10 | 貴社は据置型ゲーム機をメインストリームにするために大きな足跡を残され、間違いなく購買層を拡大されましたし、Wii Uでも同じことをしようとされているのだと思います。ただ1つ私がチャンスを逃していると思うのは、一般の消費者には他の選択もあり、いわゆるハードコア・ゲーマーよりも無料で遊ぶ選択等をしやすいのではないでしょうか。どのようにしてそうした消費者に多くのソフトを購入させるのでしょうか。一般の消費者には、オンラインでの遊びは高い価値を持ち簡単に高額の売上が可能とはいっても抵抗感が強いかもしれませんが、どのようにして貴社が拡大した購買層の購入を伸ばすのでしょうか。 |
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岩田: 一般的に、“エクスパンディッド・オーディエンス”と言われる人たちは、ゲームの情報を能動的に集めない人が多いんです。 すなわち、彼らは、自分でゲーム雑誌を読むこともないし、彼らは任天堂のウェブサイトで製品を調べることも能動的にはしません。 ですから、彼らに「自分が遊ぶべき次の1本は何なんだろう、何を買えばハズレなく必ず楽しめるのだろう」ということを、どうコミュニケーションするかが非常に大事になると思います。 人は誰でも、やっぱり買い物で失敗したくはないし、お金を使ってソフトを買ってみたらつまらなくて全然遊ばなかったとなると、その人がゲームから離れてしまうきっかけを作ることになりますから、なるべくそのお客さんにマッチした満足度の高いものを届けたいと思っています。 そうすると、自分と嗜好が合う、自分と似たタイプの人が、他にどんなもので楽しんでいて、どう満足しているかということを、どう能動的に動かない人に送り届けるかということになるわけです。 それはニンテンドー3DSを毎日持ち歩いてもらいたいとか、Wiiの電源を毎日入れて欲しいと思ってやってきていることが、そのための試みでもあるのですが、今度は特にオンラインの仕組みをうまく使って、人と人との間でどのゲームを遊ぶと楽しいかという情報がソーシャルに行き来しあうような構造を作ることでこの問題を是非解決したいと思っていまして、具体的にそういう仕組みがこのようにできましたという段階になったら、より詳しくご説明しようと思います。私もこの問題を重要な問題だと思っていて、是非、大きなイノベーションを起こしたいと思っています。 |
11 | WiiとDSの前年比での急減速を見ると、Wii Uの発売前に手持ち資金がショートしてしまうようなことはないという自信はどこから来るのでしょうか? そういった心配はされていないとすれば、なぜでしょうか。 |
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岩田: まず、我々のビジネスが、だんだんレイトアダプター、レイトマジョリティ中心になっていくことによって、結果的にどうしてもビジネスが年末商戦集中型になっていくということは先ほどお話ししたとおりです。 そうである以上、今の季節のアウトプットだけを見て、今年のビジネスがどうなるかというのを去年との前年比較で見て、去年との前年比較で何パーセントだから今年の年間セールスもそうなると考えてしまうのは早計だと思っています。 それと、ニンテンドー3DSの勢いがどれくらい取り戻せるかということによってもシナリオが変わると思います。 一方で、任天堂のキャッシュポジションが非常に特殊で、現預金を現在の規模で保有して経営をさせていただいている大きな理由が、やはり娯楽というのは需要が事前に保障されているものでなく、「必ずこれだけは自動的に売れていく」というものではないだけに、やはり短期的には波が生じるので、そのことに対する備えが要るということがもちろんあるわけです。 ただ短期的に多少の波があるにせよ、中期的、長期的にはそれにしっかり会社としての目標にマッチさせていくというのが私たちの責任ですので、そのようなご心配がかかることのないように、努力したいと思います。 |
12 | 携帯ゲームや携帯機器向けの進化し続けるゲームによる継続的な脅威にどう対応されますか。今後数年間にわたってその脅威はどのような展開を見せると考えておられますか。特に、安価で気軽に買えるものについてはどうですか。 |
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岩田: 今年、私は、ゲームディベロッパーズカンファレンス(GDC)という場で、スピーチをさせていただきました。そこで私は「ビデオゲームの作り手は、ビデオゲームの価値をどう守るかということを考えることがすごく大事になると思う」ということを言いました。 残念ながら、多少、誤解が生じてしまって、「量よりも質が大事だと言った」とか、「ソーシャルプラットフォームとかモバイルプラットフォームを批判した」というような報道もあったのですが、私が言いたかったのは、「ビデオゲーム開発者は、自分たちの作るゲームソフトの価値がどんどん下がっていくことに対して、非常に強く敏感であるべきではないか」ということです。そうしないと、たぶん産業は維持できなくなるということを申し上げたかったのです。 私は元々、モバイルゲームの台頭が、我々のビデオゲーム専用機のビジネスに直接競合し、直接脅威になるとは思っていません。というのは、我々は、モバイルゲームではできないユニークな体験を提案し続ける必要がありますし、そもそも(モバイルゲーム登場前から)同じことをやっていたら飽きられるというのが私たちの仕事の特質でしたから、その点ではあまり心配はしていないのですが、ビデオゲームと呼ばれるものの価値が、どんどん下がっていくことに関しては、心配はしています。 |