャリチャリチャリ~と速いスピードで出てくるときは、どんどんダウンロードしているということです。逆に、チャリン・・・・・・・・・・・・チャリンとしか出てこない場合は回線が遅いか、データ量がかなり大きいということですね。

 
 

ちなみに、回線が遅いとダウンロードにすごく時間がかかると思うんです。ただし、そこでもし何かがあって電源が切れたり、接続が切れたりしても、なんどでもダウンロードしなおせるので大丈夫です。お金だけとられてダウンロードできないということは絶対にありえませんので。

 
 

それと、お客さんそれぞれのWiiが、どのソフトをダウンロードしたかはサーバに記録されています。だからWiiメニューでゲームを消してしまっても、お金を再度払うことなくダウンロードできるようになっています。

 
 

Wiiメニューには、空いているコマが48個しかないので、それ以上ダウンロードしても入らないんじゃないか?と心配される方もいらっしゃると思いますが、買ったソフトは何度でもダウンロードできますので、消していただいても大丈夫なんです。

 
 

なんぼでもダウンロードしてくださいということですね(笑)。

 

今後の「Wiiショッピングチャンネル」

 

「Wiiショッピングチャンネル」って「Wiiスポーツ」や「ゼルダの伝説」のような看板ソフトみたいには注目を浴びないんですけど、実は利用者も多いし、新しいチャンネルが追加されると、必ず「Wiiショッピングチャンネル」を通じて世の中に配信される。これは、ちょっと不思議な感じがしますね。

 
 

実際、「インターネットチャンネル」のお試し版が配られたり、「みんなで投票チャンネル」がはじまったのも、直接Wiiメニューにポンと増えるんじゃなく、「Wiiショッピングチャンネル」を経由しているわけですよね。「Wiiショッピングチャンネル」がWiiのチャンネルを増やすために本当に機能しているということを改めて実感できました。

 
 

ちなみに、サーバ側で調べると、どれくらいダウンロードされましたという情報が見られるんですが、「Wiiショッピングチャンネル」開始当初は「こんなもんかな」と普通に見ていたんですけど、「インターネットチャンネル」を配信したと同時にいきなり数十倍に増えたんです。

 
 

バーチャルコンソールのゲームのひとつひとつは容量がそれほど大きくないものが多いんですが、「インターネットチャンネル」は容量が他のゲームの何倍もありましたからね。これほどにダウンロードしてもらえるとは・・・。

 
 

先日「みんなで投票チャンネル」を公開したときも同じだったんですが、お客さんの反応がすごく早いし、「Wiiショッピングチャンネル」の可能性が広がったなと思いましたね。

 
 

親戚とかに「Wiiはお前のとこの会社の商品やろ?」と言われることが多くなってきたんです。それもかなり年配の、普通であればゲーム機のことなんか話題にしない人たちから言われるんです。つい最近も、知り合いから「インターネットチャンネル」をダウンロードしたよ、と言われて、自分がやったことが人に影響を与えているんだなあと実感しました。

 
 

すごく個人的な希望なんですけど、もっと博物館のようになったらおもしろいなあ、と。たとえば、100人の方々に「思い出のゲームって何ですか?」と聞くと100の思い出のゲームがあるかもしれない。「このタイトルさえあればいい」という1本では、その思いを汲むことができていないんじゃないかと思うんです。だからそういうひとつひとつの思い出みたいなものをこれからどこまでピックアップできるかは、個人的にもすごく楽しみにしています。

 
 

昔のアーケード版のゲームとかも遊びたいです。ファミコン版ではなく、アーケード版の「ドンキーコング」とか。宮本さんもアーケード版のほうがこだわりが強いそうですし。

 
 

今、携帯電話でマンガを読む人が増えているそうなんですけど、マンガをWiiでダウンロードしてテレビで見るとか、Wiiならではの何かが加わればけっこうおもしろいかもしれないですよね。

 
 

結局「Wiiならでは」というのがいちばん大切でしょうね。たとえば「ニュースチャンネル」に流し読みがあったり、「お天気チャンネル」に地球儀があったり、「みんなで投票チャンネル」にMiiがあったりと、チャンネルそれぞれにWiiならではの個性があると思うんです。マンガや映像の配信にしても、Wiiならではの表現方法が見つかったときに、また新しいチャンネルが生まれるかもしれないですね。

 

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